荒木さん。


第6回 俺、前立腺がんでね。
糸井
荒木さんが「私」を中心にして、
「私の世界」から
覗き穴で写真を撮ってたことと
一見、似たようなことを
いまの若い子もしてるじゃないですか。

でも、なにかが違うんですよね。
荒木さんと、いまの女子高生は。
荒木
や、女子高生にされちゃったよ(笑)。

でも、そう言われるとね、なんかさ、
「やるなあこいつら」
と思うところって、けっこうあるよ。
糸井
たしか「Vine」って言って
6秒くらいの短い動画でも、ありますね。

女子高生がバンバン撮ってアップしてて
しょうもないんだけど
なんだか、妙におかしいのが(笑)。
荒木
そうなの。
糸井
みんながみんな、カメラを持つようになって、
昔、荒木さんがやってたことを、
女子高生でもやるようになったと思うんです。

だから、そういう子たちがやるのと、
荒木さんがやるのと、何がどう違うのか‥‥。
荒木
たぶん、最初にはじめたやつが偉いとかって、
そういう話じゃないんだと思うんだよね。
糸井
ですよね。
荒木
だから、おもしろいよ。

いま、歩くのがね、調子もちょっと悪いから、
車の窓から撮ってるんだけど。
「クルマド」って。
糸井
荒木さんが、車の窓から外を見て、
写真を撮ってるんですか?
荒木
そうそう、パッとね。

それがね、ちゃーんと「いいとき」に
渋滞とか赤信号にひっかかるのよ。
糸井
へえ。
荒木
神さまだか運転手だか知らないけれど、
決めてくれるんだ。

「荒木、ここがいいよ」って(笑)。
糸井
なるほど(笑)。
荒木
しかも、車の窓枠だからさ、
すでに、フレーミングしてあるんだな。

それがまた、いい感じで。
糸井
「他力本願」(笑)。
荒木
そうそう、もうぜんぶ、他力本願だね。
今、タクシーに撮らせてるんだ、写真。
糸井
いいなあ。
荒木
ここんとこ、ずっとやってんだけどね。
もう歩くのも面倒くさいから。

表通りから裏まで見えるとかって
豪語してんだけど、
そんなの、見えるはずもなくてね。
糸井
うん。
荒木
また別で「東京3歩」って考えたんだ。

つまり3歩しか歩かない。3歩目で撮る。
タイトルから来るから、俺。
そしたらね、地下鉄が
「東京三歩」ってクッキー出してたんだ。
で、やめにした。
糸井
ああ、残念でしたね(笑)。

かといって
4歩めで撮っても、意味が、ねえ(笑)。
荒木
そうなんだよ。

だから俺、前から言ってんだけど、
ビビッと「思いついた!」みたいなことは、
世界で5人くらい、
まったく同じことに気づいてるって、
思うことに決めてんの。
糸井
ええ。
荒木
で、その中のひとりくらいは
すでにアフリカの果てでもうやってる、と。
糸井
つまり、何か思いついたときっていうのは、
その成分が
世の中に満ちちゃってるときだから
たまたま、
俺のところでも火花が出ただけだと。
荒木
そう。
糸井
にしても荒木さん、「火花」多いですよね。
荒木
多いかもねえ(笑)。
糸井
それは、いつも考えてるから?
荒木
うーん、なんかね。
糸井
いつも考えてはいない?
荒木
うん、別にいつも考えてはいない。

いないけど、いまは絶好調かもしれない。
寝そべってるときに、
アイディアがガンガン浮かんでくるから。
糸井
そうなんですか。
荒木
うん。
糸井
ぼくも、すこし前に友だちが亡くなって、
なんでだか、
いま、アイディアがいっぱい出るんです。
荒木
そういうことって、あるよね。
糸井
そうやってふわふわ浮かんでくる材料を
バッと捕まえたいのかなあ。
荒木
俺、前立腺がんでね。
糸井
ええ。
荒木
するとさ、不思議なことに
仕事が、それに関わって来るんだよ。

まず『東京ゼンリツセンガン』だし、
その次に『東京ホーシャセン』だし。
糸井
そういう名前の写真集が、できたと。
荒木
がんのおかげで、次のができちゃうの。

血栓で片方の目が見えなくなったときは
『左眼ノ恋』ってのが、できちゃった。
糸井
はー‥‥。
荒木
(エド・ファン・デア・)エルスケンに
お返ししたってわけ。

俺の『セーヌ左岸の恋』だってね。
糸井
あはは、なるほど(笑)。
荒木
いま、自分のなかで流行っているのは、
青山墓地の道を抜けるところ、
あそこを撮るのに、カメラの「日付」を
つねに「8月15日」に固定してるの。
糸井
つまり、ぜんぶ「8月15日の写真」になる?
荒木
そう、バッて撮ったら、8月15日。

で、そうやって写真を撮ってるとさ
どうしても、
レンズを叩き壊すしかなくなってね。
糸井
叩き‥‥壊す?
荒木
そう、レンズを、こうやって叩き壊す。

そうせざるを得なくなって
そういうレンズで、路や空を撮ってる。

<つづきます>
2015-11-12-THU