あたまとぼうしのあいだ。小方英理子さんの創作空間。 あたまとぼうしのあいだ。小方英理子さんの創作空間。
あたまのうえに、船や、馬や、鳥や、
建物を載せた、ひげのおじさん。
小方英理子さんの陶芸作品は、
物体としての迫力にみちています。
小柄な小方さんの中にうずまく、
創造性のマグマを焼き固めたような
これらの作品は、
どうやって、生み出されたのか?
小方さんと、お話してきました。
半径1メートルの世界で。
あたまとぼうしのあいだの空間に。
全4回、担当は「ほぼ日」奥野です。
協力:Gallery Hasu no hana
第1回 あたまとぼうしのあいだ。
──
小方さんの作品をはじめて見たのは、
前の前の個展のときなので‥‥。
小方
2016年でしょうか。
──
もう2年以上も前なんですね。
この作品とか、展示してましたよね。
写真
Wool 3/ Fisherman
 黒泥土、化粧土、毛糸
 2016

420×290×710mm
 山本 彩乃
小方
アランセーターの編み模様の作品を、
つくりはじめたころですね。

おもしろいものができないかなって、
当時、テーマとして取り組んでいた
「編み模様」と、
おじさんの顔を組み合わせたんです。
──
おもしろいもの。
小方
はい。見てみたい‥‥っていうか。

うまくいくかどうかわからないけど、
どうなるか見てみたい‥‥
みたいな気持ちが、
いつも創作の原動力になっています。
写真
──
なるほど。
小方
ラフに描いたイメージを、
立体にしてみたらどうなるんだろう、
見てみたいなあと思って
土に向かっているときが、
わたしは、いちばん、たのしいです。
──
目的地やゴールが完全に見えてたら
つまんないというか、
単なる「作業」ですものね、きっと。
小方
はい、試行錯誤して、
必死にかたちにしようとしてるときが
やっぱりたのしいし、
できあがったものも、おもしろいです。

じゃないと、途中から飽きちゃうので。
できるかどうかわかんない‥‥
くらいのときのほうがうまくいきます。
──
相手は、物言わぬ「土」ですもんね。
そりゃあ、どうなるかわからない。
小方
そのあとに「火」も登場してくると、
さらに、わかりません(笑)。
──
機嫌とかもあるんでしょうし、火の。
小方
長野で展示したとき、
編みもの名人のおばあさんがいらして、
わたしの作品の編み模様を、
ひとつひとつ、解説してくれたんです。
写真
──
へえ、編みもの名人が、陶芸家に。
小方
わたしは、そのとき、
本で編み模様のパターンを見ながら
つくっていたんですが、
「これは、何とかっていう模様ね」
とかって教えてくださって。

「この模様、すごくおもしろいわね」
という感想も言ってくれて、
それが、すごく、うれしかったです。
──
ジャンルはちがえど、通じ合って。
小方
はい、編みもの名人のおばあさんに、
こんなふうなものでも、
認めてもらえたような気がしました。

内心ドキドキしてたんです。
編み模様の専門家の人が見たときに、
「ムチャクチャなことして」
なんて思われたらどうしよう、って。
──
で、その「編み模様」に、
「おじさんの顔」を組み合わせたと。
小方
はい。
写真
鳥と羽根飾り
 黒泥土、化粧土
 2016

230×210×450mm
 山本 彩乃
──
小方さんには、
もともと、絵皿のシリーズがあって。

横顔のヒゲおじさんのぼうしの中に、
いろいろ入っていたり、
あたまに動物を載っけていたりして。
小方
はい。
写真
portrait series 絵皿
 2018

130×163×13mm
 山根 朋子
──
あの「おじさんの横顔」シリーズも、
大好きなんですよ。

何とも言えない味わいがあって、
すっごく小方さんらしいっていうか、
独特だと思うんですが、
あちらも昔からつくってるんですか。
小方
大学を出たあと、なんのあてもなく、
ニューヨークに行ったんですが‥‥。

