出口治明さんと「ひとつながり」で見る世界。

出口治明さんは長く日本生命で活躍したのち、
2008年、還暦で
ライフネット生命を開業しました。
10年、社長、会長を勤めて、
2017年に取締役を退いたその約半年後には、
立命館アジア太平洋大学(APU)の学長に就任!
大胆な人生を歩む出口さんは、
「ビジネスのことは歴史から学んだ」とおっしゃいます。
そんな出口さんは、
世界の5000年の歴史をひとつなぎで見つめる
『全世界史』という本を出されました。
全世界‥‥それって地球?
というわけで、
アースボールチームが地球を抱えてお会いしてきました。
歴史を、地球を、ひとつながりで見ることで、
はじめてわかることが、ある!

出口治明さんは長く日本生命で活躍したのち、
2008年、還暦で
ライフネット生命を開業しました。
10年、社長、会長を勤めて、
2017年に取締役を退いたその約半年後には、
立命館アジア太平洋大学(APU)の学長に就任!
大胆な人生を歩む出口さんは、
「ビジネスのことは歴史から学んだ」とおっしゃいます。
そんな出口さんは、
世界の5000年の歴史をひとつなぎで見つめる
『全世界史』という本を出されました。
全世界‥‥それって地球?
というわけで、
アースボールチームが地球を抱えてお会いしてきました。
歴史を、地球を、ひとつながりで見ることで、
はじめてわかることが、ある!

──
出口さんご自身としては、
「世界をひとつながりで見る」ということを
伝えていかなければならないという
お気持ちがあるのでしょうか?
出口
そんな高尚な気はないんです。
今から7、8年前、
僕がライフネット生命を開業して2、3年経った頃に
20代の部下に
「今日からツイッターをやりなさい」と
指示されたのが、すべての始まりです。
──
部下の方から、ツイッターを‥‥?
出口
僕はめんどくさがり屋なので
「なんでそんなめんどくさいことを」と言ったら、
「ライフネット生命は小さいベンチャーなので
大手生保と同じことをやったら絶対負ける、
だから大手生保が絶対やらないことをやれと、
普段、社長は僕らに説教していますよね」
と部下から言われました。
大手生保・損保の社長は
誰一人ツイッターをやっていません。
「まさか有言不実行で、
僕らだけに説教してるんじゃないでしょうね」
と言われたので、反論のしようがなく
「しゃあない、やるわ」と(笑)。
──
(笑)それで、ツイッターを始められて‥‥。
出口
その頃、僕と同じ怠け者の
友人の京大の先生が
「なんかイスラム史ってややこしいんだよね。
代わりにやってよ」
と連絡してきました。
僕は誘われたら断るタイプじゃないので
「いいですよ」と引き受けてしまった。

ツイッターは部下から
「1日3回つぶやくように」と言われていたので、
その日もなにかつぶやかなあかんと思って、
「これから母校の京大で初めて講義をしてきます」
とつぶやきました。
すると、見てくださっている方から
「何の講義ですか」と問われました。
リスクマネジメント論ですか、ベンチャー論ですかと
すごく真面目に聞かれたので、
「イスラム史です」と答えたら、
「私も聞きたい」「僕も聞きたい」となって。
それが発展して
「20人ぐらい集めて出口さんを呼びたい」
という問い合わせがきたので、
「いいですよ。喜んで行きます」
と応えました。
──
そんな気軽に!
出口
2、3週間後に、発端になった2人から
「20人、集めました」と連絡がきたので、
そこへ行って、京大と同じ話をしました。
──
それは一回きりですか?
出口
それが、レクチャーが終わった後、
その2人から
「今後も続けてください。
僕らが集客しますし、会場も設営しますから、
好きなことを喋るだけでいいですから」
と言われ、
「まあ、いいわ」と続けることになりました。
──
あ‥‥つまりその内容が
今回の本になったということでしょうか?
出口
いえ、それは今回の本じゃないんです。
祥伝社から出た『仕事に効く教養としての「世界史」』
という本です。
講義を聞きに来られていた出版社の方が
「おもしろいから、これ、本にしましょう」と
声をかけてくれて。
こんな素人の本なんか売れるはずがないと
思っていたら、10万部以上売れたんですよ。

