第31回 「虫時間」で虫を見てみる。
対談 海野和男×糸井重里〜その2

3月に入って最初の日曜日。
3月とは、なんて春爛漫な響きなんでしょうか。
花や緑の香りに誘われて、虫も蠢く陽気な春。
そんな春にぴったりの虫カレンダーが、
イラストレーターの
はらだゆきこさんから届きました!

1024×768    800×600
※お好みのサイズをクリックしてください。

春になると思い出すのが、
マザーグースの詩のひとつ、
「すいせんむすめがまちにきた 
 きいろいスカート、みどりのガウン」
っていうのなんです。
たぶん、虫たちも、
一番好きな季節は春だと思います。
まだ蝶々が飛んでいるところは見られませんが、
カレンダーでひと足早く、春の虫気分になってください。
(はらだゆきこ)


はらださん、ありがとうございます。
パソコンのデスクトップを
このカレンダーにするだけで、
いっきに春めいて、楽しくになりそうです!

さて、先週から引き続き、
本日も昆虫写真家の海野和男さんと、
糸井重里の対談をお送りいたします。

「虫時間」って、考えたことありますか?
「虫の時間と人間の時間は違うんじゃないか」
と、考える海野さんは、
虫の撮影時間を縮めたり、伸ばしたりして、
人間の時間感覚に合わせて、
虫の動きを見せてくださいます。
本日は、そんな「虫時間」について、
お送りいたしますね。

※ご覧いただく前に。
 この「虫博士たち。」のページでは、
 海野さんのご厚意で、映像を公開しております。
 対談時の映像とは多少異なりますが、
 要素を含んだ映像を選んでおります。
 また、映像には、音声が流れますので、
 パソコンの音量にはご注意くださいね。




対談:海野和男さん×糸井重里 その2


海野さんのプロフィールは、こちら

●虫にとっての時間。
海野 今から見て頂くのは、
僕が、子どもなんかによく見せる
ビデオのひとつです。
このビデオでは、
撮影時間を縮めたり、伸ばしたりして、
虫たちを撮ってみたんです。
「時間とは一体何だろう?」
と考えたときに、まあ、当たり前なんだけど、
虫とか植物にとっては、その時間の感覚は、
人間とは全然違うだろうと思うんです。

これは、ヤママユって言って
絹糸がとれるガなんですけれども、
15時間かかって繭を作るところを
30秒に縮めて撮影してあるんです。
(せわしなく動くヤママユの映像を見ています。)
糸井 犬みたい(笑)。
海野 昆虫って、幼虫からサナギになるときには、
すごく時間がかかるんです。
だからこのヤママユは時間を縮めた例ですね。
ところが、昆虫は大人になると、
すごく早く動きます。
目にも止まらぬスピードで飛んだりします。
だから、大人になった虫を撮るには、
今度は時間を伸ばしてやらなくちゃいけない。
時間を17倍に伸ばして撮ると、
こんなふうに見えます。
(飛ぶカブトムシの映像を見ています。)
ほぼ日 おお〜!
カブトムシがこっちに向かって飛んでくる!
糸井 吉田戦車に見せてやりたい!
ほぼ日 確かに、吉田戦車さんのマンガに出てくる、
カブトムシの斉藤さんみたいに見えてきますね。

*いろいろな虫の飛ぶ瞬間が、
 こちらの動画でご覧いただけます。
 とくに愛らしい、
 「後肢(後ろ足)」に注目です。
 (東京電力「海野和男先生の昆虫教室」
  第8回「飛翔の秘密」より)
海野 次の虫は何をするかというと‥‥。
これは、足を上げるからわかりますよね?
糸井 おしっこだ! 犬みたいだ!
ほぼ日 糸井さん、さっきから
「犬」を例えに出してこられますね。
海野 これも17倍に伸ばしているとこう見えるんです。
これだと犬がおしっこするのと
同じに見えますよね?
普通だと、ピッと出ちゃうんで見えないんです。

●66倍のスローで虫の動きを見る。

海野 僕は、常に虫になりたいと思って
写真を撮っているんですが、
僕が虫になったとしますと、
僕のようにやせた小さな人間は、
大きな虫に蹴飛ばされるんだろうなあ、
なんて想像してしまいます。

