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真実の「だんご虫株式会社」

新連載 第1回 忘年会のおもいで

見た目には、もうすぐ50歳に手が届く5人衆。

仕事に対するやる気の無さと、
バカ正直なほどの善人ぶり、
ヨイショなら誰にも負けないという自信は、
会社から珍種の生態として保護されている。

この5人衆がいる隔離病棟というか、
ヨタ者の更正施設(リストラへの登竜門)で
忘年会が行われることになり、
僕はこの忘年会の幹事になってしまった。

第1回目の1

「日本医師会、尊厳死を認める。」
の新聞記事を見て、
うなずいてしまうほど賞味期限が切れたAさん。
山城新伍の「チョメチョメ」が得意技のBさん。
ホコリまみれの考古学者のような風貌のCさん。
死刑直前になって、
無実を叫ぶ死刑囚のように
うるさいDさん。
ペルーのコカインシンジケートのような
不気味さがあるEさん。
この5人の取扱説明書には、
「いじるな注意!」と書いてある。
ポコチンと同じで、
イジればイジるほど態度が大きくなるらしい。
気をつけねば。

調査の結果、彼らの共通項は日本酒と鍋だったので、
日本酒と鍋がおいしい店
を予約。時間は会社の定時が18時なので、
余裕をもって19時にした。

いざ、忘年会が始まると、
5人衆は気持ちよさそうに酒に酔い、
これからの会社のあり方について、
自分たちのような団結力が
大切であると互いに確認しあい、「バブルの時は・・・」と、
今となってはバブルというより
ドブのアブクにしか見えない現在と当時を対比させ、
延々と集団リハビリを行っていた。

第1回目の2

バブル、バブルと口癖のように連発。
まさにバブルスターだ。

長い話を要約すると、
「会社が自分の適性を把握していない、
現在の部署では能力を発揮できない、
だから給料があがらない、
今後の自分が不安だ・・・」となる。
バブルの時の彼等はどんな人だったのか?

不思議なことに、5人ともトイレから帰ってくると
必ず僕の肩を揉むのだ。
これもバブルの名残りなのか。
「ドロンするか」なんて言ったりする。
バブルの後遺症なのか。

酒もグチも最高潮に達しており、
話は途中ではあったが
「そろそろお開き・・・」と
言いかけたとたん、
彼らの不満が僕にむけられた。
それまで、日本代表のように
3-4-4のフォーメーションだったのが、
いきなり11-0-0になって攻めてきた。
「飲んでねーじゃねーか!」
「正座して聞け!」
「お前もこうなるんだよ!」
「お前みたいなのがいるから、会社はダメなんだ!」
刑務所のネジリン棒や
パラシュート部隊のような怒涛の攻撃。
とどめは
「18時に会社が終わるのに、
何で集合時間が19時なんだ。
1時間返せ。!」

・・・・・・??・!!!1時間返せ???
「時間を潰す身になってみろ!」
「お前の忘年会じゃないんだ!」

第1回目の3

松田優作の「なんじゃコリャー!」
のセリフが頭をよぎった。
僕だって新入りだけど、
「蘇る金狼」
を3回映画館で観た男だ。
しかし、僕は松田優作の「優」
の字だけを
身につけてしまった男だった。

会社がなぜ、
窓際のスーパーシートを
用意するかが、
やっと分かった。
ある意味で、
彼らは無敵なのかもしれない。
ヤクルトの飯田が
「壁際の魔術師」ならば、
彼らは「窓際の魔術師」だ。

僕は、この5人の魔術師たちと、
この魔術師たちに日当たりのいい
シルバーシートを用意している素敵な会社と、
うまくやっていけるのだろうか?

1998-06-21-SUN

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