「箸置きって、アンチエイジングなんですよ」

鶴見大学教授、そして
「日本抗加齢医学会」の副理事長であり、
ご自身も若々しくお顔もつやつやな
斎藤一郎(さいとう・いちろう)先生が、
ぼくらを前に、
そう言いました。

▲先生、やっぱりお顔がつやつや。アンチエイジングなさってるにちがいない!

箸置き。です。箸を置く、あの箸置きです。
先生、意味が‥‥意味がわかりません!

「箸置き、お持ちですか?」

はい、持っています。一応。使っていないですけれど。
箸置きって、作家ものでも、
案外求めやすい価格だったりするので、
「器は手が出ないけど、箸置きなら」
と、買うことがあるのです。
でもほとんどが食器棚のなかでオブジェになっています。
客人が来るとき、使うことがある程度かなあ‥‥。

▲武井の自慢の箸置きコレクション。すてきな作家ものがずらり! ‥‥使えよオレ。

斎藤先生はおっしゃいます。

「何のために箸置きというものがあるのだろうって、
 考えてみるといいですよ」

箸置きの役割ですか。
それはもう、箸を置くためですよね。
ただ、テーブルセッティングとしての
箸置きはわかるんですが、
食事中に使うかというと、使わなくなりませんか。
左手に丼、右手に箸、食べ終わるまで、
わっしょいわっしょい、かっこみますから、
箸置きってほとんど不要な気が。

「なるほど。では順をおって説明しましょう。
 なぜ箸置きが、アンチエイジングになるのかを」

そう言って斎藤先生は白衣の襟をぴっとただしたのでした。

「いま、いちばんエビデンスレベル
 (臨床結果によって示される医学的な根拠)が高くて、
 長寿にいちばん結びつくのは、
 カロリー制限なんです」

ぎゃああああ! カロリー制限!

「カロリーを制限すると健康になるっていうのが、
 サルでもヒトでも証明されています。
 『腹八分目』っていう言葉がありますが、
 だいたい七分目、八分目ぐらいを食べてる人が
 いちばん長寿になるという結果が出ています。
 ちなみにぼくら医師が、
 武井さんのようなかたに
 いちばんよくない食べ物だと言うのは
 何だと思われますか」

それはやっぱりカロリーが高いものですよね。
‥‥カツ丼とかでしょうか。

「そうです。カツがいけないわけでも、
 ごはんがいけないわけでもありませんが、
 『丼もの』というのは注意していただきたいんです。
 つまり、食べ方です。
 カツ丼だとか、牛丼だとかっていうのは、
 一気に食べちゃうじゃないですか」

はい、もう離さないです。
ちなみにカレーも一気です。
カレーは飲み物だと
TVでウガンダさんが言う前から
ぼくも思ってました!

「カレーは飲み物!」

はい、カレーを食べるときなどは、
食べ終わるまで、スプーンをテーブルに置きません!

斎藤先生はふうっと息を吐き、
やさしくやさしく話しはじめました。

「説明しましょう。

 一気にどんどん食べるとどうなるか。
 血糖値がバンと上がって、
 膵臓からインシュリンがドバっと出るんですね。
 それを繰り返していると、
 『2型糖尿病』になるリスクが高まります。
 ちなみに100歳以上の人に、
 基本的に2型糖尿病っていないんですよ」

ということは、逆に言うと、
2型糖尿病にかかった人に
長寿の可能性は、低い‥‥。

「そして、いま、アルツハイマー病が
 『第3の糖尿病』だって言われています。
 1型っていうのは膵臓が壊れていく病気、
 2型っていうのは一般に生活習慣病で
 インシュリンの効きが悪いことに起因する病気です。
 そしてアルツハイマー型の認知症が
 『第3の糖尿病』と言われるのは、
 いつも糖を摂取することによって、
 脳の神経細胞が働かなくなるということなんです。
 糖尿病の薬を飲むと認知症が進行しなくなった、
 という症例報告もあるんですよ。
 要するに血糖値が上がることががひじょうによくない」

はい、そこまで、よくわかりました。
けれども先生、そこと「箸置き」は
どんなふうにつながるんでしょうか。

「箸置きを使ってほしいんです。
 そして、ゆっくり食べてほしいんですね。
 一口食べたら、箸を置く。
 それを気づかせるための道具が、箸置きです。
 つまり、懐石料理の食べ方っていうのが
 ほんとうにベストです。
 最初に八寸とか先付とか出て来て、
 いちばん最後に炭水化物が出てきますよね」

はい、ごはんが、最後にほんのちょっとだけ!

