キャスティングの よろこびを。  映画と演劇、現場のお話。
第7回 3年前からキャスティング。

糸井 北村さんが手がけるような演劇で
プロデュース公演となると、
そのキャスティングには
やっぱり時間もかけるんでしょうか。
北村 時間のかかる人もいるし、
かかんないで即決の人もいるし、ですね。
糸井 間に合いませんでした、みたいなことは?
北村 は、ないですね。
3年くらい先のキャスティングを
しているわけですから。
糸井 3年ですか。
北村 はい。
たとえばいまキャスティングしてるのは、
2012年と13年の舞台ですから、
そんなに間に合わないってことには
ならないですね。
糸井 3年前から‥‥。
ぼくらは知らないから、
まあなんとなく、
1年くらい前から準備してるのかなと
思ってましたけど、そんなことないんですね。
北村 ないですね。
糸井 映画もそうだってことですか?
杉野 いや、映画はそんなに前からじゃないです。
北村 映画でそんなことやってたらね(笑)。
流行ってる人が、
もうどっかにいっちゃってる
可能性もありますよね。
杉野 それもありますし、
映画の場合は、まぁ、へんな話‥‥
「なくなる」こともあるじゃないですか。


糸井 ああ−、そうか。
杉野 予算組ができなかったりとか、
いろいろな事情で。
ですから主演のかたをつかまえにいくのは、
1年前とかですね。
糸井 なるほど。
杉野 そうするとだいたい、
北村さんの舞台が入ってたりするんです。
糸井 あー、3年前に決めてるから(笑)。
北村 すみません、ほんとに。
杉野 「その時期はシス・カンパニーの
 舞台が入ってるんです」とか言われて。
一同 (笑)
糸井 そうか、そこでは敵味方なんですね(笑)。
北村 そうなんですよ。
舞台はいちばん先に決めますからね。
で、映画があって、
テレビはもっとぎりぎりで決まります。

杉野 そうですね。
糸井 そうかぁ。
じゃあテレビのキャスティングって、
なかなか難しいんでしょうね。
杉野 テレビはテレビで、
いろいろ複雑な事情が
映画なんかよりもはるかにあるので。
北村 でもね、昔はテレビが優先だったんですよ。
わたしなんかが舞台で再来年のスケジュールを
おさえようと思っても、
おさえさせてくれなかったです。
テレビが先に決まってからしか、
事務所がスケジュールをくれない。
糸井 テレビの力が強かった。
北村 そう。
最近は、確実性のある仕事からおさえていこう、
という事務所が増えたから
3年先をおさえられるようになりましたけど、
とにかくテレビがいちばんでしたもん。
糸井 ああー。
北村 いまは変わりましたよね。
杉野 変わりましたね。
糸井 それでラクになった。
北村 ちょっとね、ラクになりました。
糸井 じゃあたとえば、
すっごく悪い人がいたとして。
舞台の約束をしてるのに、
テレビのいい役が決まったら、
舞台を蹴るなんてこともあったんですか。
北村 ありましたよぉー。
糸井 あるんですか?!
耐えられないな、それは(笑)。

北村 ポスターの撮影をした次の日に、
「ドラマが決まったんです」って。
糸井 うわ‥‥。
北村さん、なんて応えたんですか。
北村 「だから? なぁに?」って。
一同 (笑)
北村 まぁ、最近はないですけど、
そういうのは3人くらいいましたね。
糸井 それは少なからずですね。
それはだけど、きついねぇー。
北村 きつかったですよ。
演出の野田秀樹に、
「野田さん、こんなこと言ってきてるんですよ!
 冗談じゃないよね?!」
って言うんだけど、野田は、
「うーん、テレビに出してあげようよ」
一同 (笑)
北村 やさしいの。
でも、やさしいのはわかるんだけど、
「ほかの人を見つけてくるのはわたしじゃん?!
 それを今からやるのはたいへんなのよ?!」
って言うんだけど野田は、
「なんとかしてあげようよぉ」
一同 (笑)

糸井 いや、その感じはわかる。
野田さんは元締めの役だからね。
だから「オレはなんとでもするよ」って言う。
それは、リーダーとしては正しいんですよ。
北村 まぁ、結局キャスティングは、
いつもちゃんと着地させてきましたけどね。
糸井 おみごとですなぁ(笑)。
北村 でも、探すの、たいへんなの!!
一同 (笑)
糸井 それはあれですよ、
北村さんが文句言いながらもやってくれることを
野田さんは知ってるから。
だからこそ野田さんは北村さんを
そこにキャスティングしたとも言えるんで。
北村 うーーーん。
糸井 だから(笑)、野田さんは
自分に文句を言える人を雇ったんですよ。
そうだと思うなぁ。
あんなシビアな芝居をやってるくせに、
すごいですよ。
北村 ‥‥野田さんのいちばんのキャスティングは、
わたしをこの役にチョイスしたこと。
それで納得することにします(笑)。

糸井 いやぁ、おもしろいなぁ。
きょうの話って、
エピソードを積み重ねていったら、
それこそもう映画とかできちゃいますね。
できませんかね、杉野さん。
杉野 キャスティングの映画ですか。
糸井 キャスティングの物語。
いろんなキャラクターが想像つくでしょう。
「断ってばっかりの大物」とか、
逆に「まったく仕事を選ばない役者」とか、
「すっごくいい子なのに演技がひどい」とか、
「ずるさだけでなんとかなっちゃう子」とか。
ちょっとおもしろいかも、そんな映画。
出たがる役者さんは
いっぱいいそうじゃないですか?
杉野 では、糸井さんにも出演していただいて。
糸井 いや、だから!
おれはダメなのわかってるから(笑)。
  (最終回につづきます)
2010-03-18-THU

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