あの、大学のときには、
布で、立体をつくっていたんですね。
──
布。
小方
ウェスという、工場とかで
作業した後に手を拭いて捨てる布が
あるんですけど、雑巾みたいな。
──
ええ。
小方
そういう、使い古しの布が
「何キロで、いくら」みたいな感じで
売ってるんですけど、
それを大量に買ってきて、縫い固めて、
人体とかの作品をつくっていたんです。
──
へえ。
小方
ニューヨークでも
そういう感じでやっていこうと思って、
いざ行ってみたら、
なんだか、布がすごっく高くて(笑)。

メーター10ドルとかして、
わあ、こりゃあダメだと思って、当時。
写真
──
10ドル。それは、たいへん。
小方
工場さんとかに行けば、
安く譲ってもらえたりしたのかも
しれないんですけど、
まだ、あちらに着いたばっかりで、
英語もわからないし、
そんなこと、とうていできなくて。

そこで、どうしようもなくなって、
近所で開かれていた
陶芸の教室に、通い出したんです。
──
そこで初なんですか、陶芸?
小方
そうです。はじめてでした。

美大の入試のために
粘土を触ったことはありましたが、
焼いたのは、初です。
──
そうだったんですか。
小方
その教室では
動物をつくったりしてたんですが、
当時、日本で待っている母に、
絵皿をつくってあげていたんです。
──
それが、こういう‥‥
ぼうしにヒゲのおじさんの横顔の。
小方
いやあ、おじさんだけじゃなくて、
動物とかもあったけど(笑)。
写真
──
どこの国の人‥‥なんでしょうね。
小方
日本人でもなく、外国人でもなく、
自分の中では
ただ「人」というイメージですね。
──
じゃ、ニューヨークから数えると、
けっこう長い付き合いなんですね。

このおじさんたちとは。
小方
ふふふ、そうですねえ(笑)。

でも、ニューヨークに住んでると、
いろんな人種の人がいて、
人の顔を見ているだけで、
もう、それだけでたのしいんです。
──
人の顔を見るのが好き?
小方
好き。
──
おじさんに限らず。
小方
限らず(笑)。

「あっ、この人の鼻は、
 さっきの人の鼻と似てるなあ!」
とか。
写真
──
見る以上の、観察に近い感じですね。
小方
そうかもしれないです。昔からよく
「あっ、この人の鼻は
 あの人の鼻と一緒だ」
ということに、パッと気づくんです。

それで、とにかく顔をつくり続けて、
そしたら300個以上、たまって。
──
300個も! 顔が。
小方
顔って、同じにはならないんですよ。
ふしぎと、これが。

思いつくままに、
たくさんの顔をつくったんですけど。
──
ぼうしは、だいたいかぶってる?
小方
ずっと、あたまとぼうしのあいだに、
興味があったんです。
──
あいだ?
小方
あたまとぼうしのあいだの空間って、
誰にも見られない場所ですよね。
──
はあ、はい。たしかに。
小方
その空間に興味があって、いっとき。
──
あたまとぼうしのあいだの、空間に。
小方
そこに、その人の考えていることが、
ぎっしり詰まってるような気がして。
写真
Wool 2
 黒泥土、化粧土
 2014

450×450×520mm
 山本 彩乃
<つづきます>
2018-12-13-THU
小方英理子 2016-2018
あたまとぼうしのあいだ
写真
南青山のTOBICHI②では、
12月14日(金)から25日(火)まで、
小方英理子さんの個展を開きます。
インタビュー中にも出てきた
黒泥土の陶芸作品を展示・販売します。
あたまにいろんなものを載せた
おじさんの絵皿やブローチ、
オリジナルトートやポストカード、
一筆箋など、お買い物も楽しめますよ。
Xmasツリーのオーナメントにもなる
ひげのおじさんクッキーも!
ぜひぜひ、ご来場くださいませ。
会 期:2018年12月14(金)~25(火)

時 間:11時~19時

会 場:ほぼ日のTOBICHI②

住 所:東京都港区南青山4丁目28-26

>MAP



※詳しくは展覧会の特設ページでご確認ください
「月の数字」は小方英理子さんの一点ものの陶器作品
ほぼ日ホワイトボードカレンダー、
好評販売中!
写真 写真
フルサイズ 2,808円 / ミディアム 2,268円

(税込・配送手数料別)