またちょっと
絵コンテの話に戻るんですが、
やっぱり和田さんの場合は
まず「頭の中に絵がある」のでしょうか。
まぁ、そうですね。
でも、せっかく絵コンテを描いても、
このコンテじゃないほうがいいなと、
現場に立って思うことは何度もありますよ。
実際に役者が動いてくれて、
それで考えが変わることもいくらでもありますし。



なるほど。
三谷さんはいかがでしょう。
ぼくもそうですね。
その場で映像を見て、
そこから考えることのほうが多いです。

舞台は常に一方向から観るので
それに慣れちゃってますから、
映画のセットで撮るときに
ちょっと頭の中で整理がつかなくなるんですよ。
映画は視点が動きますからね。
ですからやっぱり現場で動いてもらって、
それをモニターを通して見る。
そこまでやってようやく、
どうすればいいかがわかってきます。
つまり三谷さんにとって絵コンテは、
とりあえずの提案書みたいなものなんですね。
いま、ぼく、
あまり絵コンテを使わないんですよ。
あ、そうなんですか。
動きが複雑な場面とか、
どうしても説明が必要なところだけは
絵コンテを描く職人さんがいらっしゃるので、
その方にお願いしています。
それはヒッチコック方式だね。
そうですね。
ヒッチコックの『鳥』の絵コンテなんて、
ものすごく丁寧なやつがあるよね。
その丁寧な絵コンテは、
内部の人たちが共有するために?
そう、スタッフのため。
仕事が早くなるんです。
監督はこう撮りたいんだろうから
カメラはここに置こう、とかさ。
そういうのを事前に考えといてくれる。
のですが‥‥
絵コンテの職人さんに、
ニュアンスを説明するのが大変なんです。
自分でやって見せなきゃいけない。
ご自分で(笑)。
やっぱりこう、
動きが大げさに描かれたりすると、
そのイメージに縛られてしまうので。



和田さんがその職人さんだったらラクですね。
和田さんがですか‥‥あのぉ(笑)、
ものすごいぜいたくなことですけど、ラクです。
以心伝心だし(笑)。
じゃあ次回作でやりましょう。
一同 (笑)
まあ、つまり、
いろいろ似ているおふたりですが、
絵コンテについては
すこし違うということですよね。
ほとんどを現場でつくる三谷さんに対して、
和田さんは基本的に絵コンテを描く。
ぼくは描きます。
で、しかも、
そろそろクランクアップっていうころになると、
全員の似顔絵も描くんですよ。



それをぼくは、
いつか真似したいと思ってるんです。
似顔絵ですか。
和田さんは、
和田組の全スタッフの似顔絵を
いつも描かれているんですよ。
全スタッフは‥‥何十人もいますよね。
そうなんです。
あれは、みなさんにプレゼントするんですか?
うん。
照明の人は上にいたり、
カメラマンはカメラを持ってる絵をね、
それぞれが仕事してるところを
ひとりひとり描いていくんです。
で、最後の日にそれをぜんぶ並べて、
こう、大きなさ、撮影現場の風景にするわけ。
あぁー、いいですねぇ。
打ち上げの日に、人数分コピーして、
それを記念に差し上げる。
なんてすてきな監督なんだろう。
それを本当に、
ぼくもやってみたくて、
チャレンジしたことがあるんです。
‥‥あれってやっぱり、
全員を描かないとだめですよね。
それはそうです。
そうだよ。
似顔絵にしづらい顔の人もいるんですよ。



一同 (笑)
そいつひとりのために、おじゃんになっちゃう。
「なんでこんな顔のやつがいるんだろう」
一同 (爆笑)
そういうわけで、
途中で挫折してしまいました。
今のセリフはさすがに最高でしたね。
「なんでこんな顔のやつがいるんだろう」
一同 (笑)
和田さんのそれは、映画を撮る前から
やってみたいと思ってたことなんですか?
いや、思いついたのは途中ですよ。
クランクアップに近づいてから。
ていうのはさ、
現場に行ってみるとね、
みんな本当によく働いてるわけじゃない?
だからさ、
なんかお土産を置いて帰りたいと思ったの。
はぁー。
すごいお土産ですよ。
それは、別のジャンルから来た人ならではの
感性なのかもしれないですね。
うん。
そうかもしれないね。
自分が旅人として、
とてもお世話になったような気持ちでしょうか。
そう。
だから最後、お世話になったお礼をね。
いいなぁ。
で、そのときにね、
ちょっとおもしろいことがあったの。
似顔絵をみんなに渡してたらさ、
照明の若い助手さんが、
「あ、監督は絵でも食えるな」
って言ったんだよ。
一同 (笑)
絵をホメられちゃった(笑)。
うん。
あれはね、うれしかった。
(つづきます!)

2011-11-29 TUE