おさるアイコン ほぼ日の怪談2009
怪・その34
お風呂場にて


ひとりでお風呂に入れるようになった頃のことです。

狭い浴室で髪を洗い、
体を洗い始めた時のこと。

とうとつに、背後の空気が
微風と共に動く気配がしました。

振り返る間もなく、次の瞬間には私の背中へ
生暖かい「何か」が
べったりとしがみついてきたのです。

ぴたりとくっついた背中から両腕を回すように、
おなかの辺りにも、
帯状の生温さが2つ、まとわりつきます。

もちろん、首の後ろにも。
震える手で体を流し、
あらためてお湯に浸かりました。

ところが、いつまで経っても、
体がまったく温まりません。
腕はお湯の温かさを感じているのに、

背中とお腹の、
ぺったりしがみつかれている部分だけは
生温い感触だけが続き、
お湯の温度が全く感じられないのです。

まるで、見えない空気の層が
人の形をしてまとわりついて、
そこだけお湯につかれていないようでした。

さすがに、涙目になってしまい、
後ろの「何か」を刺激しないよう
静かに、しかしできる限りの早さで
身支度を整えると
居間へと駆け込みました。

居間への扉をくぐった瞬間、
ふっ‥‥と生温い感触が消えうせました。

その後同じ体験をすることは
幸いありませんでしたが、
しばらくの間、
入浴が憂鬱でたまりませんでした。

実家に帰ってお風呂を借りるたび、
ふと思い出してしまう体験です。

(まったくリラックスできない)


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2009-08-30-SUN