ダーリンコラム

糸井重里がほぼ日の創刊時から
2011年まで連載していた、
ちょっと長めのコラムです。
「今日のダーリン」とは別に
毎週月曜日に掲載されていました。

羽根のない扇風機。

じぶんに関係ないと思うと、
ほんとに冷静に、というか、かなり冷たい気持ちで、
なにかを観察できるものだ。

芸能ニュースのなにやらだとか、
よその会社の浮き沈みだとか、
会ったことのない人たちの政争だとか、
平気な顔して、けっこう冷たいことを言う。
ぼくも、そのうちのひとりだったりする。
おそらく、遠く感じることについて、
少々冷たいくらいに、大事の優先順位を下げておかないと、
問題処理がしきれなくなってしまうからなのだろう。

なんて、わざわざ前書きみたいなことを言ったけれど、
言いたいのは、扇風機のことだ。

今年のぼくは、これまで以上に、
「冷房」について厳しい目でみるようになった。
せっかくからだをあたためるものを飲んだり、
ハラマキなどを身につけたりしていても、
機械的に室温を下げようとする「冷房」が、
人間の生理を無視して冷やしすぎてくれる。

たぶん、「あたま」で感じる「すずしい」というのが、
塩味の濃すぎる料理みたいに、
実際にからだがもとめている温度より、
ずっと低いところをよしとしているからなのだろう。
ちょっと暑いと感じるくらいが自然なのだろうが、
冷房が効いていると思えるのは、
ちょっと寒いくらいでないといけない。
おおぜい仕事をしている部屋などでは、
冷房の温度というのは、どうしても
暑がりの人の望むように設定されがちだから、
たくさんの人たちの体温を奪うことになる。

「ほぼ日」は、「あっためる」を
ひとつの目的としている会社だ。
せっかく「あっためる」を実現しているのに、
冷房で体温を下げていちゃなんにもならない。
というわけで、ぼくは、
「暑さへの対処は、ゆるやかに」という方針で、
夏に向かってきている。

東京にいるときの暑さ対策は、
会社にいるときは「ゆるやかな冷房」でいいとして、
自宅の鉄筋のマンションにいるときが悩みのタネだ。
この建物は、そうとう昔の建築で、
「さてさて、すばらしいでしょう?」と言わんばかりの、
中央管理システムの暖冷房になっている。
各部屋の住人は、暖房にしても冷房にしても、
その「風量」を調節するだけが可能で、
最近のエアコンができるような調節はできないのだ。
ゆるく28度に設定する、などという微妙なことは、
できやしない。

京都にいるときには、冷房も調節し放題である。
それだけでなく、気分に応じて窓からの風を通したり、
大型家電の店でとても安く買った「扇風機」も動いている。

おう、やっと「扇風機」の話につながった。
ダイソンの掃除機って、高いけど売れたじゃない?
要するに、他にないくらい「やる気」な感じの掃除機を、
みんなが欲しがったということだ。
うちも、家人が積極的に買った。
グオーーーンという爆音を立てて、
よくいろんなものを吸いこんでくれているようだ。
おそらく、これからも、
ダイソンの掃除機は売れていくのだとは思うが、
ここに画期的な姉妹品というか、新製品が加わった。
それが、「羽根のない扇風機」だったというわけだ。

ダイソン、やるなぁ、と思っていたぼくも、
この「羽根のない扇風機」のユニークさと、
「おれはまったく欲しくないかも」な感じに、
いいだのわるいだのという判断ができないままだった。
せめて野次馬として、売れるだの売れそうもないだの、
言ってもいいのだけれど、わからないのだ。
これが売れなかったら大変だ、という気もしない。
しかし、「あのダイソン」が鳴り物入りで出した新商品、
きっとすごい計画のもとに出しているにちがいない。
だけど、おれはいらないよなぁ‥‥。

やがて、ぼくはダイソンの出した扇風機について、
考えることもやめていた。
誰かが買ったかしらん?
見た人の話を聞くと「ふっしぎ~」だって‥‥。
どうなるんだろう、無責任に、冷たい興味はあった。
失敗することを望んでいるから冷たいのではない。
成功しても失敗しても、ほんとにどっちでもいいのだ。
そして、ただ結果が「知りたい」だけなのだ。

ほんとにねぇ、いじわるなものだよなぁ。
というようなことを思っていたら、
いや、もしや、まてよ??
冷房のことを考えているおれは、
あのダイソンの扇風機を買うことを選択肢に入れても、
おかしくないのではなかろうか。
いや、むしろ、じぶんが買うかもしれない人間として、
あの扇風機を見てみたくなった。
つい、一週間前には、見せてあげるよとか言われても、
「ああ」と気乗りしない返事をするくらいだったものを。

ダイソン、もしかしたら、また当てるのか?
あらゆる家や会社や店にエアコンのついてる時代に、
「羽根のない扇風機」をあえて出したことが、
果たして、ほんとうにうまく行くのだろうか?

あいかわらず、けっこう冷たい言い方のままなのだが、
「当たる」への賭けに、
前よりはちょっとだけ参加してみたくもなっている。

ちなみにだけど、ふつうの扇風機は、
安く売ってる店で、5000円くらいで
けっこうそれなりに使えるやつが買える。
いまのとこ、ダイソンさんのは3万円くらいだ。

しかし、それにしてもなぁ、
ダイソン、これ「売れるぞーっ」って思ってるのかなぁ。

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