「日本はひじょうにユニークな国です。
 世界一ピースフルな場所かもしれません。
 なにしろ多様な祖先を持っているんですから」   

DNA検査の話になって、
斎藤一郎先生はそうおっしゃいました。

「同じDNAを持ってる人たちがたくさんいる場所は、
 排他的だったと言えるんですよ。
 他の人が入って来られないようにしていたわけだから。
 純血主義で他民族を排除するようなね。
 ところが日本って、ロシアから渡ってきたり、
 朝鮮半島から来たり、ポリネシアから来たり、
 大きくはその3つに分かれるんですが、
 DNAを調べると、もっともっと細かいんですね。
 いろんな人がいて、共存して生きてきた。
 そして、どのタイプのDNAを持っている人が
 どんな病気にかかりやすいのかが、
 統計的にわかる。
 そうすると食生活をこういうふうにするべきだ、
 こういう運動をすべきだ、
 そういうアドバイスができるんですね」


なんという説得力!
それで診断されたら、ぐうの音も出ませんね‥‥。

「みんなで同じ物を食べてても、
 ある人だけ糖尿病になっちゃって、
 他の人はならないことがある。
 糖に対する反応性が人によって違うわけですよね。
 これはDNAに由来するんです。
 ちょっとのものを食べても血糖がピンと跳ね上がる人は、
 すこしの食料で元気になれる人ということです。
 なかなか食料が入手できなかった先祖から
 その体質を受け継いでいるわけですね。
 そういう人は、人間としては効率がよかったわけです。
 そのDNAがあったからこそ、
 その時代、その場所で生きながらえて来たわけですよ。
 いま、飽食の時代になって
 何でも食べられるようになっているわけなので、
 そういう体質の人であれば、
 食べすぎを制限していかないと
 糖尿病になってしまいます。
 現代には合わんということです。
 自分のそういう遺伝的な素因を知って、
 毎日の生活にあてはめ、食事の量だとか、
 食べるものの内容を考えていかないと、
 将来的に病気になるリスクが高くなる。
 同じタバコを吸っていても、
 肺がんになる人とならない人とがいるのも、
 ある程度、遺伝的な素因で説明できるんじゃないかって
 言われていますよ」

わかっちゃいるけど、やめられない。

お話を聞きながら、ぼくは食べることが大好きで、
快楽として食べたいぐらいの、
食べてる時が楽しくてしょうがないっていう人間だ、
ということを考えていました。
運動する理由も、食べられる身体をつくりたいという一心。
なかなかやめられない「満腹になるまで」の食べ方が、
よくないのだろうなということは
アタマでは理解していても、
いまはまだ、快楽に負けているんだと思うんです。
でもDNAはこうですよっていう
事実を突きつけられたら、
案外あっさり心は変わるかもしれない‥‥。

「人間ドックのように病気を見つけるための検査では
 ないけれども、
 自分にとっての弱点が見つかるかもしれないですね。
 それをそのまま放っておくと将来、病気になるから、
 ここはコントロールしよう! ということです。
 それは長くおいしいものをずっといただくために
 必要なことです。
 いま一過性の快楽で終わらせるか、
 またはずっと食を楽しむっていうことを
 もっと長く続けるためにはどうしたらいいか」

続けたいです!

「先生、この人、朝から
 トンカツ揚げてるような人なんですよ~」

あ、にしもっちゃん! シーッ!!
今日はパスタだよ。たらこスパゲティー食べてきた。

「だめじゃないですか‥‥」

そういうにしもっちゃんだって、
走って健康に見えるけど、
だいぶ前だけど、腸の不具合起こしたじゃない。
入院までして!

「そう、だからぼくも危機感があるんです。
 だから健康管理にめざめたんです。
 武井さんは太ってることで健康に見られる、
 そのことで、いい気になってますね!」

ガーン。
ホルモンレベルで寿命の傾向がわかっちゃう?

でもそうだ、
「見ての通り、俺は平気だ!」みたいなね。

「やせろって言うとカチンとくるじゃないですか。
 アレでしょ、このくらいの太っちょのままでも
 けっこう人気者! みたいな具合で
 ごまかしごまかし行けるだろうって
 思ってるんじゃないですか」



‥‥この男、妙なところに鋭くて、
人が傷つくことをさらりと言うね。
でも、まあ、このルックスで言うのもなんですが、
モテ欲はあります!

「(笑)ホルモンレベルの検査もしましょう。
 いま48歳だったら、48歳の基準からすると
 上回っているのか、低いのかって」

それは先生、つまり、男としての魅力が出てるのか、
そうでもないのかっていうのが、わかるわけですね!

