横尾、細野、糸井、3人が集まった日。
第4回
つきつめない芸術家。
糸井
自分のやってることには飽きるけど、
自分の世界に飽きないのは
なぜなんだろう?
細野
でも、飽きたあとに
興味が持てるものがなくなったときには、
人間としておしまいだと思います。
ぼくはちょっとそれに近いですよ、いま。
糸井
それは、老人になってきているということですか?
細野
そうです、老人です。
でも、それは寂しいわけじゃないんですよ。
人って、背骨が歪んだりすると、
それのおかげで才能が出てくることがありますよね。
心に病を抱えていると、
それがエネルギーで絵を描くとか‥‥。
糸井
うん、また違うものが出てきますね。
細野
そういうものが治っちゃって、
人間として健全になると、
実は何もする必要がなくなっちゃうことに
気がついたんですよ。
糸井
いつ頃?
細野
まぁ、20年くらい前かな。
糸井
20年前っていったら、
まだけっこう若いですね(笑)。
細野さんは、ぼくよりひとつ年上ですけど、
わりと早く年を取ろうとしてますよね。
細野
そうなんです。
いつも老人のシミュレーションしてるから。
会場
(笑)
細野
加齢っていうのはほんとうにこういうことなんだと
最近わかってきました。
いま、この3人の中でいちばん
ぼくが身体弱いですよ。
糸井
自慢しないでくださいよ。
細野
横尾さんは、病気自慢しないね。
糸井
病院にはしょっちゅう行ってますけどね。
横尾さんは、展覧会を見ても、
絵の1枚ずつにちゃんと飽きているのがわかります。
細野
たしかに。
糸井
そのわりには作品の反復をしている。
横尾さんは飽きることに関して、
どう思っているんですか?
横尾
うーん‥‥、まぁ、
気が多いってことでしょうね。
それから、
「達成感」とか「完成」とか「目的」とか、
そういったものを頭から排除しちゃってるし。
糸井
「達成感」を排除しちゃってるんですか?
横尾
「目的」「結果」みたいなものには
あんまり興味がなくプロセスにしか興味ない。
すべての仕事が「未完」で終わるんです。
日常生活もそうだし、
人間関係もすべてひっくるめて全部
「未完」で終わるほうがいいと思う。
だから、我々の関係も、
ぼくの中では未完です。
細野
うん、そうですね。
横尾
誰かとつきあうことになって、
その人に粘着して全部が見えてきたりすると、
つまらないでしょう。
だから、その手前で、未完にしてしまいます。
それが生活全域、創造全域に行き渡ってるんです。
もともと人間は完成して生まれてきてないじゃない?
糸井
はい。
横尾
未完で生まれてきている。
だから、何かを完成させる必要はないと思うんです。
未完で生きて未完でものを作って、
未完で死ねばいいんじゃないかな。
糸井
お若いときからそうでした?
横尾
うーん‥‥、
若いっていうよりも、子どもの頃かな。
糸井
子どもの頃?
横尾
10代の、人格が形成される期間に、
ちゃんとしたビジョンとか、目的とかを
ぜんぜん持ってなかったということも
理由としてあると思います。
何かに熱中するとか、
何かを達成させるとかいう気持ちがぜんぜんなかった。
「まぁどうでもいいじゃないか」、
関西だと「しゃあない」みたいな感じ。
答えを出そうとか、
問題を解決させようとするのが面倒くさくて、
「もうそれはええやんけ。放っておけや」
という体質が、
子どもの頃の生活環境の中に入っていました。
友達もひっくるめて、
そういうやつがいっぱいいたんですよ。
親も飛び出してるし、先生も飛び出してた。
糸井
それはふつう、大人になるときに
治されちゃうものじゃないんでしょうか。
一度も、捕まえられて治されることなく、
済んでますよね。
横尾
ぼくは横尾家に養子で来た子どもで、
奔放に、したいようにさせるのが
親の考え方だった。
糸井
それも運がいいと言えばいいですよ。
細野
ねぇ。
横尾
だから、ある意味で、
わがままになってしまったわけですよ。
糸井
(笑)いまも充分わがままですよ。
横尾
まぁ、いまの仕事っていうのは、ある意味で、
わがままでなければできない仕事に
就いちゃってると思うんです。
やっぱり、生まれ育ちで
決定されるようなことがあると思うよ。
糸井
でもそれはよかったですね。
横尾
よかったか悪かったかわからないね。
糸井
細野さん、いまの話を聞いてて、
自分と違うところと、同じところ、ありますか?
細野
うん、聞きながら考えてたんだけども、
共通点のほうを多く感じますね。
糸井
うんうん、
ぼくもそう見てます。
細野
横尾さんとは世代的にずいぶん違いますけど、
ぼくの場合は、学生の頃、
「ドロップアウト」の時代でした。
どこかから逃げていく。
中心にはいたくないと、
どんどんドロップアウトしていって、
田舎に住んでみたり。
音楽的にもそうです。
日本の中心にある音楽から離れて、
辺境のほうに行くんです。
日本語を使わないで、カントリー歌ってみたりしてね。
で、深くつきつめるのが
嫌だったというのも似てますよ。
糸井
それは、ぼくも近いです。
細野
あぁ、ほんとう?
糸井
つきつめるのは嫌です。
細野
嫌ですよね。
たとえば家族でも、問題があって、それを‥‥
糸井
「話し合いなさい」とか言われると。
細野
そうそう、だめ、それ。
それで解決するわけがないって
知ってるから。
放っておいたほうがいい。
時間が解決してくれます。
糸井
なるようになる。
細野
なる。
それですよ。
なるようになるようになるのがいちばん好き。

(つづきます)
2016-11-30-WED