怪・その37

「父が教えてくれた」

7年前、私は、
気胸という病気になり手術をしました。

手術後、麻酔が切れて
ちらっと目覚めました。
が、まだ意識は朦朧としていました。

看護婦さんが、
「痛みが出ると思うので、
 ナースコールを押して下さい。
 座薬を入れます。
 それと、痰も出した方がいいので
 箱ティッシュをここに置いておきますね。」

というのをうつらうつら聞いて
再び眠りに落ちました。

2度目に目が覚めた時、
それはそれはひどい痛みに襲われていました。
痰も出さないと苦しいのです。

しかし、痛いのと
管でつながれて身動きできないのと
真夜中の暗闇とで、
ナースコールのボタンも
箱ティッシュも
どこにあるか分かりません。
手を伸ばしても触れません。

思わず、
「お父さあーん、痛ーい! 助けてえ〜」と
亡くなった父親の助けを求めていました。

すると、

右後方で

「ガサゴソ、ガサゴソ」

と、何回も音がしました。

右手を伸ばすと
ティッシュに触れました。

左の方でも
「ガサガサ」と音がし、
ナースコールのボタンに触れました。

ああ〜助かった。
痰も処理でき、看護婦さんから
座薬も入れてもらえました。
ほんとうに助けられました。

これは、
父が場所を示してくれたとしか思えません。
それとも、側にまで持ってきてくれたの?

「お父さんありがとう。」
と心から感謝しました。

「お父さんも、
 病気で床に伏していたとき
 苦しかったんだね。
 今、そのつらさがわかるよ。」
と涙が出ました。

その時、真っ暗だった部屋の壁に、
しばらくの間、ほの白い光が
ゆらゆら揺らめいて消えました。父の返事のように。
今思い出しても、不思議なあたたかな体験でした。

(m)

こわいね!
2016-08-31-WED