これからのこと、ブタフィーヌさんのこと。

その1 「日常」がいちばん好きなんです。

── 『ブタフィーヌさん』は、
このかたちの単行本の出版は、
第6巻をもって、最終刊になります。
この第6巻で、佐藤卓さんとたかしまさんと、
「ほぼ日」のチームで作ってきた
単行本プロジェクトはお終いとなります。
たかしま そうですね。ひと区切りになりますね。
── それだけ発表すると、
なんだかさびしいニュースみたいなんですけれど、
じつはうれしいニュースもあって。
以前、限定数で実験的につくった
バンプレストさんの「ぬいぐるみ」。
これ、LoFtさんがお声掛けくださって、
あらためてつくることになったんです。
たかしま ものすごく、嬉しいですね。
── 単行本プロジェクトが終わっても、
連載はぜひ続けたいと
たかしまさんがおっしゃってくださったので、
ぬいぐるみというあたらしい媒体で
ひろくブタフィーヌさんが
知られていく機会が生まれたのは
ぼくらとしてもすごく嬉しいです。
バンプレストさんは、
「ブタフィーヌさん」を、
「ほぼ日」を知らない人たちにも
ひろげていきたいっていうことを
おっしゃってくださって。
単行本からリレーで受け継いだみたいな、
すごく嬉しいバトンタッチになったと
僕らは思っているんですよ。
たかしま 始まった当初、6巻なんていうのは全然、
夢のような話でした。
ここまで続くとは、考えてなかったですもん。
── なかったですか。
ただ、最初から単行本に「1」とつけていたので、
つまり、1巻だけ出しましょうっていうのだったら、
「1」をつけなかったと思うんです。
ですから、何巻続くかわからないけれども、
頑張ってみようねっていうふうに
始まったプロジェクトでした。
僕(シェフ)、個人的には、
5巻がすごく好きなんですよ。
── ぼく(べっかむ3)もそうです。
5巻を読んでおいていただくと、
6巻がまた豊かな展開を見せるという、
そういう巻ですよね。
たかしま はい。
連載の開始当初は、裏設定として
考えていたお話なんですけれど、
自分でも、まさか、連載の話の中に組み込まれて、
しかもこうやって単行本になるっていうことは
考えてなかったんです。
僕としてもすごく嬉しい巻でしたね。

▲401話「見せ物小屋のスター」より
── ブタフィーヌさんが今の暮らしに
落ち着くまでを、
遡って描いてるんです。
たかしま まだ、ブタフィーヌっていう名前じゃない頃。
── ブタ子って呼ばれてた頃。
「なんか、深かったんだ。」
っていうのが本の帯なんですが、
まさしくそんな、お話です。
あの5巻があっての最終巻っていうことで、
落ち着きどころがとってもいい気がしますね。
6巻は、おじさんとブタフィーヌ‥‥、
ブタ子だったブタフィーヌさんが
一緒に暮らし始めた後の、お話。
たかしま そうですね。

▲498話「あたらしい居場所」より
── 5巻から6巻にかけての連載当時、
担当者なので、たかしまさんに
「これ、この先、どうなるんですか」って聞くとね、
「僕にもわかりません」って。
一同 (笑)。
── よくね、おっしゃってて。
たかしま そうなんですよ。
モヤモヤっとした設定はあるんですけど、
その先とか、本当のところどうなのっていうのは、
実際、ブタフィーが動いてくれないと
わからないっていう部分が多かったので。
── 時系列で言うと、
5→1→2→3→4→6と
なるわけですよね。
たかしま そうです、そうです。
── 6巻のはじまりは、
ロナウドが帰ってくるところからです。
ということは、この1から4の
「ブタフィーヌさん」の世界の中で、
ロナウドはロナウドの、
ひとりの時間がずっと流れてたわけですよね。
たかしま そうですね。はい。
ひとりでウロウロしたり(笑)、
してたんでしょうね。
── そう思うと、本当に
6巻のはじまりが感慨深いんです。
ロナウドが重ねてきた時間を想像しちゃって。
たかしま そうですね。で、ブタフィーに
ブタ子としての過去があったように、
ロナウドの過去も、あるはずなんですが、
僕、やっぱり漠然としか
考えてなかったんです。
でも単行本の「おまけ」に書き下ろしを
するでしょう、そのときに、
「あぁ、そうだったんだ!」
って、やっと、わかって。
ああ、ロナウド、おまえには、
こういう過去があったんだ、って。

▲単行本第5巻書き下ろしマンガより
── うんうんうん。
なぜ彼がタップダンスができるんだろうとか、
どうしてその芸に
そこまでこだわっているのかとか。
いい意味でも悪い意味でも、
すごく執着してる理由とかが、全部、
つまびらかになっていくじゃないですか、
5巻で。で、5巻でお別れをして、
1、2、3、4っていう4巻分、
400話分の歳月を経て、
おじさんとブタフィーヌさんが
ロナウドと再会するところから、
6巻になるわけですね。
たかしま はい。そうです。
久々に帰ってきたんです。
── ははあ〜。