それを見たほかの出版社から
「教養の本を作りましょう」という話がきたので、
「しゃあないな」と。
そんな経緯で歴史の本を出していくことになりました。
だからツイッターからすべてが始まった感じです。
──
思いもよらないことだったわけですね。
出口
あのとき20代の部下が僕に
無理やりツイッターをやらせなければ
僕の歴史の本は一冊も生まれていなかったでしょうね。
偶然の積み重ねです。
──
唐突ですが、なんだか、
今伺った出口さんの本の話と、
『全世界史』に書いてある人類の流れって
「いろんな偶然が積み重なって進んでいく」
という意味で似てるような気がします。
出口
そうですよ。
僕はライフネット生命を起こしたので
「起業に必要なのは何ですか」と
よく聞かれますが、
基本は「偶然」です。
ほとんどのビジネス書には
「起業というのは、よく考えて、事業計画を作って、
志を持って、やらないとできない」
と書いてあります。
歴史の中で最大の起業はなにかといえば、
国をつくることですが、
じゃあ、大きい国をつくった人が高い志を持って
準備して作ったかと言えば、
全て偶然です。
──
偶然ですか。
出口
講演会でよく話す例があるんです。
ある町役場に任侠が大好きなお兄ちゃんがいて、
お金持ちが住民票を取りにきたときは
10万円と吹っ掛けて、
半分ぐらいはポケットに入れつつ
貧しい人が来たら
残りの5万円を分けてやっていた、と。
本当にそんなことしたら、えらいことになりますが。
──
(笑)
出口
まあ、そんなお兄ちゃんがいたんです。
ある日、任侠の大親分がその町に遊びに来たので
挨拶に行ったら、
「飯を食うか」と言われて
「はい、いただきます」と応えて
ガンガン飲んで食べた。
そのうちに大親分が
「俺にはかわいい娘がいる。顔を見たいか」と言う。
「見たいです」と普通は言いますよね、
もう酔っ払っているので。
で、お嬢さんが来た。
「かわいいお嬢さんですね」と言ったら
「結婚しろ」と脅され、
ご飯も食べたし、お酒も飲んだし、
娘もそこそこかわいかったので結婚をした。
そうしたら、しばらくしてその大親分が
殺されてしまった。
だからそのシマを引き継ぐことになった。
そして最終的には、彼が皇帝になってしまった。
この皇帝は誰かわかりますか?
──
わかりません。
出口
劉邦(西漢の初代皇帝)です。項羽と劉邦の。
人生はこんなものなんですよ。
それが歴史のリアリティ。
それをダーウィンは「運と適応」と言っています。
「運も実力のうち」とか言うけれど、
そんなはずはないんです。人間の歴史を見れば。
──
運と‥‥適応?
出口
僕はダーウィンが大好きなんです。
「強い者や、賢い者や、大きい者が
生き残るのとちゃうで。運と適応だけやで」
というのが、ダーウィンの基本的な考え方です。
それが「運と適応」です。
──
適応ですか。
出口
「運」というのは、
適当なときに適当な場所にいること。
次に「適応」。
人間には、周囲の状況の変化に合わせた適応しか
できないと思うんです。
東日本大震災のような震災って
また起こると思いますか、皆さんは。
──
そうですね、
起こると思っていなければならないと思います。
出口
そのときに東日本大震災のことを勉強した人と
勉強しなかった人、
どちらが助かる可能性が高いと思いますか。
──
それはやはり、勉強した人なんでしょうか。
出口
これが歴史を学ぶ意味です。
将来何が起こるか誰にもわからへん。
でも教材は「過去」しかない、ということです。
しかも、事実は小説よりも奇なり。
だから歴史を学ぶことは自分を助けるし、
おもしろい学びになると思うのです。
──
何が起きるかはわからないけど、
過去を知っていることは助けになる。
出口
類推がつくので、生きやすくなる。
僕は根拠なき精神論は基本的には大嫌いで。
例えば「がんばればなんとかなる」というのも
嫌いです。
スポーツをやったらすぐわかるでしょう。
努力しても、できないことは山ほどあると。
──
そうですね。
出口
人間の力って本当にちっぽけで、
だからもっと人生や社会に対して
謙虚にならなきゃいけない。
そういう当たり前のことを理解するためには、
歴史を学ぶのが一番いいと思います。

(つづきます)

2018-12-18-TUE

編集:中川實穗

『全世界史』(新潮文庫)

著者:
出口治明
定価:
上巻724円(税込)
下巻810円(税込)

世界を「ひとつ」として見た歴史が綴られた本。
文字が生まれた約5000年前から
現在までの大きな流れ、
歴史的な出来事がなぜ起きたのか、などが
ひとつのうねりのなかで展開されていく。
出口さんの「口語体」で書かれた
とても読みやすい歴史の本。