怪・その31

「肝試しの途中で」

林間学校の時のことですから、
私は小学5年でした。

夜はお決まりの、肝試し。
暗いけれど舗装された遊歩道だし、
お化け役は先生だし、独りじゃないし、
グループの皆と一緒に興奮して
キャーキャー言いながら
コースを進んで行きました。

ゴールも近くなったかという頃、

私は向こうから人が来るのに気付きました。

頭からシーツをすっぽりかぶり、

黒いジャージにスニーカーで、

スタスタとゆるい坂を下って来ます。

何組の先生なのよ、
脅かし役なら隠れていて
ヌッと出るのが定番でしょうに‥‥。

いやいや、すれ違いざまに
「わーっ!」なんて向かってくるのかも‥‥。

多少身構えつつ
距離をとりながらすれ違いましたが、
その先生は私達には見向きもせず、
スタスタ行ってしまいました。

拍子抜けしながら
「何、今の‥‥?」と言うと、
皆キョトンとします。

どうも話が通じない。

後から来たグループの友達も
「そんな所に先生いたっけ?」と言う。

私達のグループは
わりと最後の方に出発したので、
これから脅かし場所に
スタンバイするところだったとも思えない。


いたずら好きな皆で
私を担いでいるのかと思ったほどですが、
先生がどこにいるかなんて分かるわけもない。

訳が分からなくなりました。

でも騒ぎ立てると
「もう、怖がりなんだから!」
「冗談ばっかり!」
と笑われそうな気がして、それからは
その話を誰にもしないでいましたが‥‥。


今考えると、なぜ、
目出し穴もないシーツをただかぶっただけで、
灯りもなしに、足元を気にするふうでもなく、
歩いていられたのか‥‥。


あの「先生」とすれ違う時、
あんな近くだったのに
皆まったく動じなかった‥‥
というより完全無視だったのを見て、
(みんな、肝が据わってるなあ)と
思っていましたが、

もしかして本当に5人とも
気付いていなかったんだろうかと
最近思うようになりました。


いつの間にかあれから25年。
毎夏思い出しながら
やっとそこに思い至ったとは、
我ながら間抜けな話です。

(春巻き)

こわいね!
2015-08-28-FRI