怪・その3

「約束を守ってくれた」

11年前、私が理学療法士として
地方の病院に勤務していた時の体験です。

当時、リハビリを担当させていただいていたのは
患者さまのHさん。
Hさんとは、私が新米の理学療法士として
働き始めた頃からのお付き合いで、
冗談も言い合えるような関係でした。

Hさんは骨折で入院していたのですが、
松葉杖を使ってなんとか歩けるようになった頃に、
事情があって別の病院に転院することになったのです。

「治るまで転院したくないんだけど‥‥仕方ないよね」

と言うHさんを、

「杖なしで歩けるようになったら、
歩いてるところを見せにきてくださいね。
約束ですよ!」

と送り出しました。

その1ヶ月ほど後のこと、自宅で寝ていると、
ベッドの周りを誰かがぐるぐると歩き回るのです。

ちょっとすり足で歩く、
特徴的な足音が延々と続きます。

一人暮らしだし、
玄関も窓も施錠しているのにおかしい!

時々足音が止まって
顔を覗き込まれているような感じもあり、
私は怖くて目を開けられず、
必死で寝たふりをしていました。

でもこの足音、なんだか聞き覚えがあるなぁ‥‥
そんな事を考えているうちに、
足音は消えてしまいました。

その後、結局寝付けずに寝不足のまま出勤して、
同僚に「こんなことがあって寝不足なの‥‥」と
愚痴った数日後、
看護師さんから

「Hさん、転院先で急変して亡くなったのよ」

と聞かされ、ようやく
「あ! あの歩き方はHさんのだ!!」と気付いた私。

転院するときにした
「歩けるようになったら見せにきて」という約束を
守ってくれたのだなぁと嬉しかったけれど、
あの時目を開けていたらどうなっていただろう‥‥と
少し背筋がひんやりした出来事でした。

(Y)

こわいね!
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2018-08-01-WED