今和泉

将来のことなど一切考えずに、
とにかくじぶんのいる環境を変えたくて、
当時は学区外だったＴ高校に進学しました。

──

Ｔ高校といえば、
都立の中でもトップクラスの進学校です。
勉強は得意だったんですか？

今和泉

そこそこでしたが、
抜け出したい一心でやりました。
あとは正直、運です。

バスケ部と吹奏楽部が輝く、
絵に描いたような
学園生活の序列に入ることなく、
私みたいなマイナーな感性と
特性を持ったまま生き延びていくには、
そこそこ自由が認められる
学校じゃないと生存できません。

──

高校生になったことで、
空想地図の創作に変化はありましたか。

今和泉

中学校のときまでは
ペンで直接描いていたのですが、
高校生になってから、
鉛筆で下書きすることを覚えました。

──

下書き？

今和泉

ペンで描くと修正がしにくいので、
修正を前提にして
全体のラフスケッチを描くことにしたんです。
それをスキャナーで取りこんで‥‥。

──

あ、じゃあ、そこからデジタルに？

今和泉

はい。いまのように
コンピューターで描きはじめたのが
大学１年生からです。

──

そのころも誰に見せるでもなく、
趣味として淡々と描いてたんですよね。
「どこかに発表するぞ」とか、
そういうことも考えずに。

今和泉

まったくです。
それこそ「どこに発表するんだ」
って感じだったので。

──

それこそ誰に見せるわけでもないのに、
なぜ「空想地図」という趣味を、
ずっと続けていたんでしょうか。

今和泉

ひとつ言えるのは、
この趣味はお金がかかりません。
必要なのは紙とエンピツと消しゴムだけ。

大変コスパがいい趣味なので、
お金のない学生にピッタリなんです。
まあ、だからこそ大学で
転機が訪れるのですが‥‥。

──

転機？

今和泉

大学に入ってバイトをはじめたんです。
そうするとお金に余裕ができるので、
バイト代で「青春18きっぷ」を買って、
鉄道で旅をするようになります。
それが大学２年くらいです。

──

旅に‥‥なるほど。

今和泉

そうなるとですね、
現実的な現実逃避として
空想地図で遊んでいたわけですが、
旅に行けるということは、
リアルに現実逃避してる気分に
浸れるわけです。

──

ああ、なるほど。
しかも、地方都市も好きだし。

今和泉

そうなんです。
なので、そのころを境に、
空想地図をほとんど描かなくなります。

──

あぁ‥‥。

今和泉

それで、ひとまず時間があれば、
地方都市ばかり行くようになります。

知らない地方都市を旅しながら、
「ここで人生をリセットできたら‥‥」
なんてことを想像したりするわけです。

──

で、300都市も巡ることに。

今和泉

はい。

──

空想地図という趣味は、
やっぱり現実逃避の手段としても
機能していたということでしょうか。

今和泉

そのためだけじゃないですが、
現実的に非日常生活を想像する舞台として、
空想地図は機能していたと思います。

──

一般的に「非日常に浸る」方法として、
映画やドラマを観る人は多いと思いますが、
そういうのに興味はなかったんですか。

今和泉

結局、映画ってよくできた話なので、
主人公みたいな人生は奇跡なんです。
現実は「ああはならん」ですよ。

まあ、脇役のちょい役の人生なら、
ありえるかもしれませんが、
決して主役ではない私にとっては、
映画やドラマに感情移入することは、
まずありえません。

平凡なじぶんが生きていく平凡な日常を、
いまの日常とちがうかたちで空想する。
それが現実的に
じぶんが想像できる範囲なんです。

じぶんが信じられる
現実逃避が好きなんだと思います。
映画は飛躍が大きすぎます。

──

そういう意味では、地方都市巡りは
ちょうどいい現実逃避ですね。
ウィークリーマンションとか借りたら、
それこそ住んでいる気分になれます。

今和泉

ほんとそうなんです。
地元のスーパーに行って、
地元の食材見て、近所の商店街を歩く。
それだけで本当にたのしいんです。

──

じゃあ、それからは
空想地図を描くこともなく‥‥。

今和泉

まったく。

──

でも、またこうして
空想地図を再開されたわけですよね。
なにかきっかけがあったんですか。

今和泉

ありました。
そこからが私の空想地図の
セカンドシーズンです。

（つづきます）

2018-12-03-MON