その2 HAPPYになれる色。

菱川 最初に御依頼いただいたとき、
たしか、色見本帳から選ばれた色を
お持ちになりましたよね。
── はい。世界の伝統色の見本から、
こんな色のタオルがつくりたい、
というふうに、色を選んで。
小川 そのとき「BEGINNING」という
テーマのことをお聞きしました。
「はじまりを、はじめよう。」
という‥‥。
── そうでしたね。
小川 そういうふうな思いを、
色をつくるときに
込めたいと考えているんです。
植物にはそれぞれ、
古くから言われている意味や
科学的にも証明されている効能があるので、
そういうことを活かして
このBEGINNINGのタオルの
色をつくったんですよ。
HAPPYになる色を、と。
最終的には、偶然なんですが、
全部お守りの植物が選ばれた。
── おもしろいです!
菱川 そういう思いを、
素直に感じるっていうことが、
ずいぶん減ってしまいましたよね。
センス・オブ・ワンダー。
そんな難しい話じゃなくて、
たとえば子どもが夏休みにカニを見て
「きれいだな」って感動するのと、
「雑誌に、このカニはきれいだって書いてあった」
という知識とでは、ちがう。
植物や、色も同じなんですよ。
自然のものを理解することが、
人間がさずかったすごい知恵で、
すごく大切なことだと思っているんです。
── その色が好き、キレイ、
というだけじゃない、何かですね。
小川 そして、たとえば名前がわかると、
愛着が湧きませんか、植物って?
── そうですね!
小川 道端を歩いていても、よく知らない木と、
「欅(ケヤキ)だ」ってわかって見るのとでは違う。
ただのピンクのタオルじゃなくて、
「椿のタオル」だと、
また愛着度が増しますものね。
── ふだんのお仕事でも、
そんなふうに「思い」をベースに
色をつくっていらっしゃるんですか。
小川 なるべくそうしたいと思っています。
一枚から染めてくださいという依頼は
なかなかお受けすることができないんですけれど。
菱川 たとえばの話ですが、
お祖母ちゃんが病気だから、
どうしても元気にしてあげたいって言われたら、
ぼくならこう考えます。
ギネスブックに一番長い生命として載っている
一万何千年生きてる植物があるんです、カナダに。
その植物の葉っぱが手に入れば、
そこから色素を取り出して、
染めたタオルをプレゼントしたらどうかな、と。
そこに長生きしてねっていう思いを込めて
お祖母ちゃんに伝えることができるでしょう?
そういうことを感じられる生活のほうが、
21世紀型なんじゃないのかな。
── わぁ。
シオンテックさんでは、
そういう植物由来の染料を、
独自な方法で定着させているんですよね。
菱川 天然染料だけだと、
色が変わっていってしまうんですよ。
ずいぶん昔、
藍でポロシャツを染めたことがあるんですよ。
その頃は全部天然でやるのが
ステキだと思っていた。
ところがしばらく積んでおくと、
色が抜けていってしまったんです。
小川 畳んであったりすると、
表面だけ色が抜けてたり、
掛かってると、肩だけライトが当たって、
色が抜けちゃったり。
菱川 高いお金を払って買っていただいたものが、
いくら天然だといえども、
そんなふうに色あせしたら嫌ですよね。
それで、今の手法を考えました。
若干の化学染料で色素補強をするんですね。
小川 ハイブリッド的な染め方です。
ナチュラルだけに頼ると無理があるので。
その方法をとることで、
カラーバリエーションも広がるし、
お客様が染めたいと思う植物から
色を表現することも可能になりました。
菱川 昔の草木染っていうのは、この色はこの植物、
というふうに決まっていたんです。
僕は、そうではなくて、
お花でも何でも、自然物を上手に活かしたいんです。
もちろん、植物の花、葉、樹皮、果実、根など、
いずれも生態系を破壊しないように
選ばれたものなんですが、
そこから染料を抽出して、染めたい。
これを繊維に定着させるためには、
通常、媒染剤といって、
化学的に生成したものを使うんですけれど‥‥。
小川 媒染剤がないと、草木の染料は
植物繊維にはつきにくいですね。
磁石みたいな感じで、植物と植物だと、
反発し合ってくっつかなくて。
動物性繊維、ウールとかシルクには、
プラスとマイナスなので、
植物染料もくっついてくるんですけど。
私たちは、媒染剤を使わない代わりに、
あたらしく開発した助剤で前処理をして、
そこに草木染料がついてくるような
処方になってるんです。

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次回「生活の中に自然物を新しい形で。」に
つづきます。

 

2012-08-24-FRI

 

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