ほぼ日刊イトイ新聞

妻 と 夫 。 02 保坂俊彦さん+乙幡啓子さんご夫妻 友だちでも、両親でも、ご近所さんでも、 「妻と夫」を見ていると、 なにかとふしぎで、おもしろいものです。 ケンカばっかりしているようで、 ここぞの場面でピッタリ息が合ってたり。 何でも知っているようで、 今さら「え!」なんて発見があったり。 いつの間にやら、顔まで似てたり‥‥。 いろんな「妻と夫」に、 決して平凡じゃない「ふたりの物語」を、 聞かせていただきます。 不定期連載、担当は「ほぼ日」奥野です。

第2回
ホッケのペンケースをつくる妻。

──
奥さまの乙幡さんは、
ネットで「妄想工作所」を運営されており、
何でしょう、
いろんな「おかしなモノ」‥‥を、
おつくりになってらっしゃいますね、次々。
乙幡
はい。
──
最近でも「ハト型のハイヒール」、
その名も「ハトヒール」でブレイクされて。
乙幡
あれは、
とりわけ海外の人たちにおもしろがられて、
ツイッターで
いわゆる「バズって」いました。

いちおう、見ますか?
──
見たいです。
乙幡
では、持ってきますね‥‥これです。
──
うわー、こいつこいつ。
※ハト型のハイヒール(婦人靴)です。 提供:乙幡啓子
乙幡
マヌケな顔してるでしょ。
──
そうですね、少々。
保坂
イッてますよね、目が。
──
はい。でも、けっこう好きかも‥‥。
乙幡
あ、ほんとですか?

これ、狙ったわけじゃないんだけど、
顔の造作をまちがえて、
こうなっちゃっただけなんだけど、
なんだかちょっと、
イラッとさせる表情じゃないですか。
──
ああー、するする。イラッと。
乙幡
するでしょ?
──
します、します。

しますが、きっと本物のハトとは
違うんでしょうが、
奇妙な「リアル感」がありますね。
乙幡
この目で、人間の言葉をしゃべったら、
絶対うっとうしい奴だと思う。
保坂
間違いないね。
──
これは、市販のハイヒールに、
フェルト等で「ハトのガワ」をつくって、
くっつけてるんですよ‥‥ね?
乙幡
そう、断熱材なんかに使われる
発泡スチロールみたいな素材を芯にして、
羊毛フェルトを
チクチク刺してガワをつくりました。
※着用イメージ(正面) 写真提供:乙幡啓子
※着用イメージ(バックスタイル) 写真提供:乙幡啓子
保坂
これで上野公園を歩いたんですよ。
──
由緒ある恩賜公園を。
乙幡
ハトと仲良くなれるかなと思って。
──
なれたんですか?
乙幡
ハトより老人が寄ってきました。
──
「何じゃいその靴」‥‥と。
乙幡
ハトに自然に近づいていくためには
靴の構造上、
私が「後ろ歩き」しなければならず、
それが非常に疲れました。
写真提供:乙幡啓子
──
ツイッターで話題になっていたところを、
たまたま目にして
またおかしなことする人がいるもんだと
思ってたら「ああ、乙幡さんか」と、
ある意味、納得感がありました。
乙幡
最初はデイリーポータルZの記事として
公開したんですけど、
海の向こうのサイトの人からも
「クレイジージャパニーズウーマンがいる」
ということで、
「俺のところにも転載してもOKか?」
みたいな問い合わせが、たくさん来ました。
──
この「ハトヒール」なる作品は、
どのような瞬間に、思いついたんですか?
乙幡
そうですね、ま、ダジャレといいますか、
「ハイヒール」と
「ハトヒール」ってことで、
ダジャレとしては、
ギリギリ成立してない感じなんですけど、
でも、発想のもとは、そこです。
保坂
「ハ」しか合ってない。
乙幡
いや、「ハ」と「ヒール」が合ってる。
──
まあまあ(笑)。

でも、乙幡さんの作品を拝見していると、
ダジャレ系、多いですよね。
乙幡
多いですね。非常に。

ダジャレには
隘路をブレイク・スルーするパワーが、
あると思っています。
保坂
この「ケルベコス」もダジャレだしね。
──
あ、有名ですよね。
乙幡
有名って。バカにしないでくださいよ。
──
いえいえ、この作品も、
ネット上で何度か見かけたものですから。

これはつまり、ギリシア神話に出てくる
3つの頭を持つ犬ケルベロスの
「赤べこバージョン」ってことですよね。
乙幡
そうです。
──
ようするに、ケルベロスの「ベロ」と
赤べこの「べこ」をかけて‥‥。
乙幡
真顔で説明するのはやめてください。

ほかにも、ホッケ型のペンケースで、
チャックを全開にすると、
ホッケ定食のホッケに早変わりする
「ほっケース」もあります。
──
あー、巷にニセモノが出回るほど、
たくさんの人々の心をわしづかみにした、
ホッケ型のペンケースですね。

あのキタンクラブさんから、
ガチャガチャバージョンも出てるという。
保坂
このケースは、夕食の食卓に、
ホッケの開きが出たとき、生まれたんです。
──
やっぱりですか。
乙幡
あのとき、ふたりでしゃべってたんです。

ホッケホッケって言うけど、
生きて泳いでいるときにどんな姿だったか、
みんな知らないよねって。
──
たしかにホッケって、
開かれ、焼かれ、定食になった状態でしか、
イメージないですね。
乙幡
でしょう?
──
そこで‥‥「閉じてみた」と?
保坂
そう、目の前のホッケの開きを
パカパカ閉じたり開いたりしてたときに
「まてよ!?
おい、これ、ケースになるぞ!」って。
──
何やってるんですか(笑)。

でも、すごいですね。
そんな夫婦の共同作業から生まれたのが、
この、乙幡さん最大のヒット商品。
乙幡
たまたまギフトショーみたいなのでウケて、
すごく広がってしまって、
「ほっケースをまわすので手いっぱい」
みたいな年が何年か続きました。
保坂
一時期などは、
この人がミシンで縫ってたんですよ。

ひとつひとつ。
──
なんと、作家おんみずから。
保坂
もっとも売れていたときは、
家じゅうに常に段ボールが積んであって、
中には大量のホッケが並んで‥‥。
──
ひょっとしたら、
本物のホッケ業者さんよりも、ホッケを。
乙幡
出荷していたかもしれない。
──
ケースの外側にプリントされている
焼く前のホッケの写真、
これはどういった写真なんですか?
乙幡
西友で買ってきたホッケを真上から。
──
撮ったんですね、ご自身で。
乙幡
撮りました。両サイド、きちんと。
──
そこは、パソコンの画像反転とかで、
ズルせずに。
乙幡
もちろんです。作品ですから。
──
素晴らしいですね‥‥すべてが「自力」。
乙幡
ホッケでイケイケだったころは、
調子に乗って
「大根おろしにみたてた練りゴムや、
箸に見立てた鉛筆を
関連商品として売り出そうか」
くらいまで話がいったんですけどね。
──
そこは自重されて。
乙幡
ええ。

<つづきます>

2017-08-15-TUE