出口治明さんと「ひとつながり」で見る世界。

出口治明さんは長く日本生命で活躍したのち、
2008年、還暦で
ライフネット生命を開業しました。
10年、社長、会長を勤めて、
2017年に取締役を退いたその約半年後には、
立命館アジア太平洋大学(APU)の学長に就任!
大胆な人生を歩む出口さんは、
「ビジネスのことは歴史から学んだ」とおっしゃいます。
そんな出口さんは、
世界の5000年の歴史をひとつなぎで見つめる
『全世界史』という本を出されました。
全世界‥‥それって地球?
というわけで、
アースボールチームが地球を抱えてお会いしてきました。
歴史を、地球を、ひとつながりで見ることで、
はじめてわかることが、ある!

出口治明さんは長く日本生命で活躍したのち、
2008年、還暦で
ライフネット生命を開業しました。
10年、社長、会長を勤めて、
2017年に取締役を退いたその約半年後には、
立命館アジア太平洋大学(APU)の学長に就任!
大胆な人生を歩む出口さんは、
「ビジネスのことは歴史から学んだ」とおっしゃいます。
そんな出口さんは、
世界の5000年の歴史をひとつなぎで見つめる
『全世界史』という本を出されました。
全世界‥‥それって地球?
というわけで、
アースボールチームが地球を抱えてお会いしてきました。
歴史を、地球を、ひとつながりで見ることで、
はじめてわかることが、ある!

──
出口さんは歴史について考えるときに
地球儀をご覧になったりしますか?
出口
はい。
飛行機で考えるとわかりやすいのですが、
例えばアメリカから中国に行くとき、
地球儀を見れば
「こう行くのが一番近いな」という最短ルートが
直感でわかりますよね。
──
そうですね。
出口
だから、ペリーの船がなぜ日本に来たかも、
地球儀で見るとわかりやすいんです。
当時アメリカは、中国との交易を巡って
大英帝国と競争していた。
でもこれまでの大西洋経由のルートだと
中国は遠くて船賃がかさむ。
そうすると太平洋横断ルートを開くしかなく、
その中継地にあたるのが日本だったんです。
──
教科書には
捕鯨船の基地が欲しかったから、と
書かれていた気も‥‥。
出口
それは「日本史」の教科書に
書かれていることですよね。
実際にペリーが日本に来た本当の理由は
「太平洋航路を開かなければアメリカの未来はない」
ということだったんです。
それは地球儀を眺めれば直感的にわかることでしょう?
──
はい、そうですね。
出口
教科書に載っている平面の地図で見ると
そこがわかりにくいんですよ。
捕鯨船の燃料を求めて来たという話になっているのは
ペリーが最初にそう言ったからです。
でも普通、企業と企業とが話をするときに
いきなり「これ、買って」とは言わないでしょう? 
「今日は台風が去っていいお天気ですね」とか
「野球はどのチームが優勝するんでしょうね」とか
そういう話から入ります。
200年も鎖国をしている国(日本)にいきなり
「アメリカは、中国を巡って
大英帝国と血みどろの戦いをしています」
なんて話をしたらビックリするじゃないですか。
──
そうですね、怖いです(笑)。
出口
でも
「クジラを追ってきて燃料がなくなった」
と言われたら、それはちょっと
かわいそうだなと思うでしょう。
しかも、日本近海で捕鯨を活発に行っていたので、
リアリティがある。
──
たしかに。
出口
ペリーが来た理由は
当時のアメリカの状況を知ればわかることです。
でも「日本史」だと、
日本の文献だけ見ればいいと思いがちなので、
視界が開かない。
──
視界を開いてまるごとつなげて考えるのが
『全世界史』の視点なんですね。
出口
ええ。
地球は丸いということ、ひとつだけでも理解していれば
さっきのペリーの話はピンときます。
このアースボールを前に置いて
『全世界史』を読んだら、
もっと理解できるようになると思います。
──
平面の地図は分断されているので、
気付きにくい部分がありますね。
出口
そうです。歴史ってすごく単純なんですよ。
例えばこのアースボールを横にして見てください。
ロシアや中国が太平洋に出ようと思ったら
めちゃ邪魔なのが日本列島だとわかるでしょう?
──
日本が防壁みたいになっていますね。
出口
そう、見ただけでわかりますよね。
冷戦(1947~1991年)のときに
アメリカが日本を大切にした理由はこれです。

