おさるアイコン ほぼ日の怪談2008
怪・その31
耳元の声


今から3年前、
お盆で実家に帰った時のことです。

地元のあまりの暑さに閉口し、
夜涼しくなってから
母を乗せて車で買い物にでかけました。

20時頃に買い物を終え、
駐車場から自宅まで
5分ほどの道のりを母と歩いていた時、
突然耳元で
男性の声が聞こえました。

「ホンマに怖かった‥‥」と。

人の気配も何もない時に
後ろから男の人に話しかけられ、
ビクッとして反射的に振り返りました。

誰もいませんでした。

道はまっすぐで隠れるところもありません。
そのまま惰性で数歩、歩いたのですが、
立ち止まってしまいました。

その声は、
普通に話しかけられたように
聞こえたのではなく、
イヤホンで音楽を聞くときのように、
耳の奥で聞こえました。

恐る恐る、もう一度振り返りましたが
やはり誰もいませんでした。

今まで奇妙な体験は何度かしていましたが、
母に話しても一笑に付されて
理詰めでせめられることが多かったので、
母にはそういう話を
あまりしなくなっていました。

しかし、その日は
耳の中ではっきり声がしたために
距離の近さを感じて怖かったのと、
母が私の挙動を不審な目をして見ていたのとで
「今、私ら以外に誰もいなかったよね?」
と、わかりきったことを確認してしまいました。

母は当然のように誰もいなかったと答え
「どうしたの?」と聞き返してきました。

迷った挙句、笑い飛ばされると思いながら
男の人の声が
耳の中で聞こえた話を母に話しました。

いつものように笑って
科学的な話をしてくると思った母が、
その日は私の話を笑わずに

「以前、この道を駐車場と
 反対方向に行ったところにあったお宅が
 火事で全焼したのよ。
 その時、そのお宅のご家族が
 1人を除いて全員亡くなったの。
 全部で7人だったかな。
 ‥‥お盆だからね」

と静かに言いました。

笑わない母のお陰で、余計に怖くなりました。

(sesame)
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2008-08-25-MON