▲506話「飛んできたのは」より
── 何やってたんでしょうね。
たかしま 結構大変だったと思うんですけどね(笑)。
── でも、仲間を作ってたんですよねぇ。
たかしま そうですね。
── ものすごく大勢の仲間を引き連れて、
偶然、ブタフィーヌさんたちの
近くまで来てたんですよね。
── そうそうそう。
たかしま 昔はアヒルの仲間にも
なんか違うっていうことで
疎まれる存在だったんですけど、
タップダンスっていう芸を身に付け、
見世物小屋でブタ子たちと交流するうちに、
何かしらロナウドも変わったっていうことで、
周りに受け入れられる存在になったというか、
仲間ができたっていう感じですかね。

▲527話「ロナウドの仲間たち」より
── 不思議な物語ではあるんですが、
ブタフィーヌさんには、
「無理やり」な設定が出てこないんですよ。
たかしま そうですね。なんかその、
例えばロナウドのロープとか。
── はい、首に捲いているロープ。
たかしま はい、首に巻いてるロープも、
ロナウドを初めて描いた時から、
漠然とですけれど、
「巻いてもらった大事なもの」っていう思いは、
出てきてるんです。
── ほお〜。
たかしま それは師匠に巻いてもらったっていう話を
鮮明に描いたっていうのは、
5巻が初めてなんですけど、
決してそれはこじつけじゃなくて、
ロナウドが出てきた時から
もうそういう存在っていうのはあったんです。
師匠の存在っていうのは。
── でも、物語の中で言うと、
師匠ってちょっとひどくない? っていう。
たかしま (笑)かなりドライな。
── ドライな人でしたよね。
だから、ロナウドにとってみたら、
巻いてもらった大事なロープなんだけど、
師匠にとっては縛り付ける道具なんですよね。
たかしま そうですね。

▲単行本第5巻書き下ろしマンガより
── そういうところが妙に切ない話ですね。
あのう、「ブタフィーヌさん」の世界って、
縁あって一緒に暮らしているひとびとの
小さな世界の話なんだけど、
全ての人に、ちゃんとまっすぐ生きてきた理由とか、
なんて言うんだろうな、
いまの境遇を大事にしたい理由みたいなものを抱えて、
それぞれ、みんなが、そこにいますよね。
たかしま そうですね、はい。
── 偶然、今、生かされたりしてることを、
なんて言うのかな、嫌がったり、
物足りなく思ったり、
私はもっとこうなんだって思ったりしがちな
自分たちに対してすごくね、
「いや、もしかして本当は
 幸せっていうのはさ、
 こういうことなのかもしれないよ」
っていうことを、ブタフィーヌさんたちが、
目の前に出してくれてる気がするんです。
たかしま 僕自身、日常が一番好きっていうタイプなんですよ。
── うん。
たかしま 日々、散歩したりとか、
のんびり絵を描いてるっていう
日常が大好きなタイプで。
ですから、そういうところが
反映されてるのかもしれないですね。

▲501話「雲がご立腹?」より
── たかしまさん、前のロングインタビューで、
実は波乱万丈だったってことが
わかりましたけど(笑)。
一同 (笑)。
たかしま そうですね。あのインタビューは僕の、
もう何年も付き合ってた
知り合いとかも読んでくれて、
びっくりしてました。
── 言ってなかったんですね。
たかしま あんまり、そうですね。
── 言わないですよね、そんなに、別にね。
たかしま 言われてみれば、
話してなかったりしたことも多くて。
── 「俺、実はさ」
みたいなこと、
いまさら、言わないですよね。
すみません、つまびらかにしてしまって。
たかしま いえいえ。
── たかしまさんそのものなんでしょうね、
「ブタフィーヌさん」の世界って。
だからこう、嘘がないというか、
無理なこじつけはないし、
かといって「練り上げた巧妙な伏線」
でもないんですよ。
たかしま はい。
── すごく巧妙に寄木細工のように張り巡らす
伏線とは違うけど、
結果的にすごくいっぱい伏線があって、
へえ〜、そうだったんだ!
っていうのが5巻、6巻ですよね。
たかしま そうですね。あんまり複雑なこと、
僕、できないですしね。
── 結果的に複雑な話になってますけどね。
たかしま うーん、そうですね。だんだん、僕の中で、
ブタフィーヌさんっていうのが、
ちゃんと生きてる存在になってきてるんで、
それで、複雑っていうか、
リアルになってる気はしますね。
同じものを描いてても、
「そういえば、こういう過去があったから、
 今はこうするよな」っていうのを、
逆に教えてもらうような。
── 「そうか、ブタフィー、そうだったのか?!」
みたいな。
たかしま ええ、そうですね。
アイディア段階とかって、
絵を描かずに考えたりすることも多いんですけど、
実際ブタフィーの形を描き始めると、
アイディアで考えてたテキストと
全然違う話になったりするんです。
── へ〜え。
たかしま それは自分でもおもしろいなと思って。
── おもしろいですね。
勝手に、動き出すというか。
たかしま そうですね。
「あれ? 最初と違うけど、
 こっちのほうがブタフィーらしいな」
って落ち着くっていうことも、
結構多いんですよ。
(つづきます)
2009-09-04-FRI
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