アーカイブ 2002/11/13
 
第13回 期待が人間を育てる
糸井 「精一杯、これ以上できないよ、
 というところまでやっている人がいい」
というお話は、とてもよくわかります。
藤田さんも、そう言えるだけのことを、
これまで充分、やってこられたでしょう。
藤田 ぼくは、いいかげんなんです。
選手時代は、途中でいつも、
「あ、これくらいでいいや」と思うほうでした。
だから、それが悔しくて、監督になったあとは、
「もう一度現役に戻って、精一杯やってみたい」
という気持ちになって、やっていました。
糸井 へぇ‥‥いつごろから
そんなことを思ってらっしゃったんですか。
藤田 もう、ずいぶん前からです。
自分は選手としては、典型的な「サボり」でした。
ランニングひとつ取っても、そうですし。

投げる練習だけは、けっこうやりましたけど、
その他の、いまの選手のような、
裏へまわったトレーニングなんていうのは、
まず、しなかったですから。
糸井 「それで通用しちゃう時代だった」
ということですか。
藤田 ええ。時代もそういう時代でした。
糸井 昔の野球のビデオとかやると、フォームから、
プレーから、みんな意外に穴だらけですよね。
藤田 そうですよ。昔はいいかげんですよ。

ぼくが入団した時、
明石でキャンプをやったんですけど、
だいたい、ピッチャーの練習は2時間かからない。
グラウンドへ行ってから帰ってくるのに2時間。
出ていって、全体と一緒にランニングをやって、
軽くピッチングをやって、
軽く走って‥‥それで帰ってくるんですから。
あとが、ヒマだったんです。
麻雀でもするしかない。
糸井 同時にそれは、そのころは、練習にしても、
「何をやっていいかわからなかった」
という時代だったわけで。
藤田 ええ。
練習全体が、そういう風でした。

チーム全体が、
どこのチームもそうですけど、
全体に「体ならし」でしたからね。
キャンプだから特別どうこうするでもないし、
時間で区切って全員がガンガンやるという
キャンプでも、なかったんです。
糸井 じゃあ、今の普通の選手は、
昔にタイムマシンで戻ったら、
大活躍しているかもしれないですね。
藤田 そりゃあもう、レベルがぜんぜん違います。
だから「昔はどうのこうの」だとか、
「我々の時代は‥‥」なんて言うのは、
アレはぜんぶ、大ウソですよ。
だって、ピッチャーが投げる球にしても、
真っすぐとシュートとカーブがあれば
1試合できたんですから。
糸井 そう言えば、藤田さんは、
「昔はよかった」って言わないですね。
藤田 ええ。昔は悪かった!(笑)
いいかげんだった。
あれでよくメシを食っていたと思う。
「プロでございます」と言ってね‥‥。

大酒飲みの選手がバッターボックスへ入って、
キャッチャーに「フーッ」とやると、酒臭い。
そういうのが「英雄」扱いだったんですから。
「二日酔いなのにホームランを打った」だとか。
そんなものは、えらくもなんともないですよ。
糸井 その時、選手というのは、人間的には?
藤田 我が強くて、わがままで、
自分だけよければいいというような集団でしたよ。
だからチーム内での争いが絶えないんですね。
ケンカをしたり‥‥。
糸井 プライドだけが高い人ばかりの、
そのうちの1人だったわけですね。
藤田 ええ。ぼくもそのうちの1人だった。
そういうものが変わってきたのは、
長嶋が入って何年目か、ぐらいからかな?
まわりで「長嶋、長嶋」と言われ出されまして、
やっぱり、人の目によって育てられた。

おおぜいの人が選手を認めることによって、
自分でそういう気運を感じて、
「きちっとしなきゃいけないな」
ということで野球に入っていきましてね。

選手には、立ちあうコーチも大切ですけど、
試合を見ているお客さんの認め方、
そういうものも、とてもだいじだと思いますよ。
糸井 期待されることで、
その期待されたことに合わせていくんだ。
藤田

ええ、それが、人間だと思うんですよ。
強く期待をされているのに、
「そんなもん、知るかい!」と
いいかげんなことをやる人は、少ないと思う。
みんなが期待して認めてくれると、人間は変わる。

今の若い子たち、
どうしようもない子たちなんかも、
そういうものを早く何か見つけて、
気の入るものを見つけられるといいと思うんです。
どうしようもない子たちが、多いでしょう?
でも、ああいう人たちも、
いくらでも、いい子になると思うんですね。

