怪・その6

「うわさの踏切」

30年ほど前の体験です。

その日私は、当時流行っていた
ロング丈のサーキュラースカート
(広げると円になるほどボリュームのあるスカート) の
ワンピースを着て、
自転車で街中に買い物に出掛けました。

帰り道。
我が家の500メートル程手前には、
日中は1時間に一本位しか電車が通らない
長閑な単線の鉄道が通っております。

そこを渡る
ひと気のない小さな踏切の手前、
5メートル程の場所に差し掛かった時のことです。

いきなり、乗っていた自転車のペダルが
びくとも動かなくなりました。
不思議に思って後ろを見てみたところ、
何とスカートの裾が後輪に絡まって
きつく食い込んでいました。

慌てて裾を引っ張って
何とか外そうとしたのですが、
引っ張れば引っ張る程、
逆にきつく絡まって
どうしても外すことが出来ません。

そのうちに、何故か、
自転車がフラフラと前に動き始めました。

私は身長が160センチはあるので、
両足ともしっかり地面についていたのに、
何故か踏み止まることが出来ず、
自転車は勝手にどんどん前に進んで行きます。

慌てる私を乗せたまま、
自転車はとうとう踏切の中まで入って行き、
そこで何故か前輪がクイッと横に曲がり、
踏切内のレールの窪みにスポッと挟まって
抜けなくなりました。

そして、踏切の真ん中で
思い切り横倒しになってしまいました。

私は自転車を何とか
レールの窪みから外そうとしましたが、
いくら引っ張っても抜けず。
しかも、スカートも後輪に絡んだまま外せず。

踏切に、自転車ごと
縛りつけられたような格好になってしまいました。

しかも、見渡す限り
誰も通りかかるような気配もありません。

私は必死で自転車を引っ張り続け、
何とかレールから外すことが出来たのですが、
スカートは外せなかったので、
仕方なく倒れた自転車ごと
這って踏切の外まで移動し、
踏切の外まで脱出出来たところで、
スカートを引きちぎって、
やっと自転車から解放されました。

慌てて踏切内に戻って、
辺りに散乱した自分の荷物を拾い集めて
自転車のカゴに戻しましたが、
自転車は完全に壊れて
タイヤが動かなくなっていました。

壊れた自転車を引きずりながら歩き出し、
ほんの20メートルばかり進んだところで、
背後で踏切の警報機が鳴り出し、
遮断機が降りました。

私はすんでのところで、命拾いしたのでした。

この踏切は昔から
地元では事故が多いことで有名で、
中学生が歩いて渡っていて、
靴がレールに挟まって動けなくなったまま
事故に遭ったとか、
世間話をしながら歩いていたグループの1人が、
警報機が鳴っているのに
どんどん中に入って行ってしまい、
仲間が慌てて引きずり戻したところ、
本人は全く警報機の音が聞こえていなかった、
だとか、さまざまな噂話は
私も子供の頃から聞かされていたけれど、
まさか自分が恐ろしい体験をする羽目になるとは
思ってもみませんでした。

私にとっては、
引きずり込まれた、
としか思えないこの体験。
あれから30年以上経ちますが、
私は今だに、
怖くて踏切を一人で渡ることが出来ません。
(d)

こわいね!
2017-08-22-TUE