| 糸井 |
シドニーオリンピックに
「出られるかもしれない」
「出られるだろう」っていうとこから、
「出られませんでした」ってなったわけだから、
そうとうショックだったと思うんですけども、
立ち直るまでに時間は、かかりましたか? |
| 加藤 |
はい。ものすごく。
まず、経済的にも、
応援して下さった方の期待を裏切ったわけですから、
そのことに対してもですし、
自分自身に対しても、
そういう感情を整理するのには
ほんとに時間がかかりました。 |
| 糸井 |
そうでしょうね。 |
| 加藤 |
1年ぐらい考えました。
これ以上やる意味はないんじゃないかな、
と思いました。
でも、辞めて、日本に帰ってきて、私は何をするのか、
これで挫折を味わって、
帰ってきて何になるのかな?って。
一から就職し直すこともできるけれど、
応援して下さった方に対して、
どうお返しするんだろう?
というようなことをずーっと考えていましたね。
でも、今思えば、あの大会が終わった後、
最後に選手が集まって話をするんですけども、
そのときに監督が、
「続けなかったら意味がないぞ」
と言ってたことが心に残っていました。
それで、復活することを考え始めましたね。 |
| 糸井 |
でも、それはヨーロッパにいながら、
悩んでたわけですよね。
そこがもうすでに違いますよね。
ぽーんと家に帰ってこられなかった。 |
| 加藤 |
そうですね。
ひとりで考えるしかないと思ったんで。 |
| 糸井 |
その、さっきおっしゃった、
お手伝いして下さる方は、
そのときにはまだいなかった? |
| 加藤 |
いないです、はい。 |
| 糸井 |
加藤さんと同じように、
国際大会やオリンピックに出るために、
日本にいて練習してる人も、いるんですよね。 |
| 加藤 |
あ、でも、そういう人は少ないです。
やっぱり、ずっと日本にいるだけじゃなくて、
行ったり来たりされてます。 |
| 糸井 |
じゃあ、日本にだけいたんじゃ、
国際競技に出るっていうのは、
もう、ほぼあり得ないんですね。 |
| 加藤 |
はい、
それは話になんないですね。 |
| 糸井 |
話になんない!
じゃ、未来永劫、日本にだけいたんじゃ、
絶対に出られないんだ。
そんな競技っていうのも、また珍しそうだね。 |
| 加藤 |
ずっと日本で練習して、
試合の時だけ現地に行っても、
やっぱり圧倒されます。
まず、場に。 |
| 糸井 |
場に。 |
| 加藤 |
そこに立たないとわからないものなんです。
試合の2、3週間前に向こうに行って、
練習試合とかしても、
国際試合の大舞台に立つっていうこととは、
まったく違うと思うんですね。 |
| 糸井 |
自分が圧倒されるし、
馬もそうなんでしょうね。 |
| 加藤 |
はい。すごく伝わります。 |
| 糸井 |
伝わるでしょうね。
その馬の種類も、日本にいて選ぶだけでは、
選べないんでしょうか。 |
| 加藤 |
ぜったい選べないです。 |
| 糸井 |
駄目なんですね。
日本の競馬の世界なんかでも、
外からの血を入れたりしますよね。 |
| 加藤 |
そうですね。 |
| 糸井 |
じゃあ、日本に古来からいた馬なんていうのは、
競技用じゃないから、無理なんだね。
じゃあ、西中尉は、何だったんですかね? |
| 加藤 |
何だったんでしょうか(笑)。
でも、まあ、ほんとに
100万頭に1頭くらい、それに長けてて、
人馬がぴったり合って勝負できる馬も、
いないとはいえないんです。国産であっても。 |
| 糸井 |
はぁ〜。
あの、障害っていうゲームの基礎についてなんですが
あのバーは触ると外れるんですか? |
| 加藤 |
はい。たまに、脚が触れて‥‥。 |
| 糸井 |
棒高跳びの棒みたいなものがいっぱいこう、
柵状にあるっていうことですか? |
| 加藤 |
そうですね。 |
| 糸井 |
あれ、なんで1本じゃなくて
何本もあるんですかね。 |
| 加藤 |
1本だけだと、馬の場合、
目があんまり良くないと言われているので、
たいへん危険なんです。 |
| 糸井 |
