ダーリンコラム

糸井重里がほぼ日の創刊時から
2011年まで連載していた、
ちょっと長めのコラムです。
「今日のダーリン」とは別に
毎週月曜日に掲載されていました。

対立的じゃなくてもできるじゃないの。

2009年の3月16日の『ダーリンコラム』に、
<あらかじめなるほどを禁じられた場面。>
という文を書いたのだけれど、
この時点から、たった半年で、
たいへんな変化があった。

いや、これ、うれしさと共に書いているのだけれどね。
「なるほど」ということばそのものが、
あったかどうかはわからないけれど、
「相手の意見は、すべてダメ」というような
対立を軸にした討論番組が、
変わっていたんだよ。

「政権交代」をスローガンに掲げて、
民主党が与党になったということの影響が、
こんなところに出ているのだとしたら、
これはけっこうたのしみになる。

ぼくは決して政治通でもないし、
政治に対して距離をおいている人間なので、
ほんとにひとりの素人のテレビ視聴者として言うのだが、
政治がこういうふうになっていくのだったら、
たのしみだなぁと思ったのだ。

番組というのは『朝まで生テレビ』だ。
テーマは『激論!鳩山新政権の理想と現実』だった。
主役は、もちろん民主党の人たちなのだけれど、
野党のときはどうだったか忘れたけれど、
まずメインになって発言していた福山哲郎という人と、
大塚耕平という人が、落ち着いて人の意見を聞いていた。

そして、この対立側のメインキャラクターは、
これまた当然、最大野党の自民党なのだけれど、
茂木敏充さん、世耕弘成さんというふたりで、
これまでの番組で「顔」になっていた
「顔役」たちに比べると、なにか新しく見える。

ここに、他の党の人たちと、
政治家でない人たち、つまりは、
いま人気ジャーナリストの上杉隆さんとか、
反貧困ネットワークの湯浅誠さんとかがからむんだけど、
どの人も、他の人を押し潰すような発言をあまりしない。
「顔」とか「大声」とか「そぶり」とかで、
じぶんの意見を押し通そうとするタイプの出演者を、
なんとなく番組として「引退させた」んじゃないか
‥‥というキャスティングにも思えたのだ。

番組の前半は、
民主党が、他の参加者たちに
「つっこませて」「答える」というかたちで進行したが、
やがて、やりとりをしているうち後半には、
野党自民党の茂木さんという「つっこみ役」の人が、
ときには、民主党に
追い風を送る結果になるような発言をしたり、
世耕さんがうなずいたり、というようすが、
だんだん垣間見えるようになっていった。

じぶんたちが絶対で、なにひとつ譲らないであるとか、
まちがいがあっても認めるはずがないというような、
いかにもな党派性は、
ゆるやかに消えはじめていたように見えた。
それは、番組をつくる側の意図によるところもありそうだ。
3月にここで<あらかじめなるほどを禁じられた場面。>
という文章を書いたときには、
あきらかに、番組も司会者も、
「激しい対立こそが、番組の個性」
というような演出を狙っていたように思えた。
そういうときに必要なキャストが、テレビにはよくいる。

しかし、そういう人たちを入れないで、
「テーマについて共に考える」ということを軸にして、
キャスティングをしたり、進行を考えたりしながら、
新しい「討論番組」をつくる可能性が、
制作者のなかに生まれてきているのかもしれない。

民主党が政権をとったことの影響が、
こんなところにも、こんなふうに及んでいるのだとしたら、
いやぁ、いろんなことがたのしみになるなぁと思ってさ。
スケールは、ちがうかもしれないけれど、
アメリカ大統領にオバマさんが選ばれたときの波が、
別のかたちで、日本にも来ているのかなぁ。

政治をやる人たちが、
「政治のお客」であるところの「国民大衆」を、
いつも意識している感じというのは、
これまでずっと見た事がなかったのだけれど、
ここんところ(野党の人たちも含めて)、
目や耳に届いてくるような気がするんだよなぁ。
長妻さんへの、舛添さんのバトンタッチだって、
「共にがんばりましょう」に見えたもの。

なんて、テレビ番組の感想みたいなことを
書いたのだけど、ここでまた思い出すのが、
「ほぼ日」で過去に吉本隆明さんに聞いていた話だ。

すごい変化ですよ。
 だから、そういう意味合いじゃ、
 もう敵も味方も同じ、利害関係が同じに
 なっちゃうんじゃないでしょうかね。

 例えば自民党と民主党も、
 反対なもののはずなんだけど、
 今は同じなんですよ。
 利害関係が同じになってる。
 同じことを小さく言うか大きく言うか、
 または、同じことをカッコよく言ってるかどうか、
 そこだけの問題になっています。

 自分たちは汚いことはしないよ、と言うのか、
 自分たちのポッポに入れちゃっておいて
 でも何かもう少し違うことを考えてるよとか、
 そういう違いはあるかもしれないけど、
 でも、そのくらいの違いなんです。

『2008年 吉本隆明』 「1 敵も味方も同じ時代」より)
この『2008年 吉本隆明』のなかには、
4 とにかく民主党を見てるといい」という回もある。

 自民党と民主党は同じようなもので、
 むしろ何か新しいことが起こるとすれば、
 民主党がうまくいったときに
 そうなるでしょうし、
 そのことは、言い換えれば、
 日本にとってはひじょうに普遍的な未来、
 ということになると思います。
 ほかの政党はもう、
 未来を左右できるものがないんです。

そこで、こんなことを言っていたんだよなぁ。
去年の2月の話だよ。

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