HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN 佐伯チズさんにはできるけど、 わたしにはできないという理由? 2


第6回 考えのてんこ盛り。
糸井 お客さんに対しても、生徒さんに対しても、
サービスのてんこ盛りみたいなものを
売ってるんですね。
佐伯 はい。
もう、やっぱり必死なところがあります。
糸井 「小チズ」育てを。
佐伯 はい。前期、リウマチにかかって
手がうまく動かせない生徒が
スクールにいました。
糸井 入学はされたんですか?
佐伯 はい。
受け入れた以上、私は、
みんなと同じように、
お客さまの顔の筋肉が上がるような方法を
考えなくてはいけません。
彼女の手が動く部分を教えてもらって、
特別にやり方を編み出しました。
彼女は、40歳を過ぎて
両親を抱えていたんです。
結婚しないで両親のために
仕事で独立したいといって入学しました。
だから、ご両親を安心させなくてはいけない。
糸井 はい。
佐伯 私が手技を工夫して考えたことで、
彼女は感激して、
「がんばります」と言ってくれました。
糸井 もう卒業なさったんですか?
佐伯 しました。
先のコースも取って、
立派に独立しました。
もう、がんばりが違いましたよ。
糸井 手が動かなくても。
佐伯 そうです。
気持ちさえあれば、
いくらでも私は考えて
教えることができるんです。
「佐伯さんのスクールは
 お肌のきれいな人しか採らない」
と言われることもあるんですが、
人をきれいにしたいという人を
採るようにしているわけですから、
肌がきれいな人ばかりではありません。
ニキビがたくさんあった子だっています。
糸井 それはほんとのことだから、
伝わりますよね。
佐伯 はい。多汗症の人もいました。
「べたべたに汗かくんですけど無理ですか」
と言ってきました。
緊張したりドキッとしたときに
汗が出るというんです。
糸井 うん、うん。
佐伯 だったら施術中にドキッとしなくなればいいし、
保冷剤で冷やしながらやっていけば大丈夫。
このお客さまを
ひとりできれいにさせていただこう、
まっすぐにそう思えば
ドキッとしないでしょうし、
そういう訓練をすればいいんです。
「私もスクールに入れる!」と思ったら、
もうそれで彼女は大丈夫でした。
お客さまだって、
どういう方が来るかわかりません。
それにきちんと対応するためにも、
スタッフの側だって、
どんな人でも受け入れて
技術を教えてあげたいという
気持ちがあるんです。
糸井 たくさんいる生徒さんのためにも、
ご本人が活動なさることが
関わってきますから、
やることはどんどん重くなりますね。
佐伯 卒業で送り出せば送り出すほど、
責任が出てきますよね。
ほんとうに、親ガメは大変です(笑)。
糸井 チズさんの、てんこ盛りっぷりはすごいなぁ。
ぼくは、これからはきっと、
「あの人じゃなければ」ということが
仕事になると思っています。
佐伯 はい。
糸井 「あの人でなければ」という要素って
ほとんどが、昔で言う、
「大盛りにしといたからね」という
サービスだと思うんです。
昔は「物」だったり「量」だったりしたけど、
いまは「考え」や「思い」の
てんこ盛りですよね。
佐伯 はい。ですから、お客様が、
「ああ、もうここまでしてくれるの!」と
喜んでくださるのが
わたしたちはやっぱりいちばんうれしいです。
それは、時間かもしれない、内容かもしれない、
その方に合ったものを集中して
さしあげるんです。
糸井 それはいちいちの、
お客さんに合った計らいですから、
頭使いますよね。
佐伯 そうですね。
基本的なところだけは、
はじめのカウンセリングでうかがいます。
「強めがお好みです」
「波の音はお嫌いです」
西洋人の方は
暗い部屋がお嫌いなことがありますし、
2時間半じっとしていられない人もいます。
そういうことを
スタッフみんなで共有できるようにしています。
うちは、担当制度をとっていないので、
技術者が替わるたびに
説明しなくてはいけないなんて、
腹立ちますでしょ?
糸井 はあ、まぁ‥‥
あ、でも、ぼくの行ってる指圧院でも
それ、やってますね。
カルテをもとにして話し合いしたりしてる。
チームでやれるよさというのは、
絶対にあるんですよね。
指名料のあるお店だと
「あいつより俺のほうがいいでしょ?」
というところも、あるんですよ。
自分の指名が仕事になる場合は、
「あいつはだめで俺はいい」を
どう表現するかになっていっちゃうんです。
佐伯 ああ、なるほど。
糸井 すると、そのお店全体が
ぎすぎすするんですよ。
佐伯 そうなんですよね。
糸井 指名料っていうのも、
なかなか危ないものです。
佐伯 指名料を取っちゃうと、何が何でも
自分に指名がほしいので
お客さまに無理をしちゃう。

(続きます!)

2010-01-12-TUE
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