谷川俊太郎の『家族の肖像』。

ビギナーじゃない人たちを
ビギナーにさせたもの。

CD『家族の肖像』の音楽を担当したのは、
谷川賢作さんです。
(賢作さんの公式ホームページは、こちら
賢作さんの音楽には、映画やテレビなどで
親しんでいらっしゃる方も多いと思います。
今日は、『家族の肖像』について、
賢作さんにお話しいただくことにします。

── 『家族の肖像』は、
詩と音楽のやりとりがとにかく絶妙で、
聴く側の思考や感覚が
際限なく広がっていくようなかんじです。
今回は、全曲書き下ろして作曲しようって
最初に思ったんですよ。
そこからやっぱり違ったんだと思います。
先日の詩の回のときにも書いたんですが
武満徹さんの「family tree」が
頭の中に最初にあって、
あれをこえられるわけはないんだけれども、
まずは、いま、自分にできる作曲を
しっかりやろうと意気込んだんです。

前作までのぼくだったら、
朗読の分量を多くするために、きっと
曲を少なくしていったと思います。
今回は、それはなかった。
「ここまでは、いける」という
自信があったんです。
そういう意味では、
一歩も引かなかったです。

そして、
「いま」と「祖母」を
谷川俊太郎が書き下ろしてくれたということが
すごくうれしかった。
── 最初、俊太郎さんは
詩の「書き下ろし」はやらないと言っていたと
聞いたのですが。
CDの冒頭の曲を聴いて
考えを変えてくれたんです。
今回のCDの冒頭は「木管四重奏でいく」
ということを
ぼくは決めていました。
そしたら、奏者の方達のなかに
父の友人がいるということもあって
その曲の録音に、ふらっと来てくれたんです。
そして、黙って聴いていて、ぼそっと
「じゃあ、おれ、オープニングの詩を書くよ」
って、言ってくれた。
そうやって、あのすばらしい
「いま」という詩ができてきた。

その「いま」の朗読録音をしているとき、
「この詩に、音楽で応えたい」
そういう思いが
どうしようもなく沸きあがってきて、
「どこへでもいけるよ」ができた。
あの詩と音楽の呼応が、
このCDが生まれる
大切な瞬間だったと思います。
── 冒頭、ほんとにすごいですよね。
CDを試聴しだしたときは、正直、
最初の5つぐらいまでしか聴けませんでした。
その先に行くのがなんだか怖くて。
そうなの? ははは。
今回のCDは、このことをはじめ、
ぼくの意識の変化が大きく出ました。
「詩の朗読が終わったときの
 余韻に切れ込んで行く」
そういうことを意識したんです。

その切れ込みがすごくうまくいっているのが、
書き下ろしの詩「いま」と
「どこへでもいけるよ」という曲、
それから、
「おっかさん」と「おねえちゃんのはつこい」
のつながり。
ここは、すごいです。聴きどころ。
相変わらず自画自賛。恥ずかしい、、、
── 「ほぼ日」乗組員のなかでは、とくに
男性が切り込まれていましたね。
自分から子どもが出てきたり老人が出てきたり、
父親を思ったり、
いろいろしてしまったみたいです。
「おうおう、寿司食いねえ、
 もっと食いねえ」(笑)
それは意外なことでうれしいなあ。
ぼくと同年代のおやじ、お父さんたちにも、
ぜひ聴いてほしい。
── 曲のタイトルも、すべてすてきですね。
これも賢作さんが考えるんですよね?
ありがとう。じつは、
インストの曲のタイトルは、
いつもはなかなかできないんですよ。
だけど今回はね、どの曲もなぜか、
自然に降りてきたかんじがします。
── 「いもうととリスのぬいぐるみ」。
あ、それ、ほんとうはライオンなんですよ。
うちの妹が持っていた「ノッシー」
(妹の名前は志野、そのうらがえし)
というライオンのぬいぐるみ。

ぼくが10歳で妹が7つのとき、
家族で大阪万博に行ったんです。
そのとき泊まったホテルのお店にあった
1m50cmくらいある
ライオンの大きなぬいぐるみに
妹がひとめぼれしちゃってね。