今、見ていただいているのは、
カブトムシが木に樹液を吸いに行ったら、
別のカブトムシに、邪魔だよ!
ということで、蹴落とされるところですね。
糸井 あ、いともたやすく足蹴に!
ただ、邪魔なだけっていうのが、
ほんと分かりやすい(笑)。
海野 カブトムシは角があるでしょ?
角があるとけんかしたくなるんですよ。
だから必ずオスは出会うとけんかするんですね。
それで、投げ飛ばされて
落ちると痛いじゃないですか?
だからたいていの場合はですね、
投げ飛ばされると、落ちるときに
ショックをやわらげようと、
翅(はね)を開くんですね。
全員 あ、開いた、ほんとだ!
はぁぁ〜〜〜(感心)。
海野 次は、子どもの大好きな、
ヘラクレスオオカブトムシ
やっぱり角があると、
戦いたくなるみたいです。
だから角みたいなものは、
あまり持たない方がいいですね。
人間も刀とか持つと、
すぐ振り回したくなりますから。
ナイフもカッコいいけど、
あんまり持たない方が
いいかもしれない(笑)。
ほぼ日 次のカブトムシは、
手が長いですね!!
海野 このカブトムシは、竹にいるカブトムシで、
ノコギリタテヅノカブトと言います。
手が長くて角が細いでしょ?
この細い角で投げると、
角がほんとに折れちゃうの。
それで、角を使わないで
手で投げ飛ばす。
一同 えっ、角はなんのために?
(ざわざわ)
糸井 飾り?
海野 飾りだね(あっさり)。
糸井 (次のクワガタ対カブトムシを見て)
いい艶してるね〜、へへへへへぇ(笑)

ほぼ日 本当に、磨いたみたいな艶ですね。
クワガタよりカブトムシの方が、
やっぱり強いですか?
海野 さあ、どうでしょう?
さあ、どうでしょう?
がんばってますね〜。
一同 あっ!
クワガタが負けた‥‥。
海野 カブトムシの角が入れば、
やっぱり問題なく勝ちますね。
勝つとですね、
体を震わせるんですよ。

さて、次のカブトムシは‥‥、
下から入れて投げ飛ばす!
‥う、おっと、きた。
糸井 相撲解説みたいですね(笑)
海野 そうですね(笑)
次のクワガタは、
いかにも、悪そうな、
オオヒラタクワガタ
これに噛まれたら痛いですよ、すごく。
これは、最初に角を突き出して、
どのくらい相手が強いか、
相手の大きさを測っているんです。
糸井 ディバイダー(※)みたいなものですかね?
※製図・測図などに使用する、
 二本の針状の脚をもつ分割器のこと。

海野 うん、そうですね。
糸井 なんか、プロレスって
こういうところから来た気がするねー。
海野 そうですね。
あと、クワガタって、
実は下も上も見えるんだよね。
目玉がね、両方についている感じです。
一同 へえええ〜〜〜〜!

いろいろな種類の虫のプロレス、
 こちらでご覧ください。
 (東京電力「海野和男先生の昆虫教室」
  第23回「昆虫チャンピオン」より)
海野 次はバッタなんですけれども。
このバッタは、あまりにも早いので、
時間を66倍に伸ばしています。
一同 うわぁ〜‥‥きれい〜〜〜‥‥。
(注:虫を見ています。)
海野 トノサマバッタが、
地面をけっ飛ばすところです。
糸井 マサイ族みたいだなー。
海野 草原に住むバッタですから、やっぱり。
草原に住むものは、人間も虫も、
跳躍力が強くなるんですね。
糸井 見通したいんですねぇ。
海野 次は、トンボが産卵をしているところです。
稲を苅ったあとに来る
アキアカネというトンボです。
このトンボは、
昔はあまりいなかったと思うんですが、
日本人が今みたいな、
冬に田んぼの水を取るような稲作を始めてから、
このトンボが増えましたね。
このトンボは、卵でずっと越冬ができて、
ほかのトンボは過ごせないもので、
それでこのトンボだけが増えたんです。
また、産卵期になると、
自分が生まれた田んぼの近くに戻ってきて
卵を産むんです。
糸井 ふ〜〜〜〜む。
海野 このトンボの映像も、
66倍に伸ばしているんで、
もうね‥‥なんかね、かったるいね。
ほぼ日 そ、そんなことないです、
だいじょうぶです(笑)。
ほら、来ますよ!
一同 うおおお!
すごい!
カエル!
くくくくくっ〜!
(驚きと気持ち悪さと面白さで、
 もはや全員、表現力がなくなってきております)
糸井 今、カエル、隠れてたんだよ〜、くっくっ。

