おさるアイコン ほぼ日の怪談2010
怪・その39
「交差点にて」


4年ほど前の夏のことです。

会社からの帰りが遅くなった私は、
真っ暗になってしまった道を
車で走っていました。

田舎のことですので、
田んぼの真ん中を走るその道の周囲には、
ぽつぽつとある街灯以外に
明かりはありません。

いつもは気にならないのですが、
その日は妙に暗闇が怖くて
オーディオのボリュームを
少し上げて走っていました。

そして、
ようやく周囲に田んぼしかない道を終え、
もうすぐ住宅地の明かりが見えてくるという
交差点に差し掛かりました。

その交差点も信号しか明かりがなく
さっさと通過したかったのですが、
運悪く赤信号で停車してしまいました。

私は暗闇の怖さを紛らわせるつもりで

「車も歩行者もいない、
 こんな夜遅くの道で
 信号待ちかぁ」

と独り言を言いました。

するとその瞬間、
何の音もなく
車が傾きました。

その揺れは
何かが落ちてきてぶつかったような
揺れ方ではありませんでした。

第一、車体が揺れるほどの
重さのものがぶつかれば
音のしないはずがありません。

運転席に座っていた者の感触としては、
左後方のタイヤの辺りの車体に、
誰かが寄りかかったような揺れ方に感じました。

しかし、
夜中の田んぼの真ん中の道でのことです。
もし歩いている人がいたならば、
何らかの明かりを
もって歩いているはず。

そんなものはまったく見えませんでした。
もっとも、
当時はそんなことを考える余裕はありません。

私は暗闇に対する恐怖が募っていたせいもあり、

その瞬間、
凍りついたようになってしまいました。

恐ろしさで振り返ることも、
ルームミラーをのぞくこともできず
信号が変わるまで
ぴくりとも動けない状態でした。

結局その後は何事もなく帰宅したのですが、
あれは一体なんだったのでしょう。

そして、あの時振り返って見たら
何が見えたのだろう。

今でもその交差点を通る度に考えています。

(中川)

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2010-09-01-WED