出口治明さんと「ひとつながり」で見る世界。

出口治明さんは長く日本生命で活躍したのち、
2008年、還暦で
ライフネット生命を開業しました。
10年、社長、会長を勤めて、
2017年に取締役を退いたその約半年後には、
立命館アジア太平洋大学(APU)の学長に就任!
大胆な人生を歩む出口さんは、
「ビジネスのことは歴史から学んだ」とおっしゃいます。
そんな出口さんは、
世界の5000年の歴史をひとつなぎで見つめる
『全世界史』という本を出されました。
全世界‥‥それって地球?
というわけで、
アースボールチームが地球を抱えてお会いしてきました。
歴史を、地球を、ひとつながりで見ることで、
はじめてわかることが、ある!

出口治明さんは長く日本生命で活躍したのち、
2008年、還暦で
ライフネット生命を開業しました。
10年、社長、会長を勤めて、
2017年に取締役を退いたその約半年後には、
立命館アジア太平洋大学(APU)の学長に就任!
大胆な人生を歩む出口さんは、
「ビジネスのことは歴史から学んだ」とおっしゃいます。
そんな出口さんは、
世界の5000年の歴史をひとつなぎで見つめる
『全世界史』という本を出されました。
全世界‥‥それって地球?
というわけで、
アースボールチームが地球を抱えてお会いしてきました。
歴史を、地球を、ひとつながりで見ることで、
はじめてわかることが、ある!