「それもありますが、
 DHEA、デヒドロエピアンドロステロンって
 ホルモンの検査をするんですよ。
 われわれの体の中には
 50何種類のホルモンがあるんですけども、
 それの元になるホルモン、
 マザーホルモンだって言われてる、
 それのレベルを測るんです。
 いままでのデータでは、そのホルモンが高い人ほど
 特に男の人は長生きだって言われているんですよ」

ああ、やっぱり怖い‥‥。

「ちなみに唾液の量とホルモンレベルって
 相関するんですよ。
 外分泌液って、そのホルモンによって
 調節されているので、
 唾液量の多い人ほどホルモンレベルが
 高い傾向があります」

「武井さんはよだればっかり垂らしてるから
 きっと高いですよ!」


にしもっちゃん、うるさいっつうの。
でも、ぼく、ときどき
よだれがピュッと出ることあるんですよね。

「それはすごく高いかもしれないですね」

よし、検査の時はおいしいもののことをを考えて
よだれをいっぱい出そう。

ドライシンドロームって、なに?
ところで先生、エッチなことを考えてたら
唾液の量は増えるものなんですか。

「‥‥そんなことはありませんね。
 ふつうは食欲と連動しますから。
 でも、自分が好きなものをイメージした時に、
 唾液の分泌が亢進するわけだから、
 食べ物じゃなくて性という人もいるでしょうね。
 性ホルモンっていうのは
 唾液中に分泌されるんですよ。
 つまり男性だったら唾液中に
 テストステロンが分泌されるんです。」

そういえば先生の専門は「口の乾き」ですよね!

「そうですね。専門分野の話をしますと、
 いま、ドライシンドローム(乾燥症候群)が
 増えているんですよ」

ドライシンドローム?

「目が乾いて、口が渇いて、皮膚が乾いて、
 髪の毛が乾いて、膣が乾く。
 悲しいけど泣けない人とか、
 愛しているけど濡れない人が増えてきている。
 ストレス社会の話が出ましたが、
 そのことでドライアイ、ドライマウス、
 ドライスキン、ドライヴァジャイナが増えているんです。
 分泌液っていうのは侮れなくて、
 自分のメンタルなものを反映しているっていうふうに
 ぼくは考えています。
 医学用語で言うと、分泌液は
 自律神経支配で、交感神経と副交感神経に
 コントロールされているんですが、
 緊張すれば口が渇くし、
 リラックスすれば唾液が出るというのと同じで、
 他の分泌液に関しても同じようなことが言えるんですよ」

つまり、渇きは、全身の症状であると。

「だから髪の毛に潤いを、とか、
 肌に潤いのヒアルロン酸など、
 潤いをテーマに商品を開発すると、
 物が売れる時代になってきてるわけですよね。
 飲むと分泌液が増えるっていうお薬もあって、
 前回、女性の潤い不足に対する薬が一般的ではない、
 という話をしましたが、口腔のものとして、
 ぼくらが処方してる薬はほんとうに一部分ながら、
 とても売れてるんですよ。
 ちなみにコンビニのレジやキヨスクのところにある
 飴、ガム、タブレットが
 1兆円産業だって言われていますが、
 潤い系のものも増えましたよね。
 それは何を意味してるかっていうと、
 どれだけ乾燥症状を持った人がたくさんいらっしゃるか。
 そして女性の乾燥肌っていうように、
 女の人に多いんですよ」

大阪のおばちゃんが
「飴ちゃん」っていうのもそうですかね。

「それもそうです。中高年は渇きによって
 口の不快感が出て
 滑舌が悪くなるので、飴ちゃんをなめるわけです」

ああ、なんだか深いアンチエイジングの世界。

(つづきます!)

たまに武井さんと昼ごはんに行くんですが、ある日のこと。
武井:「今日は何食べる?」
西本:「今朝は90分走って、自転車で会社に来たから
    腹減っちゃって。今日はがっつり食べたいなあ。
    武井さんが大好きな(店があるんです。)
    とんかつなんかどうですか?」
武井:「とんかつかあ、今日はやめとくよ…。」
西本:「えっ!いつもは、二つ返事で
    いいね!とんかつ!という武井さんが」
武井:「明日、人間ドックなんだよ。
    だから、今日くらいは控えめにしないと」
西本:「(心のなかで)今日だけ、
    控えめにしても痩せないって…。」

2014-06-12-THU