HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

カッパとウサギの コーヒーさがし

第21回 気仙沼コーヒー編 アンカーコーヒー復活の日に。
山下 おひさしぶりです!
福田 おひさしぶりです!
山下 おぼえてますか?
この人がカッパです。
福田 ご記憶ですか?
この人はウサギです。
山下 なんとこのコーナー、1年以上ぶりです。
福田 そんなになりますか。
山下 前回の更新が2010年11月30日なので、
そうですね、1年と4カ月ぶりです。
福田 はあーー、そんなに‥‥。
山下 でも福田さん、
ページ上ではごぶさたですけれど、
ぼくらはずっとコーヒーを淹れていました。
福田 そうですね、それはそうでした。
山下 いろいろなイベントにお呼ばれして。
福田 いろいろな場所で淹れてました。野外とか。

カフェ&ミュージックフェスティバルにて
山下 ああいうのは、続けたいですねぇ。
福田 ええ、
実際にコーヒーを飲んでいただけるのは
やっぱりたのしいです。
山下 ね。
福田 うん。
山下 それはそれとしまして。

このコンテンツをおやすみしているあいだに、
おおきな出来事がありました。
福田 はい。
山下 3月11日。

あの日から1年以上が経ちましたけれど、
ぼくと福田さんはそれぞれに、
自分ができる仕事を続けていました。
福田 はい。
山下 そんなある日、ふいに、
コーヒーにまつわるお仕事が
福田さんのところにやってきたんですよね。
福田 去年の10月ころだったと思います。
「アンカーコーヒーの
 パッケージデザインをしませんか?」
というご依頼が、ほぼ日さんから。
山下 アンカーコーヒーというのは、
気仙沼のコーヒーショップです。
福田 そうです気仙沼の。
山下 ‥‥あのね、福田さん。
福田 なんですか?
山下 ぼくはうれしかったよ。
福田 ん?
山下 デザインで気仙沼を応援するというお仕事を、
福田さんがやることになるなんて。
福田 光栄です。
山下 福田さんのマスキングテープ術をみて、
「これでコーヒーのパッケージを」
と思ったそうです、糸井さんが。
福田 ありがとうございます。
うれしくてちびりそうです。
山下 ‥‥そういうことを言わないの。
せっかくすてきな絵を描くのに。
福田 気をつけます、イメージづくりに。
山下 ほんとにもう、お願いしますよ。

では、お見せしましょう、
アンカーコーヒーのパッケージのために、
マスキングテープで描かれた、
これがイラストレーター・福田利之の作品です!
福田 3つ描きました。
まず、「RIAS」。
福田 これは、「I'm home」。

福田 そしてこれが、「UP」。

山下 ‥‥すごいです。
福田 ありがとうございます。
山下 これ、マスキングテープなんですよね。
福田 はい、ぜんぶマスキングテープです。
山下 ちなみに、
「RIAS」「I'm home」「UP」というのは、
糸井重里が考えた
コーヒーブレンドの名前です。
福田 ほぼ日さんで、
4時間打ち合わせをして決めたネーミングです。
山下 あの、4時間ミーティング!
そしてそのあと福田さんは、この絵を描くために、
わざわざひとりで気仙沼を訪ねました。
福田 やっぱり現地を見ておきたいと思って。
山下 見たからこそ、描けたんですよね。
福田 はい。
そうやって描いたぼくの絵を、
山口さんがすてきにデザインしてくださいました。
山下 そうです、ぐっさんが。
ほぼ日の山口、渾身のデザインにより、
福田さんの絵はこういうパッケージになりました。



福田 こんなにかっこよくしてもらって、
ちびりそうです。
山下 ‥‥だから、言わないのそういうことを。
いますてきな話をしてるんだから。
福田 すんません、
うれしいとふざける習性があります。
山下 ともあれ、
こうしてできあがったデザインサンプルを手に、
ぼくと福田さんは、
気仙沼のアンカーコーヒーをたずねました。
福田 去年の12月でしたね。
山下 12月23日。
アンカーコーヒーの仮店舗がオープンした日です。

山下 アンカーコーヒー復活のニュースは、
一度こちらでレポートしました。
福田 やっちさん、うれしそうだったなぁ。

山下 やっちさんこと、
アンカーコーヒーの小野寺靖忠さんです。
福田 もう、大好き。
山下 大好き!
なんでぼくらはこんなに、
やっちさんが好きなのか。
福田 あかるくて、おおきいから。
山下 そうだ、おおきい!
福田 おおきい!
山下 やっちさんのおおきさはともかく、
復活の日のアンカーコーヒーは大盛況でした。

福田 みんなが待ってました! という感じで。
だれもが笑顔で。
山下 福田さんも笑顔で。

福田 店内の壁が、赤なんです。
山下 あの赤はかっこよかったねー。
福田 津波で全壊したアンカーコーヒーが、
赤い建物だったんです。
アンカーコーヒーといえば、赤。
だからこの仮店舗も、壁が赤。
大きなロゴマークが描いてあって、
それもかっこよかったです。
山下 そのロゴマークのモノマネを
ふいに福田さんにお願いしました。
福田 こんな感じで。

山下 ぜんぜん似てませんでした。
福田 ええ、われながらダメだと思います。
山下 テレフォンショッキングの、
「友だちの輪」じゃないんだから。
福田 微妙に古いこと言いますね。
山下 とにかく、正しくはこう!

