おさるアイコン ほぼ日の怪談2006

怪・その26
「留守番電話」

数年前、弟が体験した悲しい話しです。
弟の友達のAくんは、
将来を約束した彼女と暮らしていました。
ある夏の日、仕事が休みだったAくんは
ナイターを観ながら彼女の帰りを待っていました。
その日は家で一緒に夕食を食べる約束を
していたそうです。
ビールがきれていることに気ずき、
Aくんは近所の自販機までビールを買いに行きます。
携帯は電池が切れていたので
部屋に置いたままでしたが、
ほんの数分間のことでした。
その頃、仕事を終えた彼女は、
Aくんに電話をかけますが、携帯は繋がらないし
家の電話は出ないので、留守電を入れます。

「Aくんお風呂なの?
 これから帰るから待っててね。」

帰ってきたAくんは彼女からのメッセージを聞き、
すぐに電話をかけますが
彼女の携帯は繋がらず、いくら待っても
彼女が帰って来ることもありませんでした。

不幸にもメッセージを入れた直後、
彼女は車にはねられて亡くなってしまってのです。

それからAくんの落胆は激しく、
自分のせいで、彼女は帰りを急ぎ、
車道に飛び出してしまったと思い込み
毎日毎日、最後のメッセージを繰り返し聞いては
泣き暮らしていたそうです。

みるみるやつれていくAくんを心配した仲間達は、
このままではAくんまで死なせてしまうと危ぶみ、
相談した結果、彼女の一周忌を機に、
みんなでお金を出し合って
Aくんを引っ越しさせる計画を立てました。

嫌がるAくんを説得して、
あの留守番電話のメッセージも、仲間の立ち会いの元、
消去しました。
仲間の気持ちが通じたのか、
その頃からAくんはしだいに
元気を取り戻しつつありました。

そして引っ越しの日。
業者を頼まず、仲間4人とAくんの5人で
梱包と運送をこなし、新しい部屋に全ての段ボールを
運び終え、一息ついた時、Aくんは、
みんなのためにビールを買って来てくれたそうです。

ビールの袋に手をのばした弟は、中を見て、
「ん? 5人なのに、なんで6本?」と思った、

その次の瞬間、
山積みの段ボールの中から、
確かに消去したはずの、あのメッセージが

「これから帰るから待っててね。」
「これから帰るから待っててね。」
「これから帰るから待っててね。」
‥‥‥‥‥‥。

凍りつく弟達4人とは、うらはらに
6本目のビールを玄関のドアの方に差し出しながら
満面の笑顔で、Aくんは言ったそうです。
「お帰り、待ってたよ。」

(らんこ)


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2006-08-23-WED