「ちょっとだけって(笑)!
 ああいう食べ方がベストなんですよ。
 日本が世界の最長寿国だっていう背景には、
 日本のライフスタイルっていうのがあった。
 箸置きがあって、順番にいただくということですね。
 そうすると、いきなり血糖値は上がらない。
 いちばん最後に炭水化物を食べ、
 徐々に血糖値を上げていく食事の仕方ですね」

先生‥‥反省しきりです。

「満腹感の問題もありますね。
 ゆっくり食べると、満腹感が出るので、
 カロリー制限になるんです。
 一気にガンっと食べると、ドーンとお腹に入って
 満腹中枢が『満腹ですよ』っていうまでに
 タイムラグがあるわけです。
 ドーンと食べて、じゅうぶんなカロリーを摂っているのに
 満腹中枢が働くまでの間、さらにどんどん食べちゃう。
 それでカロリーオーバーになるんです。
 ゆっくり食べていると、量が少なくても、
 だんだん徐々に満腹中枢が効きます。
 だから箸置きなんです。
 ひとくち食べたら箸置きを使う。
 きちんと噛んで、しばらくしてからまた食べる。
 それが日本古来のライフスタイルです。
 箸置きだってね、健康にとって必要なかったら
 なくなっちゃったと思うんですよ。
 だけど、いまだにあるっていうのは、
 ああいうものを使ってた人たちが
 長寿で楽しくて元気に暮らしていたんですよ。
 だからもういっぺん、そういうライフスタイルには
 意味があるんだと認識してほしいんですね。
 せっかく先人が教えてくれているわけですからね、
 おしゃれで箸置きを置くのもいいんだけど、
 箸置きを使った食習慣っていうのに
 意味があるっていうことですよ」

むかしながらの智慧、先人の教え。
その地域ならではの食文化とか、
きっとそれぞれ意味があるんでしょうね。

「昔ながらの伝承とか、言い伝えだとかですね。
 たとえば花梨の木が生えてる家は長寿だとか。
 それは、いま、ポリフェノールがいいというのは
 ちゃんとエビデンスがある話なんですけれど、
 花梨からそれを積極的に摂っていたことに
 なるのかもしれません。
 調理の方法だとか、いろいろなレシピにしても、
 健康にいい、長寿になる成分を特化できるような
 方法が、受け継がれていることもあるんです。
 ちなみに、それは日本だけのことじゃないんですよ」

ブルガリアのヨーグルトみたいなことですか?

「それもありますね。もっと身近なところでは
 フランスの長寿のヒミツ、というものがあります」

えっ、先生、フランスって長寿国なんですか?

(まさか! つづきます!)

斎藤先生の話を聞いて、
「箸置き」を探してみたんですが
なかなかいいものが見つからないんですよ。
武井さんがもっているような「作家もの」は
趣味はいいんだろうけど、
ちょっと年齢層高めな感じなんです。
うちは小学生の子供もいますから、
オトナもコドモも一緒につかえて、
なおかつチープに見えないもの。
「なかなか、いい箸置きがないんですよねえ」
なんて、ことを言いながら
武井さんと伊勢丹新宿店の調理道具売場を
ぶらぶら歩いていたら見つけましたよ!
鍋で有名なフランスのル・クルーゼの箸置き
「これなら、オトナもコドモも使えるし、
 食卓もなんだか楽しくみえる。
 洋食にも似合うしね」と家族からも来客からも
評判いいです。

2014-05-15-THU