(この映像について補足しますと、
 田んぼの泥の中に隠れていたカエルが、
 交尾中のトンボをジャンプしてキャッチする、
 66倍のスローな映像です。
 ジャンプして体を伸ばしたカエルが、
 さらに長い舌を伸ばし切って、
 トンボをパクリとキャッチする様は、
 とても人間の目だけでは
 見ることのできない映像です。)
ほぼ日 これは、狙ってとられたんですか!?
海野 もちろん、狙ってとってますよ。
ほぼ日 カエルがいることをわかって、
この瞬間を待っていらっしゃったんですか!?
海野 そうです。
カエルがトンボを捕るとこを撮りたくて、
狙って撮りました。
しかもこれは、写真じゃ撮れないんだよ。
何回か写真でもトライしたことがあるんだけど、
ぶれるんですよね。
しかも、どこにくるかわからない。
いろんな器械とか、
設置しておくわけにもいかないですしね。


●虫の見る世界、男女の見分け方。

海野 次は、菜の花を人間が見た目と、
虫が見た場合の見え方。
虫が見ると、花の真ん中が
色が変わって見えるんです。
つまり花は自分たちの受粉のために、
虫に、蜜のありかを教えないといけないんです。
そのために、虫の見える色をつけてるんですね。
ここに蜜があるよ、って。
糸井 つけてるのは誰がつけてるんですか?
花が?
海野 それは、花がつけてるんですね。
人間が見える花でも、パンジーみたいに、
花の中心が色濃くなってるのありますよね。
あれは全部、チョウやハチに、
蜜のありかを教えるためのものです。
ほぼ日 虫の目で見ると、
こんな強い色になっているんですか〜。
糸井 目印なんだ。
海野 紫外線だとこう見えますね。
花の中心部が、紫外線の吸収率が違うんです。
この色自体は、ほんとかどうかわかりませんよ。
ほぼ日 このくらいのコントラストで、
見えるということですね。

虫を誘惑する花の色を、
 虫の目でこちらからご覧ください。
(Windows、Macともに、Windows Media Playerで
 お楽しみいただけます。)

海野 モンシロチョウを紫外線で見ると、
オスとメスが一目瞭然で違うんです。
赤紫と白というくらい、
メスオスで、はっきり色が違って見えます。
だから、オスのチョウが、
メスを見つけるときに、
性別を間違えないんですね。
糸井 間違えないんだ。
海野 僕らは、この頃はちょっと、
間違えたりすることもあるけどさ(笑)、
だいたい街歩いてて男か女かわかるでしょ?
そういうサインがちゃんと虫にもあるんです。
ほぼ日 確かに、子どもの時は、
性別を教えられなくても、
裸を見なくても、
男女の意識がありましたよね。
不思議ですね〜!

(対談は次週に続きます)

来週は、さらに不思議のかたまり、
「擬態する虫」の世界をのぞきこみます。
その不思議ワールドに圧倒され、
さらに口数の減る、
糸井重里と虫博士チーム。
最終回まで口数は減り続けるのか?!
では、また日曜日をお楽しみに〜。



今回登場した虫たちをご覧になりたい場合は、
こちらをクリックしてどうぞ。



(検索エンジンgoogleの
 イメージ検索を利用しています。)


ヤママユ
ヘラクレスオオカブトムシ
ノコギリタテヅノカブト
オオヒラタクワガタ
トノサマバッタ
アキアカネ



※掲載している写真、動画は
 全て海野さんに許可を得て、
 以下のサイトよりリンクしております。
 ありがとうございました。

東京電力「海野和男先生の昆虫教室」

海野和男のデジタル昆虫記

BROBA コミュニティ「Nature & Image」
*「Nature & Image コミュニティ」は、
 2004年3月末日で終了致しました。
 

2006-03-05-SUN



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