ぼくは子供心に
「こんなでっかいもん妹に買っちゃって、
 うちの親、おかしいんじゃないの?
 どうすんだよ」
って思ってました。
あとで、むちゃむちゃかわいがったんだけど。
── じゃあ、ほんとはライオンなんですね。
ええ。でも、曲のタイトルには
なぜか、かわいいリスを採用しました。
でも、そういう具体的なエピソードがあって
曲を書いているわけではないんですけれどもね。
できあがって、なんとなくそのときのことが
降ってきたんです。
それをもう一回、フィルターとおして
できあがった 。
── ところで、今回は
アカペラのテーマをいれて歌が3曲
入っていますね。
歌をうたってくれた村上ゆきさんは、
ほんとうに積極的に取り組んでくれました。
それで彼女がスタジオに来て
ポロンとピアノを引いた瞬間、
「あれ?」って思ったんですよ。
ちがう楽器だったらバンド組んだだろうな、
と思うくらい、
サウンド感に共感したんです。
「さようなら」にしても「ひとり」にしても、
何にも説明してないんですよ。
メロディラインとコードネームだけ渡して、
ぼくがこんなかんじでって、
少し弾いたら
もう通じあってた。音楽ってすごい!


「ひとり」の譜面を前に、
打ち合わせをする村上さんと賢作さん。
── 「さようなら」は、ぼく、って
アカペラで出てくるのが
すごくいいですね。
あの曲は、じつはイントロがついていたんです。
でも、朗読の「おじいさん」と並ぶという配列が
ちらっと頭にあったんで、
声つながりにしてみたらいきるだろうなあと、
出だしはアカペラでうたっていただきました。
── 最後の余韻がほんとに長く続きますね。
CDを聴き終えて見る風景が
ちょっとかわったようになりました。
糸井さんにも言葉をたくさんいただいて、
ほんとうにありがとうございます。
作り手として、やっぱり届くとうれしい。
できるだけ多くの人に届きますように。
── 俊太郎さん、賢作さんのほかに
歌の村上ゆきさん、朗読に覚和歌子さん、
その他多くのミュージシャンの方々が
参加していらっしゃいます。
このCDができた秘密は、
いったい何だったんでしょう?
うーん。
‥‥ビギナーズラックかな。
── もうみんな、ビギナーじゃないのに?
そうそう。
ビギナーじゃない人たちが
集まっているのに、
みんながビギナーの感覚を持って、
というかんじかなあ。
それで家族というテーマの
谷川俊太郎の詩のいくつもが
モチベーションを高めたのかも?

だけど、こんな快心作を出しちゃって、
この(俊太郎&賢作の)
ふたりの今後のライブ活動って‥‥
どうしていったらいいんでしょうね?
ふたりとも、再現とか苦手だからなあ。
なにかいつも新しいこと
やりたいほうだし。
「家族の焦燥」なんちゃって〜(笑)
── ‥‥いや、もしかしたら
「焦燥」もアリかもしれませんが、
ぜひ、いろんなところで
さらに精力的な活動を
展開していただきたいです。
たのしみにしています。
今日はありがとうございました。

6月4日(金)に銀座の王子ホールで
谷川俊太郎さんと賢作さんの
コンサートがあります。
チケットはすでに完売しているのですが、
「ほぼ日」でも
なにかの形でお伝えできればと考えていますよ!
では、今日の家族の肖像写真を見てみましょう。

朝ごはんの家族

ごはんを残すことについて

子どものころの私と兄が朝ごはんを食べています。
なんでハダカかはわかりません。
ごはん、残してますね。
私は牛乳がとくに嫌いで、
わが家では「おみそ汁のおつゆは残していい」
というキマリがあったので
おみそ汁に牛乳を入れて、ごまかそうとしてばれて
「のみなさい!」と怒られ、のんだ味を
今でも覚えています。
(きかん坊)


俊太郎
ひとつの家族の歴史を、
何千枚もの朝ごはんの写真だけで構成したら、
立派なドラマになると思う。

賢作
うげっ ぜ、ぜんぶのまされたの?
みそ牛乳。私もしいたけ苦手だったけど、
今のしいたけは味がしない。
昔はもっと『ザ・しいたけ』という
味だったのに。

いくら嫌いだからって、
みそ汁に牛乳投入は‥‥。
きっとおわんに白茶色した液体が
なみなみあふれていたのでしょうね。

家族の肖像のご投稿は、
5月いっぱいが締め切りです。
「大賞」の賞品を何にするのか、
現在おふたりが思案中‥‥です。


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俊太郎さんと賢作さん


2004-05-26-WED

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