YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson908
   「試す」と「育てる」読者の声



「試す」と「育てる」は、ひと口に教育といっても違う。

どのくらい力がついたか正確に測るため、
生徒に自分でやらせる=「試す」と、

教師が知識・方法・技術を「伝授」し、
できるようになるまで訓練する=「育てる」。

試してばかり、ダメ出ししては怒っている人もいるが、
「試す」と「育てる」を、賢く使い分ける必要がある、
という先週のコラム、

「試すと育てる」

に読者はどう感じたのだろう?
さっそくおたよりを紹介しよう。


<優位に立とうとする心>

仕事で、先輩や上司から事前指導のないまま
現場に放り出されることがあります。

「お手並み拝見」スタイルの先輩や上司は、
ちょっとしたミスに対して
待ってましたと言わんばかりにご指導をしてくださいます。

人は対人関係の中で
自然と「相手よりも優位に立とう」とする性質がある

このやり方は楽なんです。
最初に教えてくれよ、が本音。

「仕事は自分で考えて行うもの」、果たしてそれで
後輩や部下は健やかに育つでしょうか?

指導をしてから経験させることで、
成功体験の可能性を広げ、

そしてそれは
指導者自身の学び・喜びになります。

私も中間管理職として
ご指導いただくと同時に、部下を育成していく立場。

部下の育成=自身の学び、
という感覚を大切にしながらやっていきたい。

(豊酒)



「お客さんを実験台にするんですか?」

これは私が企業に勤めていたとき聞いた、
忘れられない言葉。

社会人なんだからデキてあたりまえ、
自分も新人のころわからないことは自分で学んだ、
そう言って先輩が後輩に勝手にやらせるのはアリ。

でも、会社には会社それぞれの流儀があり、
勝手にやらせて、後輩にヘンな癖がついたとき、
困るのは先輩自身では。

なにより学校と違って、仕事の場合、
後輩がミスを出したら、迷惑をこうむるのは「顧客」。

確かに、つきっきりで育ててばかりも困る、
そろそろ後輩を信じて、試して、
一人立ちさせてあげようという状況も見られるけど、

職場の「試す」か「育てる」かの選択に、
この問いが欠かせない。

「それはお客さんにとって良いことか?」


<他人の評価が気になるときに>

自分の書いたものがどう思われるかが
気になるのは当然です。

自信がない時など、
おずおずと相手に差し出し、
顔色をうかがってしまう。

ですが、

周りにばかり目が行ってしまうと、
肝心の自分の表現したかったものから
遠ざかってしまいます。

「自分の思いを大事にしているのではなく
ただ人から自分を守っているだけ。」

他者の評価に振り回されそうになっている時、
自分に立ち帰るために何が出来るかを考えると、

「まず最初の読者は自分自身だ」

という事のように思います。
自分自身にきちんと伝わる手ごたえがなければ、
人にどういう評価をされても、
ほんとうの意味では響きません。

初めから思いを形にするのは難しいし、
出来たかどうか確信も持てないから、
人に評価してもらいたくなります。
でも、

「自分で納得できたかどうか?」

は、自分自身の手ごたえです。
まずそこを得られれば、どういう評価であれ、
他者のものとして受け止められるでしょう。

(たまふろ)



こちらは、先々週の
「人に勝とうとしない、人と比べない。」
にいただいた声。

「文章表現でもっとも悲惨な失敗は何か?」

もちろん、正解はない問いなのだけど、
少し考えてみてほしい。

選択肢1は、

「自分は、自分で最も面白いと思う、
心からいちばん書きたいものを書ききった。
いまの自己ベストであり、悔いはない」

と感じて人前に出した文章が、
大コケして、否定される。

選択肢2は、

「書きたいものはあった。
けれど、この場では、この対象には、
受け入れられないのだろうと忖度(そんたく)して、
ウケるために、自分では嫌な、気に入らない文章を
あえて書いて出した」

にもかかわらず、この場・この対象に
大コケして、否定される。

選択肢3は、

「逃げて、茶化してしまった。
何となくコワく、自分の想いに向き合うことすら
めんどくさくてできなかった。
時間がなかったとか、ニガテだからとか、自分に
言い訳して、テキトーなことを書いて出した」

それが大コケして、否定される。

正解はないけれど、
いままで私自身がコツコツ文章を書いてきて、
これだけは言える、

選択肢1の、自己ベストが書けて、
自分自身が深く納得している文章というものは、
大コケしても、さわやかだ!

いやな傷にならない。

サッパリと、また書こうと立ち直れる。

選択肢2の、
自分ではない文章を書いて、
人から本来の自分と違うものに見られて、かつ、
否定されるのは、私は最も悲惨に思う。
だから、これだけはしない。

選択肢3は、スタートラインにも立てない、
経験が経験という自分の財産にもならない。
失敗する位置にすら来れていない。

「自分の絶対価値と通じている人間は強い。」

試されても、ダメ出しされても、育てられても、
まず自分の絶対価値に忠実に、
制限時間内の自己ベストから始めれば、

失敗はコワくない!

と私は思う。

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2019-01-23-WED

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