第6回 怪傑! 熟女パブ
だんご虫達がおごってくれると言うので、
カラオケパブに一緒に行くことにした。
その店にはアイドル顔の若い女の子がたくさんいるらしい 。
「お立ち台ギャル」のサービスが最高! とのことだ。
この言葉だけでムズムズしてきた。
う〜ん、楽しみ!
いつもは、だんご虫達に腹を立てているが、
今回ばかりは僕の中で「いいヤツ」になっている。
時々あるんだ、だんご虫たちがいいヤツになる時が。
さて、六本木のクラブ街、高そうなお店が上から下まで
びっしり入ったビルが立ち並ぶ。
その中のひとつに入った。
入ってビックリ!
店内には、今となっては化石と化したミラーボールが輝き、
女の子といえばアイドルというよりは
香港ドルといった感じのオバチャンが数人。
オフクロ・・・これには、まいった・・・。
アイドル顔はどこだ。お立ち台ギャルはどこだ。
せめて高い酒を飲んで酔っ払うぞ!
と気持ちを切り替えた。
ここでは、だんご虫達が「社長」とか「専務」とか
立派な肩書きで呼ばれ 、その言葉に満足していた。
すっかり甘えちゃって、ご満悦状態。これにもまいった。
フィリピンパブの呼び込み文句「シャチョウサン」の世界が
ここにもあった。僕はこんなサル芝居を求めていない。
若い女の子とのピュアなトークを求めているのだ!
ままごとみたいな会話を聞いているうちに
欲求不満に陥った僕は、東スポを広げ、
風俗情報をボソボソと不満そうに読みだした。
「歌舞伎町の『ラララむちんくん』行きてーなー。
『モッコリひょうたん島』だって!」
オバチャン達はイヤだ、と態度で示してみた。
「ったく!
『お立ち台ギャル』がいるっていうから来たのに・・・。
僕はこっちの『おっ立たせギャル』のほうがいいや!」。
僕は、つい口から出てしまった言葉を
東尾監督が現役だったころのビーンボールみたいに、
オバチャンに向けて思いっきりぶつけてみた。
すると「や〜だ、若い子はこれだから!」だと。
言い返す気にもなれませんよ。
この思いをどう表現すればいいの?
この人たちには東尾監督の全盛期のビーンボールを投げても
ぜんぜん通用しません。
ドカベン香川全盛期のぜい肉みたいに、
衝撃をすべて吸収してしまう。
モヤモヤがたまっていく。
僕はもっとムラムラしたいのだ!!
そうしているうちに、だんご虫の1人が歌い始めた。
安物のネクタイをバンダナがわりに頭に巻き、
尾崎豊を熱唱している。
年齢、格好、歌のミスマッチが僕の頭を悩ます。
飛ぶ鳥を落とす音程、
感情こめた重低音ボイスが響きわたり、
客として来ていた外人サンは青い目を白黒させ、
ぼう然自失。
そして、だんご虫は歌の途中から涙ポロポロ・・・。
店内の空気が湿っぽくなってきたよ。
歌い終わっただんご虫に、
オバチャンが「しっかりしなさい!
社長なら、やればできる!」
と言って、そっと肩に手をそえている。
「俺も歌うぞ−!」と、
もう1人のだんご虫が立ち上がった。
こいつは「マイウエイ」を熱唱! 人生を語りながら、
この人もやはりサビの部分で涙を流し、
泣きながら歌いきった。
そしてオバチャンが手をたたいて迎える。
このカナシイやり取りを見ていると、
こっちまで気分が滅入ってくる。
酒を飲むのがイヤになってくる。
でも、泣きながらも歌いきる
だんご虫たちの度胸は僕にはない。
ある意味すごい。僕には絶対できない。
ここは、だんご虫たちにとって、会社で疲れた心を
ホッとさせてくれる心なごむ店なのだろう。
どんな不満も悩みもここのオバチャンが解決してくれる。
ああ「怪傑! 熟女パブ」。
よし! 僕も心のオアシスを求めて
「怪傑! 未熟女パブ」を探そう!
って僕もだんご虫たちと同じか。