アメリカの繊維産業、鉄鋼産業、自動車産業、
半導体産業は全部、日本が潰したんですよ。
なのにアメリカが本気で怒らなかった理由は、
日本がこの位置にある
「不沈空母」だったからなんです。

こんないい位置にいる国を
もし相手側に渡したら、えらいことになる。
そういう理由で日本は大事にされていた側面がある。
それを踏まえれば日本の戦後の復興は
冷戦がベースになっていると言えます。
──
なるほど。
でもこれが「日本史」の見方だと‥‥
出口
全体のつながりが、
もうひとつわからないんです。
──
ひとつながりの視点で考えると、
やっぱりすごくおもしろいですね。
出口
5000年史の講義は、そのほうがラクだから
そうしたんですよ。
自分の知識の中で
歴史のおもしろいトピックを見つけて話すって、
1回や2回ならいいですが、
「ずっと続けましょう」と言われたら
気が滅入るじゃないですか。
それだったら頭から順番に
5000年の歴史を話していったほうが
ラクなんですよ。
僕はめんどうくさいことは嫌いなんです。
だからひとつなぎにしてしまった、
というだけのことです。
──
それもまた「偶然」なのですね。
『全世界史』を拝読しておもしろかったのは、
権力を持つとすべてを自分のものにしたくなり、
動物園や図書館を作るという話でした。
なんとなく自分でもわかるような気が‥‥。
出口
そうです。
人間は支配欲を持っているので、
大帝国をつくってしまうと、
じゃあ動物も集めてやろうかとか、
植物も集めてやろうかと思います。
それが動物園、植物園です。
それも済むと、
じゃあ過去も集めてやろうという気になり、
過去は要するに書物や遺物ですから、
大図書館、大博物館になります。
だから大帝国には必ず
大動物園、大植物園、大図書館、大博物館が
つくられます。
権力者が全てを集めようとするのは、
世界共通なんですよ。
ルーブルや大英博物館がその代表例ですね。
──
過去の権力者の部屋には、
だいたい地球儀があったようなイメージがあります。
世界を手中におさめたいという支配欲に
関係があるのかもしれません。
でもその支配欲って
「知りたい」という気持ちにも似ていますね。
出口
そうですね。
「知りたい」という気持ちと
「支配したい」という気持ちは
紙一重です。
──
そういう「知りたい」という気持ちがいつか
世界を動かすものになっていったりするのでしょうか。
総理大臣になるとか‥‥。
出口
ノーベル賞を取りたいとか。
「知りたい」は
「勉強したい」という気持ちと同じなので。
そのように考えると
このアースボールが全家庭あるいは全学校──、
特に小中学校にあると役に立つ気がしますね。
──
小中学生が向いていると思われますか?
自然に芽生える気持ちがあるといいなあ。
出口
高校生でもいい。
若いほうが感動は大きいでしょうからね。
とにかくアースボールが教育の現場に
あるといいなと思います。

僕は、アースボールのアプリで
地図が1000年とか500年単位で
変わっていくものができたら面白いなと
思っているんですよ。
国の名前も国境も時代によって全部違う。
領域は今みたいにハッキリしていないので、
グラデーションでわけていく。
──
ああ、グラデーションで‥‥。
ときの流れが国境のうつりかわりでイメージできて
「ひとつながり」がより実感できそうです。
そのときはぜひご協力をお願いしたいです!
今日はいろいろなお話を聞かせていただき
ありがとうございました。
出口
よもやま話でスミマセン。
お世話になりました。

(終わります)

2018-12-19-WED

編集:中川實穗

『全世界史』(新潮文庫)

著者:
出口治明
定価:
上巻724円(税込)
下巻810円(税込)

世界を「ひとつ」として見た歴史が綴られた本。
文字が生まれた約5000年前から
現在までの大きな流れ、
歴史的な出来事がなぜ起きたのか、などが
ひとつのうねりのなかで展開されていく。
出口さんの「口語体」で書かれた
とても読みやすい歴史の本。