同じじゃないから、愛がある。

糸井重里と古賀史健の「手で書くこと」についての対談

ほぼ日刊イトイ新聞

糸井重里は、昨年の夏から
ある万年筆を使い始めました。
ふつうの万年筆とはちょっと違う、
ノック式の「キャップレス万年筆」です。
すると、使い始めて間もなく、
「書くおもしろさみたいなものを
急に思い出した」といいます。

糸井がキャップレス万年筆を使う
きっかけをつくったのは、
『嫌われる勇気』などの著書で知られる
ライターの古賀史健さんです。
古賀さんも、この万年筆と出合ったことで
「手で書くこと」の大切さについて
あらためて考えたのだそうです。

パソコンを使って文章を「書く」ことを
仕事にしているふたりが
万年筆を使いながら感じている
「手で書くおもしろさ」って、
どんなものなのでしょう。
万年筆を入り口に、
メモ、漢字、マンガ、書、文章、手帳‥‥と
さまざまな角度から語られた
「手で書くこと」についての対談をお届けします。
古賀史健さんプロフィール

古賀史健(こが・ふみたけ)

ライター、株式会社バトンズ代表。
1973年、福岡県生まれ。
出版社勤務を経て、1998年フリーランスに。
著書に『嫌われる勇気』
『幸せになる勇気』(共著・岸見一郎)、
『20歳の自分に受けさせたい文章講義』、
インタビュー集に『16歳の教科書』シリーズ
などがある。

第6回
書の中に流れる時間。

古賀
昔のソビエトの映画「戦艦ポチョムキン」を撮った
セルゲイ・エイゼンシュタインという監督が、
日本贔屓の人だったみたいなんです。
それで、漢字の構造とかをいろいろ知って、
「へんとつくりの関係が、映像の編集と近い」と
言っていたんですよ。
糸井
へえ。
古賀
彼が唱えていたモンタージュ理論(※)とも、
すごく近いと思うんですけど、
漢字では「ごんべん」があれば、
言葉にまつわる記号だ、というのがわかる。
それが視覚的にちゃんとわかった上で、
その言葉を読み書きできるというのは、
すごいことだ、と言っていて。
(※複数のカットをつなぎ合わせて編集する映画の技法)
糸井
そうか。
モンタージュ理論の考え方は
ぼくもけっこう好きなんです。
古賀
さっきの、糸井さんのツリーハウスのメモでいう、
書いたことばとことばが
たまたま隣接しているのとかも、
モンタージュ理論に近いですね。
糸井
うん。この手書きのメモもそうですよね。
ここを見てるとき、まわりのものも
どこかで見えてるんだよ。
それはぼくにとって、すごく大事なんですね。
古賀
そうなんですよね。
糸井
これは前にもどこかで
書いたことがあるかもしれないけど、たとえばね。
花が「赤い」ということを
繰り返していくとする。

