HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN https://www.1101.com/home.html   「大坊珈琲店」 大坊勝次さんの38年            書籍『大坊珈琲店』刊行記念対談

第2回 コーヒーを待つあいだに。
山下 ‥‥というわけで、
大坊さんがコーヒーを淹れにいきました。
福田 はい。
山下 ‥‥どうしましょう。
糸井 コーヒーができるまで、なにか話をしてればいい?
山下 ええと‥‥
でもこれは、大坊さんと糸井さんの対談なので。
糸井 ま、いいじゃない、流れで(笑)。
山下 対談相手がいない対談‥‥めずらしいパターンです。
福田 糸井さんは開店のときから
「大坊珈琲店」を知ってるんですか?
糸井 いや、「本日オープン」みたいな日は知らないです。
でもたぶん、最初のころから行ってたとは思う。
開店は何年でしたっけ?
山下 1975年です。
糸井 うん。知っててもおかしくないですね。
山下 はじめてお店に行ったときのこと覚えてます?
糸井 はじめては、どうだったか‥‥。
ぼくが大坊さんにはじめて会ったのは、
喫茶店だったか、野球の試合だったか、
よく覚えてないんです。
山下 ああ、その話!
前に聞いたことがありました。
糸井さん、むかし大坊さんと
草野球をいっしょにやっていたと。
福田 へえーー、そうだったんですか。
糸井 大坊さんはちゃんと野球ができる人なんですよ。
山下 大坊さんのポジションは?
糸井 たしかセカンド‥‥だったかな。
福田 糸井さんは?
糸井 ぼくはセンター。
糸井 初めての試合で、ホームラン打ったんだ、おれ。
それですっかり上手だと思われちゃった(笑)。
たまたま打てちゃっただけなのに。
山下 へえー(笑)。
糸井 若かったです、ぼくも大坊さんも。
年齢はいっしょくらいじゃないかな。
だからそのころは、
20代の大坊さんがやってる喫茶店なんです。
まだ「名店」ではないですよね。
でもいいお店でした。
ミステリーの文庫本があって、
ジャズのレコードがあって。
福田 ああ、それは最初から変わらないんですね。
山下 そこから38年、あの場所でお店は続いて‥‥。
糸井 ‥‥ほんとに閉店しちゃったよなぁ。
山下 糸井さんと12月のクリスマスころに、
「あ、12月で終わっちゃう、行かなくちゃ」
って行ったら、もう閉店してたんですよね。
糸井 あれは雨の日だったね。
山下 あのときの写真、あります?
ぼくが糸井さんのiPhoneで撮った写真。
糸井 あると思います。あとで送りますよ。

▲あとで送ってもらいました。

▲入り口にはこんな張り紙がありました。
糸井 大坊さんは、言ったことを守る人だよね。
「12月でやめます」と言ったから、
ピシャっと閉めた(笑)。
山下 ええ(笑)。
この、『大坊珈琲店』という本に、
開店のときに配ったチラシが載ってましたよね。
ええと‥‥(本を開く)、このページです。
糸井 はい、はい。
山下 開店前、近所のアパートや家に
大坊さんがこれを配ったんだそうです。
福田 はぁー、これを(読む)。
‥‥これは、グッときますね‥‥。

※クリックすると大きな画像でお読みいただけます。
山下 ここでも約束をしてるんですよ。
「大坊珈琲店は年中無休です」って。
糸井 うーん‥‥なんて言うんだろうな、
一所懸命しか売り物にならないからね、若い時期は。
誰だってそうじゃないですか。
土下座するのは嫌じゃない?
だから、静かに約束をして静かに守るっていうのは、
なんか‥‥うん、いい。
若い人がとる方法として、ぼくは賛成ですね。
たいへんなことなんだよ、守るって。
大坊さんはあの店を、
自分の居場所にしようと本気で思ったんだよね。
山下 そうですね、本気を感じます。
糸井 ‥‥福田さんは?
福田 え?
糸井 「大坊珈琲店」にはじめて入ったのは?
福田 ぼくは大阪に住んでいたんですけれども、
10年以上前、仕事で表参道に来たことがあって。
そのとき、ふと2階にある喫茶店を見つけて、
それが大坊さんだったんです。
偶然に入ったんですけれど、
なんか、すごい落ち着いたんですよ。
大阪から表参道に来て気を張ってたのに、
一気にほぐれました。
糸井 わかる。
田舎から出てきた人にはラクなお店ですよね。
福田 大阪の千日前とか心斎橋とかにある、
古い木が使われた、燻されたような喫茶店に
よく行ってたんですよ。
そういう喫茶店が、
まさか表参道にあるとは思わなくて。
糸井 そういう喫茶店、たしかにありますね、大阪に。
大の大人が平日に来る場所。
福田 そうですね(笑)。
糸井 礼儀をわきまえたお客さんなんですよ、みんな。
福田 ええ。
糸井 でも、「仕事しなくてだいじょうぶなんですか?」
みたいなことも感じる(笑)。
福田 ははははは。
山下 まさしくいま、ここがそういう感じです。
糸井 ああ、ほんとだわ。
山下 せっかくのセットが
ちゃんと喫茶店になってよかったです(笑)。
大坊 お待たせしました。
糸井 ああ、これはこれは‥‥。
山下 ありがとうございます。
糸井 奥様にもお手伝いをさせてしまって。

▲「大坊珈琲店」を共に営んだ奥様がコーヒーを運んでくださいました。
大坊 どうぞ、お召し上がりください。
山下 ‥‥ああ。
糸井 このカップは?
山下 お店で使っていたものを
大坊さんが持ってきてくださいました。
糸井 ありがたいことです。
いただきましょう(飲む)。
山下 (飲む)
福田 (飲む)
福田 ‥‥おいしい。
山下 おいしいです。
糸井 ‥‥大坊さんのコーヒーだ。
ちゃんと記憶が重なるものなんですねぇ。
おもしろいなぁ。
 
(つづきます)
2014-07-18-FRI

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