秋田書店『エレガンスイブ』の編集者・金城小百合さんから
「ひめゆり学徒隊の話からなにか描けないか」
という企画をいただいたのが2008年の夏のことでした。
当時の私は、まだ1冊しか本を出したことがない、
マンガ家デビューして3ヶ月くらいの新人でした。
まだ作家性が定まっていないうちに
戦争の話を描くなんてとんでもない!
力不足だし、戦争ものなんて怖くて嫌だ。
渋っていると、
「少女の視点から描けないでしょうか」と金城さん。
「戦争そのものを描くことはできませんが、
 史実に想を得た戦争というのであれば
 描くことができるかもしれません」
と返事をした気がします。



その年の10月、沖縄へ取材にいきました。
正直なところ、
この時点ではまだ、描くのを迷っていました。
ひめゆり祈念資料館をみて、糸数壕(アブチラガマ)へ。
沖縄戦で実際に人々が隠れていた場所です。
真っ暗なガマに入ったとき、
たくさんの失われた命を感じて恐ろしかったです。
でも、ふと、
こんなガマに高校時代の自分が立っていたかもしれないな、
と思えました。
少女たちが実際にいたんだ、
彼女たちに、歴史の上ではなくて、
夢の中で触れるように出会うことができたら。

描けるんじゃないかな。



沖縄の取材は戦跡巡りが中心だったので、
「描ける」と確信したものの、
取り組むことの責任とか、
ことの大きさに逃げ出したくなりました。
そんなとき、
沖縄の本来の美しさが落ち着かせてくれたように感じます。
美しい海や砂浜、南国の植物、
おいしい食事、出会った人々‥‥
悲しいこと、どうにもならないこと、
説明のつかないことに立ち向かっていく
ささやかな美しさを目にした気がします。
戦争が日常を壊すのなら、
日常だって戦争を追いやることができるのかもしれない。
そんなことを考えながら
2年をかけて「cocoon」を描きました。




女子高生の目線で戦争を描いた
『cocoon』は、どのようにして生まれたのか。
この企画を立ち上げた
秋田書店の編集者、金城小百合さんに
お話をうかがってみました。






わたしは沖縄に生まれて、
転勤の多かった両親のものと、本州で育ちました。
沖縄出身の父や母は、わたしが小さなころから
よく沖縄の戦争のことについて話してくれました。
でも、学校では
戦争が話題になることはほとんどなくて。
そういうことを口にすると
うとましがられちゃうことも知っていたので、
わたしから話をすることもありませんでした。
そういう違和感というか、わだかまりが
わたしのなかには、ずっとありました。

大人になってから
そのわだかまりはなんなのか
突き詰めて考えてみたんです。
そうして思ったのは、
本州で生きる人たちは
沖縄の戦争を過去の出来事として、
その時代に生きた特別な人たちのものとして捉えていて
自分とは別の次元の話になっているじゃないかな、と。
戦争があった時代の人たちの感情に
うまく寄り添えられなかったからだと思ったんです。

それから、ひめゆり平和祈念資料館に行って
この学年はおかっぱ、この学年はみつあみ、など
学年ごとに髪型が決められてたり、
ガマの外へ出るときにヘアピンを落としてしまったので
一人、ガマの中に戻ったときに
外が爆撃にあったという話を知りました。
このようなエピソードから
戦争という痛ましい事実の中に、
女子高生として生きていた現実がちゃんとあるんだと感じ、
戦争のなかで生きた女子高生の目線で
物語が描けないかな、と考えるようになりました。

そんなとき、
今日さんの『センネン画報』を読んで、
「この人だっ!」と感じました。
マンガのモチーフとして女子高生を
たくさん描かれている今日さんなら、
この時代の少女たちの目線で
戦争を描いてくれるじゃないかと思い、
お願いさせていただきました。

沖縄の人が沖縄のことを描くと
どうしても熱が入ってしまうのですが、
東京生まれである今日さんは、
そういう部分ですごく冷静でいてくれて。
わたしが熱くて、
今日さんはフラットな状態というのが
物語をすごくいい温度にしてくれたと思っています。
また、『cocoon』では
沖縄の方言はほとんどつかわず、
いつの時代なのかすらわからないけれど、
これって沖縄の話だよね、と
なんとなくわかるくらいの世界観にしたい、
ということも、最初のほうの打ち合わせで
今日さんとお話しました。

「マームとジプシー」が
『cocoon』を舞台化したい、と
いってくれたときは、とてもうれしかったです。
この夏の公演を、たのしみにしています。




読んでいたときは全く気づかなかったのですが、
『cocoon』でつかわれた沖縄の方言は
「ガマ(洞窟)」と「ウージ(さとうきび)」だけ。
たしかに、沖縄だということは
どこにも描かれていないのですが、
なんとなく、沖縄だと感じて読んでいました。
金城さんの沖縄に対する
誠実な想いを感じた瞬間のひとつです。
『cocoon』を読んだことがないかたは、
ぜひ読んでみてください。
今までの戦争の語られ方とはちょっとちがう、
不思議な気持ちになれるマンガです。

(おおたか)

2013-06-25-TUE