「全国避難所ガイド」ができるまで。

「全国避難所ガイド」ができるまで。

糸井
山崎さんが全国の自治体を回るときは、
どうやって行くんですか。
山崎
最初は電話やメールで連絡をしていたんですけど、
基本的には、なにも返答をくれないんです。
会いに行って説明しないと、
データはいただけないんですね。
私から自治体にお願いしていたことは、
「住民サービスのために民間がやっていることで、
 お金はいただかないので、データをご提供ください。
 更新があれば最新データを送ってください」
という内容でした。
それでも、当初は10件に1件、
会ってくれればいい方だったんですよね。
糸井
うーん、悲しいなぁ。
自治体のためにもなっているのにね。
会ってもくれないんですか。

山崎
会ってもいただけない自治体もありますね。
糸井
それは全部、会社の負担ですよね。
山崎
はい、自前です。
糸井
おひとりで回られるんですか。
山崎
はい、いまはひとりですね。
訪問を始めたのは2011年の秋口ぐらいからで、
最初は社員とふたりで行っていたんですけど、
出張経費も半端じゃないので。
旅費に交通費、あと、ご飯も食べたりすれば‥‥。
糸井
会社にいないとなると、
日常業務も滞りますよね。
山崎
そうなんです。
なので、2、3年ぐらい前から
私がひとりで自治体を回ることにしました。

糸井
エラいことになりましたよね。
更新の約束を取りつけに行く仕事は、
いまでも、されているんですか。
山崎
ようやく全国の30都道府県まで回ったので、
もうちょっとですね。
いまではもう、ほとんど全部の自治体の方が、
当社の名前とアプリの名前を
耳にしてくださっているようで、
アポイントを取ると、
「ああ、ファーストメディアさんね」
と言っていただくようになりましたけれども、
いまだに拒否される自治体もあるんです。
糸井
拒否される地域があるっていうことは、
データを更新できないということですよね。
山崎
私もいろいろな地域を回りましたが、
土地柄と言いますか、地域柄と言いますか、
正直、交渉が難しい地域というのはありますね。
糸井
震災から5年が経っていますけど、
アプリをつくりはじめた頃は
どのくらいの頻度で自治体を回っていたんですか。
山崎
あっ、私はいまも自治体回りだけで、
年間の3分の1は出張に行ってます。
糸井
えっ! いまも?

山崎
はい、いまも行ってます。
昨年度は、3月までの
1年間の出張回数が68回でした。
糸井
うわっ、厳しいな。
週に1回以上なんですか!
山崎
そうなんです。
糸井
都内の近隣は済んでいるんですよね?
となると、どんどんキツくなっていきませんか。
山崎
そうなんです。
もう、新幹線や空港の圏内から
簡単に行ける場所が残っていないんですよ。
この前も、秋田空港からレンタカーを借りて
雪の降る中、ひとりで2時間とか走らせて。
俺は何をやってるんだろうって‥‥。

糸井
ああ、山崎さんは伊能忠敬だね。
一同
(笑)
糸井
かっこよく言えばさ、現代の伊能忠敬ですよ。
ただ、あれは幕府がお金を出してくれたから。
山崎さんがやっていることは、
伊能忠敬が、自前でやっているようなもんですよね。
山崎
すべて、自分の会社でしていることですからね。
糸井
最初に思いついちゃったことですからね。
山崎さんの会社のかたで、
犬や猫を飼っていらっしゃる人はいますか。
山崎
うちの社員は、ほぼ全員が飼っていますね。
私も以前、犬を2匹飼っていたんです。
糸井
それなら、話も通じやすいですね。
「ドコノコ」のことを人に伝えるときには、
「犬や猫の迷子がよく起こる」だとか、
「事件や事故に巻き込まれた時のために
 犬や猫を登録しておきましょうね」ということを
みなさんにお伝えするんですけど、
もっと大事なこととして、
犬も猫も、だれかに所属しているという感覚を
持っているべきじゃないかなと思うんです。
「全国避難所ガイド」も同じだと思うんですけど、
いざという時にはここに逃げる、という情報が、
「ああ、役に立った!」ということは、
本当は、起きない方がいいんですよね。

山崎
たしかに、そうですね。
糸井
「ドコノコ」というアプリの迷子をさがす機能も、
役に立ったりしない方が、本当はいいんです。
「迷子を探すことは、結局1回もしなかったな」とか、
「だれも迷子にならなかったな」というのが1番で、
みんな、だれかが面倒を見ているコなんだ、というのを、
お互いに認め合えるネットワークを作りたかったんです。
山崎
いいですね。
糸井
僕も山崎さんと似ていて、
最初は案外、簡単に考えていたんです。
「みんなでやりましょう」と言ったからって、
うまくいくとは限らないんですけど、
少なくとも僕らは、「やった方がたのしいよ」は
言えると思って、作りはじめました。

でも、いざアプリを作りだした時に、
「みんな、自宅登録はしないね」と気づいたんです。
自宅を突きとめられないという前提なら遊ぶけど、
このアプリで自宅を登録しないとしたら、
犬や猫がいる場所を示すという
目的が成り立たないよね、という話をしました。

そうしたら、犬猫の保護活動をしている
ミグノンの友森さんが、
「みんながよく行く公園はあるよ」と教えてくれて、
全国の公園を登録しようと、一旦は決まったんです。
でも、僕らには公園を調べようもないんですね。
公園課というものがあるのは知っているけど、
犬や猫が行く公園とは限らないですし。

じゃあどうしようかって悩んでいた時に、
人間が必ず登録する場所を思いついたんです。
それが、避難所でした。
しかも、僕たちはたまたま、
「全国避難所ガイド」の山崎さんを知っていた。
山崎
嬉しいですね。

(つづきます)

2016-06-06-MON