がんばれ、加藤麻理子。
障害は、馬と跳ぶ。アテネ五輪への道。

第2回  1000回は落ちてます。




糸井 加藤さんは、牧場の子なんですよね?
加藤 ええと、うちは馬の生産はしていなくて、
父はまったく馬のことはプロではないのに、
たまたま乗馬クラブを始めたんです。
糸井 砧とか、あっちのほうにありますよね。
ああいうやつですか?
加藤 はい、そうですね。
うちは、御殿場にあります。
糸井 よく知らないんだけど、
あれは、みんなでこう、「馬に乗りましょう」、
という場所なんですか。
加藤 はい。
糸井 お客さんは、ゴルフクラブの会員みたいに、
会員になってて、
「今日は馬に乗りたいから行ってくるわ」
という場所ですか。
加藤 そうです(笑)。
糸井 何かの撮影で一度行ったんですけど、
狭いところで柵が、
順路みたいに張り巡らされていて、
そこを、通ってるだけですよね。
これを練習しに来るのかな?
と思って、なんかあんまり
ピンとこなかったんですけど、
選手のかたもみんなそうなんですか?
加藤 いえ、練習するのと、
馬に乗って楽しむのは、
やっぱりぜんぜん違うんです。
糸井 楽しむほうは、
馬でどこかに出かけたりするんですか?
加藤 そうですね、夏休みだと、
子どもたちが多いんですが、
富士山の麓の林に行ったりとか。
糸井 へえ!楽しそうだね。
ちょっとやってみたいな、
って思ったときはあるんですよ。
なんとなく、あの高さに憧れて。
加藤 そうですか!
糸井 あの、なんていうんだろう、
人が引っ張ってくれてグルッと
一周回るだけっていうやつ、
あるじゃないですか(笑)。
もうロバだか何だかわかんないやつ。

あれに乗ったときに、高さと、
この、うねりっていうか、
固いもので安定してないもので、
ちゃんと歩いてるんだっていうのを、
お尻から感じられるよね。
へ〜、こんななんだ、って思って。
あ、これ、その後どうなるかわからないけど、
楽しいんだろうなぁ、って、
ちょっと思ったことがあって。
そのまま走ってどこかに行けたりしたら
楽しいんでしょうね。
加藤 ええ!楽しいですよー。
馬は、人間の3歳児の知能があるって
言われてるんですけども、
なんとなく言葉で言わなくても
通じるとこあるんです。
そういうのがわかってくると、
やっぱり、話みたいなのができちゃうんですよね。
それが楽しい。
糸井 そういう環境で育って、
競技には、もう自然に出るようになっちゃった?
加藤 そうですね。
一番最初に試合に出たのは12歳でした。
最初みんなで遊んで、山とか川とか行って、
馬にただ単に乗るのが
1日に20分ぐらいだったんですけども、
遊び仲間のひとりが、障害跳んでみよう、って言って。
それから、障害馬術をみんなで始めました。
糸井 みんなで(笑)。
馬友だちがいるわけだ、乗るときの。
加藤 はい。
それで、なんとなく跳んでるうちに楽しくなって。
そういえば試合があるから出てみるか、
っていうノリでした。
糸井 怖いものなんですか?
ものすごい勢いで落ちたりしてますよね、
テレビを見ると。
加藤 500回以上落ちてますね、今まで。
糸井 え?500回?
加藤 はい。1000回いくかな?っていうぐらい。
糸井 あ、1000回いくかな?
そんなに!
加藤 ほんとに落ちてますね。
ああ、あんまり言っちゃいけないんでしょうけども、
競技者としては(笑)。
糸井 でも、まあ、子どものときのことでね(笑)。
加藤 怪我は、1度もしたことがないんですよ。
珍しいと思います。
糸井 あれは、落ち方が受け身みたいになるんですか?
加藤 そうです。
私はね、柔道やってもいいだろうっていうぐらい、
受け身が上手いってみんなに言われるんですけど。
糸井 もともと上手い(笑)。
加藤 はい。それは、才能だと思います(笑)。
1回の落馬で、怪我する方もいらっしゃれば、
500回以上落ちても怪我しないのもいるんで。
糸井 なるほどね。
かみさんが仕事で馬に乗る仕事があって、
面白いっていうんですよ、ものすごく。
加藤 へえ!
糸井 あれはいい、って。
で、馬はかわいいんだ、って言うんです。
宮沢りえちゃんが一時、時代劇で、
馬に乗ってやっぱり落ちたんですよね。
でも、かわいいから、自分を落とした馬とも、
気持ちのつながりみたいなものがあって、
自分が悪かったんだ、
みたいなことを言うのを聞きました。
その話、ジンとくるんですよね(笑)。
加藤 (笑)
糸井 たくさんは乗ってないのに、
そんなに感じさせるほど、
馬って魅力的なものなんだ、って思って、
感心したことがあるんですよ。

仲代達矢さんが、ほんとに馬を乗りこなしたくて、
馬の世話もずーっと泊まりがけでやって、
乗馬の練習をしたって話があって。
いちいちいいんですよ、話が(笑)。
役者さんたちっていうのは、
仕事で必要があるんだけど、それだけじゃない、
愛情のかけかたみたいなのを感じていて。
他のスポーツと、どうもぜんぜん違うんですね(笑)。

加藤さんは、
子どものときから馬は友だちですよね。
加藤 そうですね。
子どもの頃は、
世話をしろって言われなくてもしてましたね、
自分から。
糸井 英才教育ですね、思えば(笑)。
加藤 ええ、もう馬のことが
気になってしょうがないんです。

(つづきます)

2003-09-12-FRI

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