怪・その5

「掛け軸の壁の向こう」

友だちと伊豆へ行った時のことです。

旅館で温泉に入ってご馳走を食べて、
布団でガールズトークを続けていると、
どこかから壁を叩くが聞こえます。

コンコン、コンコン‥‥コン‥‥

小さな音ですが、
不規則に長く続いていました。

友人に

「聞こえるよね?」

と確認すると、友人も

「うん‥‥音がしてるよね」

どうやら頭の上にある、
床の間の掛け軸の方からしているようでした。

「掛け軸の裏からしてない?」

「そうだと思う」

2人とも黙り込みました。

私たちの部屋は3階、廊下の端で角部屋。
床の間の裏に隣室は無いのです。

「どうする?」

と友だちが言いましたが、疲れていた私は

「寝るか。寝ちゃえば聞こえないよ」

若さゆえの寝付きの良さで、
怪奇現象を無視しました。

翌朝、2人で散歩に出て、
「私たちの部屋はあそこだよね」と
旅館を見上げながら角を曲がって
息をのみました。

掛け軸の壁の向こう、道を挟んだ隣接地には
ブルーシートも生々しい
真っ黒な焼け跡が建っていました。

入居者のお年寄りが
何人も亡くなる火災のあった、
老人ホームの跡地だったのです。

(s)

こわいね!
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2018-08-02-THU