自分が本当にやりたいことに気づいたジル・サンクロワは、
ストリートで演じるグループをつくろうと決意します。
神話を軸とし、パフォーマンスと音楽で、
大きなストーリーをみせていくというプロジェクト。

しかし、それには、資金が必要でした。
政府の資金援助を得るために、
「自分が有名にならなくてはいけない!」と感じた
ジル・サンクロワは‥‥。

適度に長く、適度にかいつまんだ、
シルク・ドゥ・ソレイユのはじまりの物語を
どうぞお読みください


『ジル・サンクロワの適度に長い物語 その1』

私は、有名になるために、
なにか、誰もやったことのない
ユニークなことをやらなきゃいけないと思いました。

そして思いついたのが、
ベ・サン・ポールからケベック市まで
竹馬で歩いて移動するということでした。

私は、この計画について新聞に広告を出しました。
ベ・サン・ポールからケベック市まで竹馬で歩くから、
おもしろいと思う人は、
1キロ歩くごとにいくらかください、と。
1キロ歩くごとに1ドル出す、という人がいたら、
100キロ歩いたら、100ドルになりますからね。

広告を出したことで、
ケベックの新聞社が私の計画を知ることになりました。
私は、22時間をかけて、ケベック市まで歩きました。
4月にスタートして、着いたのは6月でした。

ケベック市に着く直前に、私は新聞社に電話をしました。
「まさに、いま、これから、着くぞ」って言ったんです。
すると新聞社は、
インタビューアーとカメラマンを派遣してくれました。

翌日、私は、「何者か」になっていました。
新聞の一面には私の記事が写真つきで掲載されました。
なぜ私がこんなことをしているのか、
なんの資金が必要で、どんな計画をしているのか、
それが広く知れ渡ったのです。

政府の人は、私に向かって言いました。
「あなたは頑固で、非常に動機の強い人だ。
 そしてあなたは本当に
 このプロジェクトを信じているようだから、
 私たちはこのプロジェクトを受け入れましょう」
そして、政府は私に6万ドルを提供してくれました。
それとは別に、ケベック市まで歩きながら稼いだお金が
1万2千ドルぐらいになっていましたから、
この竹馬の旅で、私は都合、7万ドルを得たわけです。

私はそのお金で最初のショーをつくりあげました。
メディアはその後も私たちを取材してくれました。
私は7人のアーティストと契約し、
5人の音楽家を雇いました。

その、最初のメンバーのひとりが、
いま、シルク・ドゥ・ソレイユの
中心的人物である、ギー・ラリベルテです。

私は、ギーといっしょに、このカンパニーを
ストリートプレイヤーを中心にした形で
伸ばしていきました。

政府にかけ合い、
ストリートフェスティバルという催しも成功させました。
そして、アーティストを探しながら、
コンテンツを探しながら、いままでやってきました。

──だいたい、そういったあたりが、
私の出身の背景ですね。


そう言って話を区切ったあと、
ジル・サンクロワは、予定外に長くなってしまった
自己紹介に少し照れたように肩をすくめ、
「──この話は、クニモト・エンジニアリングの人たちも
 きっと知らないと思いますよ」と付け足しました。

ずっと興味深く話を聞いていた糸井重里は、
微笑みながら、こう問いかけました。

「あなたは、ぼくが想像していたよりも、
 ずっとロックで、ヒッピーな人ですね」

(続きます)





演者のそばのカフェテリア。

シルク・ドゥ・ソレイユの国際本部の入口をくぐり
少し歩くと、カフェテリアがあります。

この本社には、世界40か国以上から
スタッフやアーティスト(出演者)が
集っているので、
なるべく「世界中の料理を出すように」
つとめているのだそうです。
カフェテリアのメニュー表を見ると、
それぞれの料理に
緑、黄、赤の色の表示がついていました。

緑色は「食べても大丈夫」
黄色は「ちょっと注意してくださいね」
赤は「どうかなあ?」
という意味なんだそうです。
出演者の人たちにとっては
体重のコントロールは大切な問題ですもんね。
このカフェテリアには、
社屋のさまざまなセクションから人が集まります。
アーティスト(出演者)のグループの横には総務、
または理学療法士がいたり、そのとなりには
コスチューム担当が座っているのかもしれません。
しかし、
「つねにみんながアーティストと近い存在でいたい」
という理由から、このカフェテリアは
トレーニングルームに隣接しています。
カフェテリアの窓から、
出演者のトレーニングの様子を目に入れながら、
食事をしたりお茶を飲んだりするのです。

(スガノ)

2008-04-09-WED

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