いちばん早いのは、一人一人に、
「おまえ、こういうものがあるけど、
 どれかを、やってみるか?」
「じゃあ、これやってみましょうか」
というような機会が与えられることですよね。

ひとつのことをバッとやってみて、
ダメなら次へ行ってみるというふうに、
選択をしながら、自分がいちばん好きで
得意なものを見つけて、
その道をやっていくと、早いと思うんですね。

糸井 そこでもやっぱりアイデアが要りますね。
藤田 要りますね。
言い方も「やれ」じゃなくて、
「これ、どうだい?」だとか‥‥。
おもしろみを見つけさえすれば、
もうけものですよ。
糸井 9回失敗しても、
10回目があるかもしれないし。
藤田 おもしろみを見つけたら、
今度はそれに熱中できますから、
そこまで来たら、もうしめたものです。
糸井 長いレンジで、
「そんなに簡単にうまくいくものじゃない」
というぐらいに、捨ててもいいから、
ということで、指導者は見てなきゃダメですね。
藤田 糸井さんの釣りも、最初から
好きになったわけじゃないだろうし、
「やってみたらおもしろかった」わけですよね。
で、だんだん、のめりこんでいくんでしょう。

同じようなことが他にもあると思うんですね。
やってみているうちに、
「やたらとおもしろいなぁ」
「自分に合っているな」
と思えるなら、それが何でもいいんです。
自転車をこいで走るのに
おもしろみを感じる人もいるかもわからない。

だから、そういうものを、ひとりずつ、
指導の立場にいる人たちがまず見つけてね。
自分で見つけるのは、むずかしいですから。

きっと、暴走族の子なんか、あれ、
おもしろくてしようがないと思うんですね。
熱中していると思いますね。
ただ、人に迷惑をかけているからあれですけど、
あれがレース場へでも行って
ボンボンやっていれば、
もっと違ったかたちになると思うんですよね。
レースだって、好きでやっているわけですから。

糸井 藤田さんの場合、困った時に、
アイデアがいつでも用意されていますね。
藤田 ぼくはどちらかというと、
そういうことを考えるのが好きなんです。
これがダメならあれ、だとか。
何を見ていても、それを
ひねったらどうなるか、その結果を見たいんです。
店にものが一つ売っていても、
「これ、こうしたら、こうならないかな」だとか。
糸井 ぼくも同じなんですよ。

それと、さっき藤田さんがおっしゃったけど、
ぼくも、自分がいままで仕事をしていて、
「若い時は、真剣じゃなかったなぁ」
と思うことがあるんですよ。
「できちゃっていた」ということなんです。

いま思えば、藤田さんの時代の野球と同じで、
ぼくのやっていた仕事全体が、遅れていたんです。
だから、何とかなっていた。

「もう一度やり直したい」とは思いませんが、
たとえば、ぼくがあんなに
野球を見ていたことだって、おかしいですよ。
年間70試合、オープン戦から日本シリーズまで、
ずっと巨人の後をついてまわっていたんですから、
仕事している人間としてはマズイです。
あんなことができていて、しかも、
「糸井さん仕事してるね」「忙しそうだね」
と言われていたのは、どう考えてもおかしいです。

‥‥というようなことに
ぼくは、40歳半ばを過ぎて気がつきました。

藤田さんと頻繁にお会いした時期のあとに、
ぼくは1回もそれを伝える機会がなかったから、
ぜひ「そのことに、わかったんですよ」と
言って、藤田さんとまたお会いしたかったんです。

でも、遅いんですけどね。
前のことは、もう取りかえせないですから。
藤田 いや、遅くないんです。
気づいた時がスタートで、いいんですよ。
ムダじゃないですよ。
経験したことは、みんな生きますから。
糸井 たしかに、人の仕事を見ていると、
「まだ9割の力しか出してないな」
という状態は、自分がやってきたことだけに、
とてもよくわかってしまうんですけど。
藤田 あれ、ほんと、よく見えるんですよね。
自分のあとを同じように歩いてくる人が
とても、よく見える‥‥。
糸井 だからこそ、「精一杯やる人」というのは、
やっぱり、かわいいですよね。
藤田 そうなんです。
糸井 いま、仕事をすることがおもしろいんですよ。
藤田 糸井さんは、根がまじめなんでしょうね。
仕事人なんですよ。
 
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