ニコニコしながら漫画を描く彼を見て、
「ボケ防止のためなんだ」と
自分に言い聞かせるしかなかった。
そして彼は、
出来上がった見積書とカタログを持ち、
外出していった。
どこへ行ったか知る人はいない。いつものことだ。
迷子にならずに戻ってくるだけマシな のだ。
夕方、電話があった。
映画館から
「忘れ物なんですけど、名前は分かりませんが、
社名と電話番号が書いてあったので・・」
「忘れ物って何ですか?」
「◯◯の制作の見積書とカタログです」
奴だ!映画を観てやがった。
新宿昭和館じゃないだけマシか・・
「取りに行きます」と電話を切って、
彼の帰りを待った。
どんな顔して帰ってくるのだろうか。
涼しそうな顔をして帰ってきやがった。
ゆっくりとイスに座り、大好物の都こんぶを口にする。
「あの見積書ですけど、届けました?」
「届けてきたよ」
「どうでした?」
「あれでOK、ありがとう」
「そうですか、さっき映画館から
忘れ物の電話があったんですが 、
届けたなら間 違いですね」
「あ、届けた、かも、しれない」
……??・・!!あ゛?なに??・・
そして彼にクライアントから電話があったようだが、
「明日お伺いします」と言って切っていた。
彼を見ると、大きなアクビ。
机の上には、老眼鏡、養命酒、
都こんぶ、今まで描いた漫画集。
こんな人のために見積書を作るという強制労働をさせられ、
淡々と過ぎゆく日々に
「俺は何をしているのだろう」と考えてしまった。
追伸
先日新聞にビル・ゲイツの資産が載っていました。
6兆9000億円 。
分かりづらいので僕の年収で割ってみました。
なんと200億年生きられるのです。
余計分からなくなってしまいました。