おさるアイコン ほぼ日の怪談2009
怪・その16
車の中を通って


わたしは毎年夏になると
音楽の野外フェスに行きます。

土日に行われるので、
金曜の夜中に車で現地へ向かうのです。

数年前、友人の運転で夜中に出発し、
途中で高速を降りて一般道を走っていました。

ウトウトしていたわたしは
ふと目を覚ましました。

私以外の友人もみな目を覚まし、
少し会話が続いたとき、
車はT字路をゆっくり右折。

曲ったところにすぐ横断歩道がありました。

そこを男の人が渡っていました。

とっさにわたしは友人が
その男の人を轢いてしまうと思い、
はっとした瞬間に
男の人は車を通り過ぎていました。

ちょうど運転者の右斜め前方から、
後部座席の左側(助手席の後ろ)に座っていた
わたしの後ろまで。

びっくりして振り返ると
まだ男の人は
横断歩道を渡っていました‥‥‥。

友人に「どうしたの?」と
話しかけられましたが、
びっくりしたのと怖いのとでしばらく声が出ず、
しばらく走ったときに
やっと見たことを話すと、

運転者は、
横断歩道にそんな人は見なかった、
と言いました。

そいういえば、夜中の横断歩道ですし、
薄暗い街灯に照らされて
確かにその人の顔や体は暗くて見えなかったのに、

なぜかわたしには男の人だとわかったのです。

暗くて見えなかったというよりむしろ、
それは黒い影絵のようだった
と言った方が正しいかもしれません。

以来、毎年車でそこを通りかかるときには
友人は面白そうに
わたしがまた何かを見ないか
期待しているようですが、

わたしはなるべく
寝てしまうようにしています。

(ナヨミ)


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2009-08-16-SUN