赤い、赤い、
赤い、赤い、

って書いていって、
最後に「雪が降る」って書く。
そのとき、雪に赤がうつるんだよ。
古賀
ああー。
糸井
赤いって、ほんとは花のことを言ってるんだよ。
でも、もう雪の中に色が入ってきている。
だから、脳の中では一緒になるし、
絵を描けるんだよね。
古賀
うわあ、ほんとうだ。
糸井
「きれいな人に会いました」
って、これはふつうなんだけど。
「汚いところで」って書き足すと。
古賀
(笑)。
糸井
でも、「きれい」が残ってるんだよね。
ずーっと。
古賀
ああ、残ります。
糸井
いま前川清さんと作っている歌も、ぜんぶそれで。
歳を取ってから恋をする話で、
春の花だの、夏のまぶしさだの、って歌ったあとで
ぜんぶ「~でもなく」って、ひっくり返すの。
そうすると、歌を聞いてる人のなかには
春の花や、夏のまぶしさっていうのは残って、
「秋に~」っていうところと
くっついちゃうんだよね。
そういう、ちょっと、
いやらしい歌なんだけどね(笑)。
古賀
これも、モンタージュですね。
糸井
うん。
さっきの、へんとつくりみたいな。
やっぱり、モンタージュが
好きなんだね、ぼくは。
思い浮かべられるイメージを
できるだけ使いたいと思うんです。
古賀
うん、うん。
糸井
だから、目に見える具体物に、
ぼくの考えも寄っていくんですけど、
困るのは、量子力学的な視点なんだよ。
古賀
量子力学的?
糸井
壁にボールをぶつけてるときは、
跳ね返ってくるという前提でぶつけてるんだけど、
量子力学的には、
ボールが壁をすり抜けて
向こう側に行くという可能性があるんだよね。
タイピングだけであらゆる文章を
つくっちゃうというのは、
壁の向こうにボールをやれちゃうのと
いっしょなんだよ。
古賀
なるほど、そうですね。
糸井
それに慣れちゃうと
体感が失われるんですよね。
古賀
言い方は難しいんですけど‥‥
年配の書き手のかたや作家さんで、
「手書きじゃないとダメなんだ」と言う人も
いらっしゃいます。
糸井
いますね。
古賀
ぼくからすると、それは違うんじゃないかな、
という気持ちもあるんですよね。
それはあなたの世代がそうだったからで、
パソコンを覚えるのが面倒だから
言ってるんじゃないのかな、と。
で、ぼくも決して
「手書きじゃないとダメだ」と
言いたいわけではないんですが。
糸井
うん。
古賀
さっきの、書くと描くの違いみたいな感じで、
糸井さんが以前、
書がわかるようになったきっかけとして
「軌跡をなぞって鑑賞するようになった」って、
おっしゃっていたんです。
糸井
ああ、そうですね。
石川九楊さんの講演で聴いたんですよ。
古賀
それと近くて、
書いている軌跡とか、
つい筆圧が強くなったところとかを
大事にしたいと思うし、
メモを取るときも、
どの位置に何をどうやって書くかっていうのは、
自分の中ですごく大事なんです。
糸井
うん。
書を見るとき、自分の中で
書いた人の速度とか筆圧とか
ぜんぶを再現しながら見ることができる。
こう書いていて、「ハッ!」って筆を払って、
「あー、しまった!」と思ったから
ここで修正した、とかっていうのが、
人の字の中に入ってるんだよ。
そこに、物語がある。
古賀
ええ。
糸井
「そうか、書は時間芸術なんだ」って
気がついたら、
今度は絵を見ることができるようになった。
横尾(忠則)さんの絵を見ていても、
「あ、ここで一回、違うと思ったんだな」とかね。
古賀
はぁー‥‥なるほど。絵もですか。
糸井
横尾さんはずっと
「自分がやってることは未完だ」
って言ってるんですけど、
未完のままだと思うからこそ
いくらでも自分がやり続けられるし、
元気でいられるわけですよね。
「書の中に時間がある」と気づいたことは、
ぼくに、またあたらしい視点を
くれた気がするんです。

(つづきます)

2018-06-02-SAT

ほぼ日の
キャップレス万年筆を
作りました!

ほぼ日のキャップレス万年筆 ¥21,600(税込)

ほぼ日20周年を記念し、
パイロットのノック式万年筆
「キャップレス」をベースにした
「ほぼ日のキャップレス万年筆」を
300本限定で作りました。

キャップレス、つまり
キャップのない万年筆。
ワンタッチで使える気軽さと
なめらかな書き味を兼ね備えた
ノック式の万年筆です。

マットブラックの落ち着いたボディに、
シルバーのクリップを組み合わせた
オリジナル仕様。
重さは30gで、安定感のある使い心地です。
ペン先には18金を使用しており、
字幅は手帳や手紙を書くときに使いやすい
「細字」を採用しています。
ブラックのカートリッジインキが
1本ついています。

この対談で語られたキーワードでもある、
「同じじゃないから、愛がある」
ということを大切にしたい、という思いから、
万年筆の軸部分に、
あることばを入れることにしました。
それは同時に、ほぼ日の創刊当初からある
スローガンでもあります。

「Only is not lonely」

ひとりであるということは、
孤独を意味しない。

この万年筆から生み出されるものは、
あなたにしか書けない、
あなただけのことばであり、文字である。

「書く」ことがうれしくなることばとともに、
長く、大切に、使っていただけますように。

この万年筆の販売は終了いたしました。