──
出口さんが書かれた『全世界史』を拝読しました。
歴史を「日本史」「東洋史」「西洋史」などでわけず
ひとつの流れで見る視点が新鮮で、
5000年にも及ぶ人間の歴史を
初めてひとつながりで認識できたように思います。
「地球全体の歴史がひとつの流れである」
という見方を、いつ頃から意識していたのですか?
出口
中学生の頃です。
──
そんなに早くから。
どんなきっかけで?
出口
僕はガキ大将だったので、
喧嘩も大好きでしょっちゅうやっていて。
だからアレクサンドロス大王とか大好きだったんです。
──
え!? 喧嘩つながりで‥‥?
出口
でも不思議に思ったんですよ。
アレクサンドロス大王って
10年も戦争をして、ずっと勝ち続けているんです。
僕も喧嘩はだいたい勝っていたのですが、
簡単に言えば、
「5発殴って、3発殴られて、勝つ」
という感じなんですよ。
‥‥あ、皆さん、喧嘩されたことない?
──
そういう喧嘩はしたことないです(笑)。
出口
つまり、勝つほうもかなりやられるんです。
そう考えると、
10年も殴り合いをやっていて勝ち続けるって
ちょっと理解できない。
「なんでやろ?」と思って本を読み漁っていると、
<インダス川の畔でマケドニアからの
援軍を受け取っている>
という記事があった。
それで、「なるほど、当然だよな」とわかった。
新しい兵士を受け取って勝っているんだと、
納得したわけです。
──
なるほど。
出口
しかし次に、援軍を送るにしたって、
電話も電報もない時代に
アレクサンドロス大王がどこにいるかが
どうしてわかったのだろうという疑問が
湧きました。
──
たしかに、どうやって‥‥?
出口
また関連する本を図書館で読み漁ると、
アレクサンドロスが滅亡させた
アカイメネス朝ペルシャが作った「王の道」という
道路があることがわかりました。
ペルシャでは「駅伝」という、
情報をリレーのようにして
伝聞で届ける制度がつくられていたので、
アレクサンドロス大王のいる場所が
把握できていたんです。
──
アレクサンドロスはその制度ごと、
利用して勝っていった、と‥‥。
中学時代にそれに気付いたときに
「これは国ごとに歴史をわけている場合じゃないな」
と思われたのですか?
出口
そうです。
アレクサンドロス大王はアカイメネス朝が作った
インフラがあったから喧嘩に勝てたんだ、
つまり、人間の歴史って全部つながっているんだな、
ということがわかりました。
僕は基本的に、小学校、中学校、高校と
図書館にある本はほとんどみんな読みました。
読んでいくとつながりがちょっとずつわかってくる。
──
図書館にある本をぜんぶ‥‥!
出口
互いのつながりが見えてきて
「こういう形なんだな」とわかってくる。
今の考えのベースは
大学生のころにはほぼ出来上がっていました。
──
そうとう‥‥読まれたんですね。
出口
そうですね。めちゃくちゃ読んでいましたね。
僕は全共闘世代で、学生運動が行われていて
大学で授業がなかったんです。
だからいつも、
下宿で1日15時間ぐらい本を読んで、
議論がしたくなったら、
友だちの下宿へ行って議論を吹っ掛けていました。
──
歴史の話で議論なんて想像もつきません。
出口さんは歴史の成績はよかったですか?
出口
僕は以前、友人から
「こんなに歴史に詳しかったら
センター試験は絶対100点ですね」
と言われたので
「そうか」と思って試験を受けてみたら
92点でした。
引っ掛かるんですよ。
──
何にですか? 
出口
引っ掛け問題にです。
それですごく腹が立って、
それから毎年受け続けているのですが、
100点は一度も取れていません。
最高が97点。
──
え! 毎年出願しているのですか?
出口
出願ではなく、新聞で。
今年こそはと思うのに、また引っ掛かる。
あれはクイズですね。
僕は試験の解答を見直すという癖がついていないので、
このままいったら死ぬまで一回も
100点が取れないんじゃないかと
思ったりしているんですけれど。
──
(笑)ところで、出口さんが本に書かれたような
「全世界史」という見方がもっとあっていいのに、
どうして私たちが学校で習う歴史は
「日本史」「世界史」にわかれているのでしょうか。
出口
それは簡単で、ヨーロッパなどの真似をしたからです。
日本が明治時代に教科書を作るとき、世界には
「西洋史」「東洋史」という区別があった。
それをそのまま導入したんですよ。
──
なるほど。
では現在のヨーロッパはどうなのでしょうか?
出口
例えばドイツとフランスは
「共通歴史教科書」を作っています。
これはエリゼ条約(独仏友好条約)を成立させた
ド・ゴール大統領とアデナウアー首相の
「お互いが同じテキストで勉強していたら
喧嘩もなくなるだろう」
という考えに基づいたものです。
だからドイツ人とフランス人の学者で
教科書をつくり、意見の違うところは
「ここはまだ意見が違う」とそのまま残している。
──
へええ、喧嘩をなくすために一緒に教科書を‥‥。
ヨーロッパはそんな進化を遂げているのに
日本は明治時代のままなのですね。
『全世界史』を高校時代に読みたかったなあ。
出口
それで言えばおもしろいことがあって、
横浜の進学校の歴史の先生に呼ばれて
講義をしたときのことですが、
僕の講義の後、生徒が先生を捕まえて
「なんで先生は普段、
今日の講義のような面白い歴史を教えてくれへんのや」
と責めていました。
──
素直な生徒さんですね(笑)。
出口
ただその先生も素敵で、
「僕は君たちのことを思って教えているんだよ」と。
「今日の出口さんの話は
残念ながら大学入試には出ない。
君らは東大を目指しているんだから、
そのために僕は、テクニカルな歴史を、
嫌だけれども教えているんだよ」
と言ったら、
「先生、そこまで考えてくれてるんだ!」
って(笑)。
教科書の説明が
明治時代のあたりで終わると
こういうギャップが生まれるんです。

(つづきます)

2018-12-17-MON

編集:中川實穗

『全世界史』(新潮文庫)

著者:
出口治明
定価:
上巻724円(税込)
下巻810円(税込)

世界を「ひとつ」として見た歴史が綴られた本。
文字が生まれた約5000年前から
現在までの大きな流れ、
歴史的な出来事がなぜ起きたのか、などが
ひとつのうねりのなかで展開されていく。
出口さんの「口語体」で書かれた
とても読みやすい歴史の本。