あ、馬、目が悪いんですか。 |
| 加藤 |
そうなんです。だから、遠くから走ってくるときに、
棒が1本だと焦点が合わないので、
ひじょうに難しいんですね。
あと、華やかじゃないっていうこともあって。 |
| 糸井 |
ああ、そうか。それもあるでしょうね。 |
| 加藤 |
はい、カラフルにするために(笑)。 |
| 糸井 |
馬術って、なんかこう、スポーツでありながら、
踊りと同じような様式美を
とっても大事にしてますよね。
帽子かぶったり。
あれをテニスみたいな格好してやってたら、
ぜんぜん違いますよね。 |
| 加藤 |
そうですね(笑)。 |
| 糸井 |
ヨーロッパが強いんですか。 |
| 加藤 |
ヨーロッパが強いです。 |
| 糸井 |
アメリカは弱いですか。 |
| 加藤 |
アメリカも強いですけども、
アメリカの人は、みんなヨーロッパに
馬を買いに行きます。
生産国なんでしょうね、ヨーロッパが。 |
| 糸井 |
なるほど。
ヨーロッパで改良された馬たちが、
ヨーロッパで流通して、アメリカまで渡る。
日本も同じだ。 |
| 加藤 |
そうですね。 |
| 糸井 |
ふうん。
あなたがこの馬に乗るのよ、
って決めるのは、
どうやってやってるんですか? |
| 加藤 |
選考会は、馬の場合、直前になるんです。 |
| 糸井 |
なんか、1発で決めるらしいですね。 |
| 加藤 |
今までそうでした。
でも、来年のアテネの場合は、
1発勝負ではなくて、
世界の国際Aクラスの試合で成績の良い4人、
ベストコンディションの4頭が行くというふうに
なっています。 |
| 糸井 |
ということは、順調に動いていれば、
加藤さんは出られるでしょう、その意味では。 |
| 加藤 |
そうですね。
でも、キャリアは、はっきり言って、ないです。
Aクラスに出てる数で言えば、
今、いちばん出てる方の
4分の1くらいしかないと思います。 |
| 糸井 |
え?じゃあ、その4倍出てる方は、
どうやって出てるんですか?
同じようなことですよね、条件は。
ヨーロッパにいるんですか? |
| 加藤 |
はい。やっぱり、まあ、スポンサーがついてます。
スポンサーって言っても、
企業じゃなくて個人のスポンサーが。
完全支援ですね。
2〜3頭の馬、旅費、経費ぜんぶ出してもらえます。 |
| 糸井 |
それは、やっぱり、力が認められているからですか? |
| 加藤 |
技術があるから応援する、ということじゃなくて、
「谷町」とでも言いましょうか。 |
| 糸井 |
もう、競技的なものじゃないんですね。
それは、たいへんな差がつきますよね。 |
| 加藤 |
そうですね・・・・。 |
| 糸井 |
企業がスポンサードしよう、
みたいなことっていうのは? |
| 加藤 |
日本の企業では、ないですね。
今まで1年だけ、日本人についた
ヨーロッパの企業がありました。 |
| 糸井 |
じゃあ、どこかで加藤さんのことを知って、
とっても個人的なスポンサーがつくっていう
ケースしか、これから先、
基本的には考えられないですね。
あ、共同スポンサーみたいになる
っていうのもあるのかな?
みんなが、集まって出しあうみたいな。 |
| 加藤 |
前々回のオリンピックで、いらっしゃいました。
60歳、最高齢の方が出るということで、
吉永小百合さんが、応援団となって
メディアに訴えかけて、
寄付を集めてらっしゃいましたね。
1億円か1億5千万か、すごく集まった、
っていうことは聞きましたけども。 |
| 糸井 |
民間の大勢の人たちの支援があったっていう
ことですか? |
| 加藤 |
ええ。 |
| 糸井 |
それ、できると、いいねぇ!
吉永小百合さん、もう1回来てくれないかな? |
| 加藤 |
(笑) |
| 糸井 |
何をされたって重圧になるには違いないんだから、
大勢でもひとりでも、まあ、
おんなじだと思うんですけどね。
じゃあ、今のところ、
できるはずだっていう信念だけで、
やってるんだよね。 |
| 加藤 |
はい。
「できる」という風にしか、
考えないようにしてます。
|
(つづきます)