CHILD
これでも教育の話?
どんな子供に育ってほしいかを、
ざっくばらんに。

第5回 平凡な普通の人間だよ

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糸井 先生と呼べるものがない、ということは、
横尾さんは、何もかも自分で決めて、
自分で決めたように流れていくのが
いちばんいい、ということでしょうか。
横尾 うん、そうだね。
そこに社会がなきゃ、
もっといいです。
糸井 じゃあ、法律や規則があったりするのは、
ほんとにつらくて
しようがないでしょう。
横尾 うーん。だけど、法律に関しては、
法律に従ったほうがもう
面倒なくっていいじゃない。
法律の網の目をくぐりながら
脱税の知識とか知恵を授かって(笑)、
やろうと思えばできなくないけど。
糸井 かえって手間ですよね。
横尾 うん。だから、そんなことをして、
無理にお金や時間を使ったりするんだったら
払っちゃえば、
みたいなところがあるよ。
糸井 横尾さんは、
いちばん面倒くさくない方向に
行こうとするという
習性があるわけね。
横尾 うん、それはある。
だから、そういう意味で、
ぼくはごく平凡な普通の人として生きてる。
糸井 そうなのかもしれないです。
横尾 まったく普通の人だと思うの、ぼくは。
平凡に生きるということは、
そういうことなんじゃないかな。

でも、「参観日には学校に行く」という、
そういう平凡さはないのよね。
糸井 面倒だけは避ける、平凡な人。
横尾 うん。
「ここら辺で巨大マンションが建つから、
 その集会に来てほしい」
と言われると、行きたくない。
それは、ここに建つから問題にするだけで、
たとえば何十kmも離れた先に建つんだったら
関係ないじゃない? 
糸井 そう考えると、面倒くさいですね。
横尾 どっちにしても、ほうっておいても建つよ、
みたいなさ。
社会性のないやつだと言われるかもわからないけど、
社会性は別のところでもってればいいし、
それは政治だからさ。
糸井 共感するなぁ。
ぼくは学生の頃、みんなと同じように
政治に関心をもっていたけど、
自分のやってることが
いちいち全部嫌だったですから。
本当に嫌で、
早くすっきりしちゃいたいと思ってた。
だから、結局、やめました。
横尾 やっぱりやめざるを得なかったの?
糸井 だめだった。
種類の違う欲望だったんです。
横尾 そうか。
子どもの戦争ごっこ
みたいなものではないの?
糸井 違いますね。
楽しいことは
何もないんじゃないですか、多分。
横尾 だけど、妙に真剣に考えたり
議論したりするわけでしょう?
糸井 そうですね。
ちょうど背伸びしたい時期ですから、
美大生でいえば、
画家の名前をいっぱい
知っていたりするのと同じように、
その場で負けたくないという気持ちが
あるんでしょうね。
横尾 とことんその純粋性を貫くと
どうなるんだろうか。
糸井 だけど、ほんとに
純粋なものなんてないでしょう? 
「純」純粋というのは。
横尾 美術のほうでいうと、
19世紀の終わりか20世紀はじめぐらいに
セザンヌなんかが出てきて以降は、
純粋絵画の「追求」とか「探究」をするようなかんじに
なっちゃったでしょう?
糸井 用のない絵そのものを楽しむ、というような。
横尾 うん。色彩とか、構図とか、
造形面だけ徹底して追求したわけね。
だから、みんながそういう絵を描こうとして、
魂の救済なんか、一切考えてない。

原爆をつくった科学者だって、そうだよ。
ともかく科学者である以上は、
核をつくってみたいじゃない? 
それは行為として純粋行為だよ。 
人道的なものとか、
生命の尊厳とか、
そんなことを彼らは考えないわけでしょう? 

だから、純粋って、
ある意味で怖いのよ。
糸井 怖いですね。
横尾 だから、美術もあんまり純粋に追求していくと、
例えばコンセプチュアルアートみたいなものも、
ひとつの純粋性の追求の結果、
ああいう方法論になってしまった
ところがあると思うんだけどね。
糸井 いま、コンセプチュアルアートといっても、
焼き直しでいってるけど、
出そろってますよね、もう既に。
横尾 そうだねえ。コンセプチュアルと
ことさらいわなくたって、
ものをつくったりすることって、
やっぱりコンセプトなんだ。
糸井 いつでもね。
横尾 うーん。
(ガサゴソガサゴソ、上着のポケットを探る)
糸井 ・・・暑いですか?
横尾 いえ、違うのよ。
糸井さんってチューイングガム食べる?
糸井 あ、いいえ。
横尾 ぼくはね、栗なの。
糸井 え? むいた甘栗?
横尾 いや、違うよ。
皮のついた栗だよ。
栗はね、
むかなきゃだめよ、あんなのは。
(甘栗を取り出して食べる)
糸井 これ、持って歩いてたんですか!
横尾 ええ。食べる?
糸井 いえ、けっこうです。
そうね、むくのも含めて
栗ですけど・・・。
横尾 そう、あんなの、
むいて食べやすくされちゃうと
だめだよ。
一回買って食べてみたけど、
あんなつまんないものないね。
糸井 すぐ食べおわるんですよね、
しかも。
横尾 うん。
糸井 この教育の対談シリーズってこれまで、
だれかがその人に影響を与えるような
ヒントになることが出てくるんだけど、
横尾さんは
絶対ヒントにならない。
おもしろいなぁ。
横尾 ヒントって、何?
糸井 つまり、横尾さんのような人は
つくれないってことかな。
「わたしのこの部分はあなたもこうできますよ」
なんていうところが何にもないですよね。
横尾 そんなことはない。
ぼくだって、サンプルはいっぱいいます。
糸井 こうやって言うと、
いつでもちょっとめげるんですよ。
横尾さんは自分の年齢よりも、
必ず若いんです。
若いというか、中学生っぽいというか。
横尾 そんなことないですよ。
ぼくは保守的で、古典的で、
伝統的な人間だし。
・・・ハハハ。
そう思ってるんだけどね、ほんとうに。
ごくごく平凡で、ごく普通で。
糸井 ぼくもそれはよく人に言うことなんですけど、
横尾さんはその上をいかれてるんですよ。
横尾 やっぱり普通がいいもんね(笑)。

(つづく)

2002-04-09-TUE

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