荒木さん。


第8回 音出して隠し撮りしろ。
糸井
でも、この『ダ・ヴィンチ』の連載も、
ずいぶん長いことやってますよね。
荒木
知らないうちに十何年‥‥え、17年?
すごいねぇ。
糸井
いやあ、すごいですよ。
荒木
仕事に限っての話じゃなく
続けてるといいことあるよ、なんでも。

この連載(「裸ノ顔」)も、
かなりいい線、行ってると思うんだよ。
糸井
展覧会をやったのも、よかったですね。

雑誌の誌面で見てるだけだと
わかんなかった感覚ってありましたし。
荒木
載ってる顔ぜんぶ、親近感あるでしょ。
それは「偶像」にしてないから。

みんな、優れた作品は
「オブジェ」だと思ってるじゃない?
ダメなんだよ。
相手をオブジェにしちゃったら、ダメ。
糸井
オブジェって「決まり文句」ですもんね。

「最高の決まり文句」ってのも
まあ、きっとあるんだと思うんだけれど、
荒木さんは、それ、やってない。
荒木
とくにさ、「人の顔の写真」の場合は
オブジェにしちゃダメなんだよ。
糸井
女も、男も。
荒木
うん。
糸井
女で「裸ノ顔」やると、どうなんですか。
荒木
いけるだろうね。

いろんな得意技を引っ張り出してやろうと
こっちだって思うから。
「媚び」だとかさ、「裏切り」とかさ、
そういう「得意技」をね。
糸井
男は、芸が一本調子なんですかね?(笑)
荒木
単純なんだよ、何かを隠すときの仕方が。

秘密なんか当然バレてるし、
毒だって、あ、毒だってバレちゃうから。
女の毒は、わかりにくいよ。
糸井
何か、おいしいものに混ざってて、
「そこ、おいしいでしょう」って毒ね(笑)。
荒木
強敵だよ。
糸井
あ、荒木さん、
『荒木』って写真集、出してくださいよ。
荒木
いいね、それ(笑)。
糸井
あるいは『俺』とか。自写像、撮って。
荒木
でも、レンズが「鏡」になってるようにさ、
あっちの顔も鏡になって、
そこに俺が写ってるからいいってところが。
糸井
あるんですか。
荒木
うん。あっちの目に写ってんだよ、俺が。
だから顔はやめられない。
最後は顔に到達しちゃうの、どうしても。
糸井
性的なことって、
みんながみんな「隠してる」からこそ
価値を持つけど、
大っぴらに出しまくってるのに
価値があるのって「顔」だけですよね。
荒木
だから、女がすごいなあって思うのは、
化粧で変装しちゃうでしょ?

男たちより、何枚も上手(うわて)。
もっと上手な女は、整形しちゃうし。
糸井
うん、うん(笑)。
荒木
でも、他方で「嘘の魅力」ってあるから。
糸井
ああ、ありますよね。
荒木
嘘は美しいよ。
糸井
荒木さん、昔から
『女高生偽日記』みたいにさ、
偽だの嘘だのって。
荒木
今年の写真集のタイトルも
まさに『写狂老人日記 嘘』なんだ。
糸井
「集大成」じゃないですか(笑)。
荒木
だってホラ、「嘘なんだからね!」って‥‥。
糸井
ちゃんと言ってあげないと?
荒木
写真は、曖昧でも伝わるんだよ。

言葉のほうが
「そうか」って納得させる力があるけど、
写真は「いい加減」でいい。
糸井
うーん。
荒木
いい加減に撮って、
いい加減に出して、ぜんぜんいい。

それは、その人が、決めればいい。
糸井
いま気づいたんだけど
基本的に「手元で見る」ようにできてますね。

荒木さんの撮る写真って。
荒木
そう。手元に置いたときにさ、
両目で見たときの視野に入るくらいの感じが
いちばんいいと思ってるかな。
糸井
いま、ちょっと千葉大っぽかった(笑)。
荒木
この写真集って
ただ、撮った順に並べてるだけなんだけど
写ってる人同士の出会いも、
何となく感じるところが、おもしろいんだ。
糸井
じつは、顔の大きさとか
ぜんぜん統一して撮ってないですね。
荒木
次のこと計算してやってないからね。
糸井
使ってるカメラは、同じなんですか。
荒木
うん。やっぱり音がないとダメだから。
「ガシン」って、デカい音が。

見られたい、撮られたい、さらしたい、
そういう気分に対して、
こっちが「音」でこたえてやらないと
関係がうまくできないんだよ。
糸井
さっきの話で、あっち側とこっち側を
フィルム一枚で隔てた
「結界」のようなものが、音でも必要。
荒木
そう。
糸井
いま、世の中全体としては
「音」って嫌がられる傾向ですものね。

なんとなくですけど。
荒木
いやあ、もう、
ちゃんと「音」出して隠し撮りしろって
言いたいよ。
糸井
なるほど(笑)。

そうか、さっきぼくを撮ってくれたのも
ちゃんと撮ったようだけど
あれはあれで、「隠し撮り」ですもんね。
荒木
そうだよ。
今日、いい写真、撮れてるよ。親近感で。
糸井
さっきも言ったけど、
カメラマンの人に「笑ってください」って
言われても、むつかしいんですよ。
荒木
うん。
糸井
でも、あるときに攻略法を考えたんです。

それは「笑ってください」って
言われたときに
「ちょっといやらしいこと」を考えるの。
荒木
あはは(笑)。
糸井
するともう、いくらでも笑えるんですよ。
ほんと、びっくりするくらいに。
荒木
あははは(笑)。
糸井
なんかもう、最近では
心の中で「おっぱい」ってつぶやくだけで
オッケーになってるし。
荒木
あはははは(笑)。

<つづきます>
2015-11-16-MON