HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN 佐伯チズさんにはできるけど、 わたしにはできないという理由? 2


第7回 違うところが上がる。
佐伯 うちは、ときどきお客さまからスタッフに
チップをいただくことがあります。
そういうときも、チップはみんなで集めて、
みんなのものを買いなさい、
ということにしています。
そうしないと
チップの競争になっちゃいますからね。
ほんとうは、お客さまに自由に
選んでもらうということが
いちばん大事なところですから。
糸井 なるほどねぇ。
佐伯 同じ技術でも、例えば
手の大きさで
受けていただく感じ方も違います。
おしゃべりする人がいいという方もいれば、
しゃべらない人がいい方もいる。
ひととおりやって、選んでくださっていいんです。
糸井 お客さま同士で情報の交換があったり‥‥
それは、やっぱり理想ですよね。
佐伯 そうですね。
糸井 客からしてみれば、お店全体が
自分のことをわかってくれてて、
スタッフの誰が担当してくれても
「こないだのこと」を知ったうえで
やってくれるというのは、
すごく安心ですよ。
佐伯 わたしは、化粧品業界にいましたでしょ。
化粧品は、たいていどこに行っても
同じ物を同じ値段で売ってます。
お客さまは、買う場所を
どうやって選ぶかというと、
デパートなどの売り場そのものにつく人もいれば、
人につく人もいるんです。
なぜ人につくかというと、それは
何かメリットがあるからです。
「いつもサンプルをくれる」
「あの子はいつも言うこと聞いてくれる」
「お荷物預かってくれる」
そういうことになってお客さまと癒着してくると
必ずトラブルが起こるんです。
糸井 うん、うん。
佐伯 会社が「わたしのお休みは○月△日です」
というカードを作らせて
お客さまに配らせたりしてたんだけど、
わたし、大反対だったんですよ。
糸井 なるほど、なるほど。
佐伯 お客さまにお休みの日まで教えて、
「わたしがいるときに必ず来てください」
なんてことをやると、
「あの方は絶対わたしから離れない」
という傲慢さが出てきます。
糸井 それは、すごい‥‥
人間理解の物語ですね。
佐伯 そうなんです。
サービス業というのは
ほんとうにいろんなことが起こります。
先の先を考えておかないと
とんでもないことになりますから、
それを全部徹底しておくのが
お客さまに対する心配りだと思います。
糸井 いいお店の従業員さんって、
だいたい大将のことが好きなんだよね。
ぼくの行ってる焼き肉屋さんの話なんですけどね。
佐伯 はい。
糸井 「今日の肉、おいしいでしょう、
 社長が味つけしたからね」
って、厨房の人が言うんです。
佐伯 ああ、それはいいですね。
糸井 「社長がやると違うの?」
とたずねてみたら
「違うんですよぉ」
って、ふつうに、うれしそうに言うんです。
佐伯 言われるほうも、うれしいですよね。
糸井 うれしい、うれしい。
「今日は社長がいないからサービスします」
と言われるより、ずっとうれしいです。
佐伯 わかります。
そのお店は、みんなが同じ気持ちで
お客さまに接することができてるんですね。
糸井 はい。つまり、
いろんなものの「共有」ですね。
佐伯 うちも、できるかぎりそこは
やっていこうと思っています。
サロンに入ってもらうとき、
わたしの気持ちを同じように
考えてくれるんであればいい。
糸井 ぼくも、勘のようなものだったんですけど、
競争させない会社にしたかったんです。
競争すると
技術が上がるんだって言われるんですけど、
上がるのは技術じゃなくて
何か違うところが上がるような気がして。
佐伯 はい、そうですよね。
糸井 競争と共有って、
両サイドにあるような気がするなぁ。
「あいつ、だめだな」って思うやつまで
養えるお前が偉いじゃないか、
そういう発想のほうが
うまくいくような気がして‥‥。
兄弟だって、そうですもんね。
佐伯 はい。
糸井 そんなんじゃだめだと
言われるかもしれないけど、
なんだか、そのほうが
全体の水準が上がると思うんです。

(続きます)

2010-01-13-WED
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