HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN いまの時代のナポレオン。厚切りジェイソン(ジェイソン・ダニエルソン) × 糸井重里
2 とにかく出世がしたかった。
糸井:
あなたは『MOTHER』というゲームを
ずいぶんやったと聞いたんだけど。
ジェイソン:
ええ、いっぱいやりましたよ。
ほんとにたくさん。
英語版も、日本語版も、
たぶんそれぞれ、まるごと10回ずつやりました。
糸井:
あ、日本語のほうも。
ジェイソン:
そう、『EARTHBOUND』(英語版)と
『MOTHER2』(日本語版)の
両方をやってます。何回も何回も。
糸井:
最初は『EARTHBOUND』ですか?
ジェイソン:
そうでしたね。
それは日本語を勉強する前で、
純粋にゲームとして楽しんでいました。
日本のものだということは後で知りました。
糸井:
へぇー。そうか。
ジェイソン:
その後、日本語を勉強しはじめて、
勉強になると思って、辞書を開きながら
日本語版をやりました。
時間はずいぶんかかりましたけど。
糸井:
かかるでしょうねぇ。
ジェイソン:
でもその後、数回やるうちに
辞書も要らなくなって、そのままスムーズに
日本語でできるようになりました。
糸井:
すばらしいですね。
ジェイソン:
いやいや。まぁ、楽しいことをやるのは
良い勉強方法の一つだと思いますね。
糸井:
『EARTHBOUND』の英訳、
なかなかよかったんじゃない?
ジェイソン:
おもしろかったですね。
いろんな冗談とかキャラクターの名前とか、
うまく翻訳したなと思いました。
糸井:
英語の翻訳がどうなってるか、
ぼくは実際にはよくわかってないんですけど、
なかなかいい人が担当してくれたんです。
「この人には感覚が通じてるなぁ」と思える人で
安心して任せられました。
ジェイソン:
はい、おもしろかったですよ。
笑える部分も楽しくて。
糸井:
日本語版って、ひらがなばかりでしょう?
そのことは勉強に良かったですか、
悪かったですか?
ジェイソン:
そこはちょっと悪かったかも。
画質の問題で仕方ない部分もありますけど、
「えぇーっとこれ、なんですかね?」
となることが、ときどきあって。  
糸井:
よく見ると、違う文字だったりするもんね。
ジェイソン:
はい。ほんとにちょっとの違いで‥‥。
いまやるなら、漢字のほうがいいですね。
糸井さんは『ゼルダの伝説』というゲームの
最新作をやったことはありますか?
糸井:
ないです、ないです。
ジェイソン:
すばらしいんですよ。
セリフに「ふりがな」をふれて、
ボタンひとつですぐに表示を変えられる。
意味や読み方を確かめたいときは
ポンと切り替えて、
「なるほどね」「あ、違った!」とすぐわかる。
すごく勉強になります。
糸井:
『MOTHER2』のとき、
技術的には漢字も使えたんだけど、
わざとぜんぶひらがなにしたんです。
みんなが耳で聴いている言葉って、
そういうもののはずだから、その感じを表現したくて。
そのせいでやりづらいとも言われたんだけど。
ジェイソン:
そうですね、ちょっと慣れる必要は
あるかもしれないですね。
糸井:
ごめんなさいね。
ジェイソン:
とんでもないです。
そういえば、いま、たまにテレビの撮影で
カンペを書いてもらうことがあるんです。
だけどそのとき
「ジェイソンは漢字がわからないだろう」
と思った人が、あえて、
全部ひらがなで書いてくれることがあるんです。
でも、ひらがなで区切りを見つけるのって
本当に大変なんです。
声に出して読むわけにもいかないし。
収録中に慌てながら
「あ、ああわ、ええ
‥‥えぇーっ!?
となってます。
糸井:
ひらがな、そうだよね。
ジェイソン:
だから、ぼくとしてはわりといつも、
「迷ったらぜひ漢字で!」という気分です。
糸井:
テレビ以外に、ステージでのライブも
されてるんですか?
ジェイソン:
はい、事務所のワタナベの
「表参道 GROUND」とかでやってますね。
まずはそういう場所でネタ見せして、
ダメ出しをみなさんからいただいて、
ネタを磨いていくんですけど。
糸井:
言われるダメ出しは、納得いきますか?
ジェイソン:
納得できるときが多いですね。
ぼくはいま、いろいろとテレビに
出させていただいてますけど、
自分はまだまだぜんぜん素人だと思うんです。
だから、よりお笑いの専門家の人たちの意見を
すごく大事にしていて、
その人たちより自分が知ってるわけがないから、
何を言われてもちゃんと前向きにやってみる。
そういう立場です。
糸井:
基本のネタは「なにか言って怒る」というもの?
ジェイソン:
いくつかパターンはありますね。
あのぅ‥‥怒ってもないんですけど(笑)。
糸井:
そうか(笑)。
ジェイソン:
今週初めてテレビでやるのは
「心細い」というネタですね。
初めて日本に来た外国人のテイなんだけど、
実はものすごく詳しいという。
糸井:
「こころぼそい」
ジェイソン:
「あぁ、心細いわぁ‥‥」とか
不安そうに言ってるんだけど、
なにか聞かれると、
「あ、それ、そうしたら、
こうでこうで、こうなんですよ。
でも大江戸線、意外と深いから
階段だけで5分かかるよぉ
‥‥あぁ、心細いわぁ!」
糸井:
おもしろい(笑)。
ジェイソン:
外国人だと、変な言葉ということから
ネタができちゃうんですよね。
糸井:
知らないふりしてね。
ジェイソン:
そうなんです。
だから「最後のから揚げ」というネタだと、
「今日は飲み会、うれしいね!
最後のから揚げ、食べれるよ!」
「Why!?」
「外国人だから!」
糸井:
最後のから揚げ(笑)。
1個残った場合のね。
ジェイソン:
「食べればいいのに。
みんな、食べたいと
思っているのに、手が出ない。
Why!? おかしいよ!」
糸井:
外国人だからね(笑)。
ジェイソン:
「トイレ行くときは、
緊急ボタン押してしまうよ」
「Why!?」
「外国人だから!」
糸井:
はぁ(笑)。
ジェイソン:
「だって、英語で『PUSH』しか
書いてないよ。
だったらプッシュするよ」

‥‥とか、そういうパターンもありますね。
糸井:
おもしろい、おもしろい。
ジェイソン:
ありがとうございます。
糸井:
そういうネタは日本で暮らしながら、
もうたくさん気づいてるんだもんね。
ジェイソン:
そうですね。その気づきをいっぱい集めて、
ネタ見せで言ってみて、
伝わりづらいものがあれば
新しいものに変えてみるというスタイルです。
<つづきます>
2016-03-03-THU