佐伯チズさんにはできるけど、 わたしにはできないという理由?
第5回 100%の仕事。
糸井 人生の物語として、映画のように考えると、
ふつうは絶望の時期がいくらか
あると思うんですが、
チズさんの頭のなかには、その
ちょっとした休みは、なかったですか?
佐伯 なかったです。
山と谷で言うと、
わたしは谷にいるのが、きらいなんです。
糸井 谷(笑)。
佐伯 山が好きなんです。
一同 (笑)
佐伯 自分のお給料は自分で作りあげるものという
会社からのヒントがありましたので
そこから山にのぼることにしたんです。
自分の給料はどうしたら出るんだろう、
もう、お客さまだ!
お客さまさえ来てくだされば、
絶対に、なんとかできる。
その確信がありました。
それから、もっと喜ぶのは、そこの担当者です。
売上があがるから喜んでくれる。
だから、売場の子も一所懸命
お客さんに向かうようになります。
糸井 喜ばせる相手が、チズさんは
ぶれたことがないんですね。
佐伯 はい。
60歳で定年になるとき、お客さまから
「あなたはのんきなこと考えてるけど、
 わたしたちどうしたらいいの?」
と言われました。
わたしはお客さまに支えられてきたのだから、
お客さまになんとかして返さないといけない。
じゃあすいません、自分の部屋の一室で
やっていいですか、と言って
みなさまに来ていただいて、
それがどんどん来るようになって、
わーっ、てなっちゃったんです。
糸井 わーっ、てなっちゃったんですよね。
佐伯 あっという間に100人になって。
糸井 うかがってて、ほんとうに愉快ですよね、それは。
佐伯 1冊目の本を出したときも
辞めた会社のデパートの店頭にいる、
教え子たちのところに行きました。
「あなたのお店何人いたっけ?
 丸善で本買って来るから、
 社員のみんな、買って!」
糸井 いいなぁ。
そう言われたほうもうれしかったでしょうね。
佐伯 そうやって、デパート回って
教え子に買って買ってとお願いして(笑)、
2日間で、100冊近く売りました。
糸井 だって、本を出すほうだって
必死なんですから。
佐伯 そうなの。
そういえば、実はわたし、本は、
お金を出して作ってもらうもんだと
思っていたんですよ。
糸井 そんなこと思ってたんですか(笑)。
佐伯 ええ。
「退職金がちょっとしかないけど、
 まぁいいかぁ」
と思ってたんです。
講談社から銀行口座の問い合わせが来たときも
請求だと思いました。
糸井 いくら払えばいい、って?
佐伯 そうなんです。
そしたら、もらえたんですよ、お金が。
糸井 びっくりしたんですね。
佐伯 ええ。
わたしがなぜ定年退職にこだわったかというと、
理由はいくつかあるのですが、
その内のひとつに、退職金があったんです(笑)。
糸井 退職金がね。
佐伯 かなりの額の差があったんですよ。
ざっと200万くらい。
糸井 大きいですね。
佐伯 だから、定年を迎えるまでがんばろう
という目標をたてることができたんですよ。
糸井 チズさんは、どこまで行っても
ひとつの発想でやってらっしゃいますね。
つまり‥‥企業とか事業という観点からすれば
200万のお金って、
大きいとも言えるし、小さいとも言えます。
だけど、チズさんは、ちゃんと、
その200万を計算できてる。
それはつまり「わたしひとり」という
発想ですよね。
ゼロからいつもはじめられるんですね。
佐伯 はい(笑)。
糸井 ギター1本で流しをやってるような‥‥
それは強いですよね。
誰にも潰せないです。
どこまでもいっても、
ひとりで生きていくという発想が、
チズさんをずっと自由にさせてきたんですね。
佐伯 そうですね。
束縛されることがイヤなんです。
誰かの言うことをきくということは、
自分が抑えられてしまうし、
自分に自信がないことを
させられることになります。
それがすごくイヤだったんです。

自分が仕事をして、100%返したい。
それは自信がなくてはやっていけないのです。
人に言われたことをやるだけというのは、
わたしにはできません。
糸井 だからこそ、そのおかげで
チズさんを雇った人は、
それ以上のものを返してもらうという
関係を結んだわけですよね。
デパートの弟子たちにだって、
すごい財産を渡してますよね。
佐伯 そうですね。
マニュアルもなかったですし、
いろんなものをゼロから作りあげました。
糸井 チズさんの
「ひとりでやっていく」という決意は、
自分ができることを
どんどん増やしていくことになるわけですよね。
それは、どこでどうやって増やしたんでしょうか。
佐伯 それはすべて、現場で
お客さんから訊かれたことからはじまります。
こういうことを求められるんだな、
こういうことに悩んでるんだな、
ということがわかります。
それはみんな仕事の「答え」ですよね。
糸井 うん、うん。
佐伯 それぞれのことについて
満足していただけるように
こちらが考えればいいわけですから。
糸井 質問の中に答えが入ってるんですね。


(つづきます)

チズさんに訊いてみました。その5
── 次の質問です。

チズさんの1日の食事が知りたいです。
いつも召しあがっているものを
教えてください。
佐伯 わたしは、朝食は
ゆっくり摂りたいんです。
ですから、お洋服も前日に揃えておいて、
起き抜けに500ミリリットルの水を飲みます。
そして、トイレに行きます。
そこからちょこちょこお水を飲みつづけて、
ピピピ運動します。
── ピピピ?
佐伯 腹筋1、2、3、
足の蹴り上げ1、2、3、
ピピピって、3回だけで終わり。
それを365日やります。
10回って言われたら、
めんどくさいでしょ?
── めんどくさいです。
佐伯 10回なんて、続かないんです。
ピピピだと続くんですよ。
一同 (笑)
佐伯 それから、顔のチェックをして、
顔をお水で洗って、ローションパックします。
そのままコーヒー入れて、
ローションパックの3分が終わったら、
美容液を入れて、クリームをつけます。
コーヒーを飲みながら新聞を見たりして、
トマトジュースに黒ゴマ入れて、飲みます。
それから、ヨーグルト。
わたしの顔のついた
ヨーグルトがあるんですけど(笑)、
── 何というやつですか?
佐伯 「美しいあした」という名前の
ヨーグルトなんですけどね。
そのヨーグルトには
コラーゲンとセラミドが入っていて、
わたしはそこにショウガを入れて、
朝に食べています。
そんなふうに、いろんなものを食べるんですが
ほんとうにお腹いっぱいにしてしまうと
朝11時からお客さまのお手入れが入ってるので
仕事ができなくなってしまいます。
ですから、朝は
「お腹にたまらないけど
 エネルギーや活力になるもの」
を食べるようにしています。


(お昼ごはん以降については、次回につづきます)

2009-06-04-THU



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