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真実の「だんご虫株式会社」

第2回 忘れ物

この時、レフトのあたりをのっそのっそと
歩いていた大きな身体の選手がいた。
馬場正平投手で、現在プロレスラーとして
活躍しているジャイアント馬場さんである。
この頃からジャイアント馬場さんは
雲をつかむような大男だった。
 (王貞治 著 「回想」より)

こんな大男がウチの会社にもいる。年齢が50歳位で、
会社で1番ノッポのAさん 。
夕方になると産卵後のシャケみたいに
疲れ切ってしまう人である。
雲をつかむ大男ではなく、いつも雲を眺めている大男で、
老朽化した身体を一生懸命動かし 、
のっそのっそと歩いている。

Aさんはとにかく時間に正確で、出社、退社はもちろん、
昼食の時間まで常に時報ピッタリに動く。
Aさんの行動を見ていれば時間が分かることから、
みんな「大きなノッポの古時計」と呼んでいる。
♪ いまは、もう、う・ご・か・・・・。

そんな彼に「見積書を作ってくれ」と頼まれた。
「またか!」と思いながら、
パソコンアレルギーの彼のために見積書を作り始めた。
しかし、その横で彼は漫画を書いているのだ。
チリチリパーマの鈴木義司が土管の中で暮らすという、
富永一郎風の痛快アクション漫画。

第2回目の2

ニコニコしながら漫画を描く彼を見て、
「ボケ防止のためなんだ」と
自分に言い聞かせるしかなかった。
そして彼は、
出来上がった見積書とカタログを持ち、
外出していった。
どこへ行ったか知る人はいない。いつものことだ。
迷子にならずに戻ってくるだけマシな のだ。

夕方、電話があった。
映画館から
「忘れ物なんですけど、名前は分かりませんが、
社名と電話番号が書いてあったので・・」
「忘れ物って何ですか?」
「◯◯の制作の見積書とカタログです」
奴だ!映画を観てやがった。
新宿昭和館じゃないだけマシか・・
「取りに行きます」と電話を切って、
彼の帰りを待った。
どんな顔して帰ってくるのだろうか。

涼しそうな顔をして帰ってきやがった。
ゆっくりとイスに座り、大好物の都こんぶを口にする。
「あの見積書ですけど、届けました?」
「届けてきたよ」
「どうでした?」

「あれでOK、ありがとう」
「そうですか、さっき映画館から
忘れ物の電話があったんですが 、
届けたなら間 違いですね」
「あ、届けた、かも、しれない」
……??・・!!あ゛?なに??・・
そして彼にクライアントから電話があったようだが、
「明日お伺いします」と言って切っていた。
彼を見ると、大きなアクビ。
机の上には、老眼鏡、養命酒、
都こんぶ、今まで描いた漫画集。
こんな人のために見積書を作るという強制労働をさせられ、
淡々と過ぎゆく日々に
「俺は何をしているのだろう」と考えてしまった。

追伸  
 先日新聞にビル・ゲイツの資産が載っていました。
 6兆9000億円 。
 分かりづらいので僕の年収で割ってみました。
 なんと200億年生きられるのです。
 余計分からなくなってしまいました。

1998-07-01-WED

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