CHILD
これでも教育の話?
どんな子供に育ってほしいかを、
ざっくばらんに。

第8回 人に知られたくない自分

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横尾 今年も何人かに年賀状をもらったんだけど、
ぼくはちゃんと返事を書いたわけ。
でも、何を書いていいのかわからないから、
「今年もよろしく、来年もお世話になります」。
そうすると、いちばん簡単なのは、
「去年も今年も来年も再来年もよろしくお願いします」
そう書いて出しちゃった。
糸井 ハハハ。
横尾 でもぼくはね、
手紙とかはがきを書くのに、
ものすごく時間とられているんだよ。
ところが、それは面倒くさくないの。
糸井 あ、好きなんですか。
横尾 好きなの、郵便少年としては。
それは好きなの。
糸井 はあ、意外だなあ。
横尾 郵便屋さんのなれの果てが
絵かきさんだと思ってるからさ。
糸井 じゃ、頭の中では、
まだ郵便屋さんになりたい気持ちが
残ってるんだ。
横尾 郵便、残ってるんですよ。
すっごく。
糸井 はぁー。
横尾 なんでそんな、感心することないよ。
糸井 ほんとに根深く残ってるんだなと、
思ったんですよ。
横尾 そんなことは、だれにでも
何かの形でいっぱい
残ってるんじゃないかな。
糸井 でも、自分で意図的にため込むものと、
自然にため込まれてしまうものとが
あるじゃないですか。
横尾 無意識の深層にあって、
「これは絶対人に見られたくない、
 知られたくない」というものはあるでしょう? 
ぼくはどっちかというとそれを
極力出すようにしてるわけ、形を変えてね。
糸井 「夢の絵」なんかがそうですよね。
横尾 うん。作家やものをつくってる人は
同じかもしれない。
そういうものは出しておかないと。
勝手に自分に入ってくる何かが、
無意識の中で想像と結びついてくれて、
何かのときに直観として出てくる。
糸井 つながっちゃうんですよね。
横尾 うん。だから、ため込んでしまうと、
自分の中でそれが汚物になって、
汚染されていくこともあるんですよ。
糸井 そうか、ないことにしてるもののほうが
影響を自分に与えちゃうんだ。
横尾 うん。でも、それはもう潜在意識だから、
自分ではわからなくなってしまってる。
それが病気に発展したりとか、
いろんなものになっていくと思う。
糸井 横尾さんは、これまで
「どういうふうに生きたい」とか、
「どういうのが幸せだ」とか、
考えずにここまで来たんですか?
横尾 精神世界的なものにはまり込んで、
まるで精神世界のボヘミアンみたいな
時期があったんだよ。
そのころはちゃんと枠組みをつくって、
「こういうふうに生きていこう」ということに
あこがれたね。
糸井 そうか、そこは1回
経過してるんだ。
横尾 うん。
糸井 いまのほうが自由に見えますよ。
横尾 精神世界というものを
僕の中から追い出してから、
さらにぼくが精神世界的になっちゃった。

いまはどちらかというと
先へ向かっている、というより
少年時代に返ろうとしているのかもわからない。
ぼくの未来は、未来に設定されてるんじゃなくて、
過去に設定されてる気がする。
糸井 過去へ。
横尾 そこへだんだんだんだん近づいていく。
この前原美術館で展覧会をやった
「Y字路」にしても、
そのプロセスで生まれたんだよ。
あれはぼくの故郷の、
西脇の町を描いたんだ。
だから、あのシリーズができた。
そうじゃない町はシリーズにも、
絵にすらも、最初っからならなかった。

先祖返りか何だか知らないけど、
だんだん過去に回帰してるかもしれない。
糸井 ノスタルジーじゃなくて、
未来も過去も同じじゃないか
っていうかんじですよね。
横尾 そうです。
ノスタルジーはだめだと思うんです。
ぼくは「Y字路」で
ノスタルジーをいったん捨てることができたような
気になったのね。
糸井 すっきりできた。
横尾 うん。ぼくの中から追い出せた。
糸井 一光さんのお葬式には
ぼくも行ったんですけど、
横尾さんは、自分の葬式のイメージとか
あるんでしょうか?
横尾 自分が死んだ夢を見た話、したっけ?
糸井 いや、聞いたことないです。
横尾 それはこういう夢だったの。
自分が死んで、いま住んでる家の屋根の上に
ぼくが浮いてるの。
そしたら、知り合いの朝日新聞の連中とか、
ギャラリーの人とか、
知ってる人が何人か来て、
ぼくのお葬式の準備をしてるわけ、家の外と中とで。
糸井 家の中のようすはどうやって見れるんですか?
横尾 不思議と、屋根がドーンと突き抜けて、
うちのカミさんが2、3人の人に囲まれて、
ぼくの遺影選びをやってるの。
そのようすをぼくは見てて、
そんな「あれがいい、これがいい」みたいに迷わないで、
とにかくいいやつを何枚か選んで、
60年代、70年代、80年代、90年代と、
年代ごとにダーッと写真を全部並べて、
その時代のぼくに出会った人はそこに行って
お焼香をすればいいのに、とかね。
糸井 ・・・夢の中なのに、
結構アイデアマンだ(笑)。
横尾 うん。ほんとにそんなこと思ってるわけ。
誰かがテーブルを持ってきて、その上に
シーツを敷こうとしてるんだけど、
そいつはハンカチぐらいの大きさのものしか
持ってきてない(笑)。
で、ハンカチを自分で一生懸命伸ばしてるの。
ぼくは上から、
「そんなハンカチじゃなくて、
 もっと大きいのにしないか、
 もっと大きくなれ」って言ったら、
そのハンカチがズズズッ、ズズズッと大きなっちゃう。
糸井 すごいなあ、
「十戒」のモーゼみたいですね。
横尾 夢だからできるんですよ。
もう超能力者だね。
糸井 自分の死が見えてるのに
本人が落ちついてるって、気分いいですね。
横尾 ぼく、死っていうの
好きだからさ。
糸井 テーマとしてずうっと扱ってますもんね。

(つづく)

2002-04-16-TUE

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