BASEBALL
スポーツ新聞を
読みつくすんだ!

第4回
始球式を拒否した男

ラジオを聞いていて知ったんだけど、
広島カープは球団創立50周年を記念して、
今シーズン広島市民球場でおこなわれるゲームでは、
カープの歴史をつくってきた往年の名選手たちを招いて
始球式をやっているそうだ。
そりゃいいことだ。

この国で始球式というと、すぐ女優とかタレントだものね。
あれよくないねという野球好きたちの
まっとうな意見は少なくない。
なのに、なくならないのはなぜなんだろうか。
そりゃ総理大臣の始球式よりはずっといいだろうけど。

5月8日、佐々岡真司投手が中日戦で
ノーヒットノーランを達成した日は
誰が招かれて投げたんだろうか。
外木場義郎氏だったらドラマチックなのになぁ、
生涯3度のノーヒッターが始球式をつとめた試合が
ノーヒットゲームなんてなぁ。
電話して聞いてみました。

その日はソトコバじゃなくてコバ、古葉氏だったそうです。
そうはうまくいかないか。
神宮球場でも毎試合始球式がおこなわれていて、
投げるのは小学生である。
小さなファンは大切にしなきゃね。

僕の知る限りで、この始球式を拒否した男が
ただひとりいた。
誰だ、そりゃ。
94年に巨人に在籍したダン・グラッデンである。

彼はよくトップバッターでつかわれたから、
ほんとなら子供相手に空振りしなくちゃいけない。
それを拒否したわけだ。
では誰が空振りしてくれたのか?
それは2番の川相でした。

拒否とか、そんなおおげさに言っちゃ
いけないのかもしれない。
オレはいいよ。誰か、代わってくれよ。
そんなかんじではなかったのかな。

南部の荒くれ男みたいな風貌の選手だったけど、
ささやかなファンサービスがわからないほどの
石頭でもないだろうに、なぜグラッデンは
このセレモニーの打席に立たなかったのか。

僕はこんなふうに考えた。
グラウンドは戦場だ。
今まさに戦いにのぞもうとしているのに、
リトルボーイの投げるヘナチョコ球を
わざと空振りなんてしてられるか。
それが彼の流儀だったのではないか、と。

この推測はそうはずれちゃいない気がする。
実際、この戦場の危険球をめぐっての乱闘で
名誉の負傷をしたこともあったもんな。グラッデンは。

ことしの3月にジョー・ディマジオ氏が亡くなった。
その訃報記事で、彼はバットにだけは
決してサインをしなかったというエピソードを
はじめて知った。
バットは自分にとってもっとも大切な道具であるから。
それが彼の流儀だったのでしょう。
メッチャかっこいいじゃないすか。
でも、あの奥さんに、ねぇおねがいがあるの、
なんてねだられて書いた幻のサインバットとか
ないんだろうか。
流体力学の前野重雄氏に聞いてみたい気がする。
このテの記事をスポーツ新聞でもっと読みたいよな。

日本人選手にも、タレントのお遊びに空振りで
おつきあいするなんて、オレはごめんだ。
そんな流儀を漂わせているやつがいてもいいよなぁ。
各チームのトップバッターを見渡してみて、
そんな雰囲気がいちばん似合いそうなやつといえば、
うーん、あいそなしの阪神の坪井智哉あたりかなぁ。

1999-05-16-SUN

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