福田 これは、上手かった。
山下 ね?
福田 アンカーマークの丸いわっかの部分も、
ぱかんとあけた口で表現している。
山下 というようなことをしていましたら、
やっちさんが注文したコーヒーを
持ってきてくださいました。

山下 さて、
ここからは時計の針をぐいーんと戻しまして、
あの日の現場でのお話を
そのままお届けいたしますねー。
福田 え? え? それはどういうことですか?
山下 大丈夫です、あとでページを見ればわかります。
ひとまず休憩。
福田さんは、お水飲んできていいですよ。
福田 あ、水。
水飲んできます。
山下 ちゃんとお皿を湿らせてね。
福田 へい。(ぺちゃぺちゃぺちゃという足音で去る)

2011年12月23日 アンカーコーヒー&バル田中前店にて
ふたり おめでとうございます!
やっち ありがとうございます。
山下 このオープンの日に合わせて、
例のやつをもってきました。
やっち 例のやつですね(笑)。
山下 こちら、デザインサンプルになります。

やっち ‥‥いやぁー、すばらしい、すばらしいです。
福田 やらせていただいて、光栄でした。
山下 コーヒーのコンテンツをやっていたおかげで、
こういうたのしいことができました。
もう、ほんとに
しろうとのコーヒーごっこなんですが。
やっち いやいやいや、おもしろいっすよ。
「栓が抜けない!」とか(笑)。
福田 ふぉふぉふぉふぉ。
やっち ほんとにそういう笑い声なんですよねぇ。
山下 そうなんです。
読んでいただいてありがとうございます。
で、いかがでしょう、
この3種類のパッケージは。
やっち いや、ですからもう、感激です。

福田 ありがとうございます。
やっち こちらこそ、ありがとうございますです。
なんか‥‥福田さんって‥‥
この前知り合ったばっかりなんですけど‥‥
ほんとはすごいんですね、福田さんって。
福田 やめてください、そんな。
やっち いやぁ、あのね‥‥
絵が上手い!
山下 わははははは。
やっち 福田さん‥‥絵で食えます。
ふたり はははふぉふぉははふぉはは(←まざってる)。
山下 さすがです!
福田さんのいじり方が、すでにカンペキです。
福田 きれいにいじられて、気持ちがいい!
やっち すみません福田さん(笑)、
失礼しました、もちろん冗談です。
ほんとに感動です、これは。

山下 ではせっかくですのでひとつずつ、
福田さんにイラストのお話をうかがいましょうか。
やっち ええ、ぜひお願いします。
山下 まずはこの、「RIAS」から。

福田 糸井さんがつけた「RIAS」は、
リアス式海岸の「リアス」で、
まずはその海岸のイメージです。
やっち なるほど。
真ん中にある、丸い球体は?

福田 それは、「木」です。
やっち 魚の、木?
福田 前に気仙沼に来たとき、
「牡蛎の養殖は、
 まず森を育てないとだめだ」
という話を聞きました。
だからこれは木のイメージ。
やっち そうですか、木なんですね‥‥。

山下 そして全体的には、アンカーマークなんですよね。
やっち え?
山下 全体のフォルムが‥‥ほら。

やっち んん‥‥?!
山下 福田さん、肉体でアンカーを表現して。
福田 ‥‥え。
ええと‥‥‥‥はいっ!

やっち ああー! あははははは!
いっやあ、なるほど?、アンカーマークだ。
これは気づかなかったです。
すげえなぁ、いくつも意味が入ってるんですね。
山下 続いて、「I'm home」。

やっち これ‥‥
最初に見たとき泣きそうになりましたよ。
赤い家がふたつあって、
それが前の店舗に見えて‥‥。
福田 それは、そうなんです。
赤いアンカーコーヒー2店舗を、
どこかにさりげなく入れたくて。
それを中心に、
いろんな家が立ち並ぶ気仙沼の街を表現しました。

やっち そうですか、うれしいなぁ‥‥。
それで、「I'm home」。
「ただいま」「おかえりなさい」‥‥。
これはやさしいブレンドにしたいです。
福田 右下には、この先にできる予定とうかがった
復興の象徴になるベイブリッジを入れました。

やっち ‥‥福田さん、すごいですほんとうに。
山下 最後に、「UP」について。

福田 はじめてやっちさんに会ったとき、
「不死鳥みたいに」とおっしゃっていて、
それが印象的だったので
ストレートに絵にしました。
リアス式海岸に太陽が昇り、
はばたいていく、上に向かっていく、
そんな、すごく前向きなイメージで。
やっち ‥‥ありがとうございます。

この3つのイメージにふさわしい、
それぞれのブレンドを、ぼくはつくります。
山下 たのしみにしています。
福田 すごくたのしみにしています。
山下 ‥‥それで、
急に話が変わるのですが、やっちさん。
やっち なんでしょう。
山下 実はぼくたち、
気仙沼をたっぷり感じながら
コーヒーを淹れて、飲みたいんです。
やっち ‥‥なんの話でしょう?
山下 こういう旗をつくりまして‥‥。

やっち おー、いいですねぇ(笑)。
TRIP TO DRIP.
ドリップの旅ですか。
山下 そうそう、そうなんです、
つまり旅先の野外で、
その土地を全身に感じてドリップしたいんです。
やっち 野外で。
山下 気仙沼なら、場所はどこがいいでしょう?
やっち そういうことなら、
それはやっぱり「安波山」じゃないですか。
山下 安波山。
やっち 安波山の展望台。
気仙沼が一望にできますよ。
きょうは風が強くて雪もちらついてますが。

山下 安波山‥‥。
福田 強風‥‥。
山下 ‥‥行きますか。
福田 ‥‥のぞむところです。
  (いざ、ふたりは安波山へ。
 あしたにつづきます)

2012-03-22-THU

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