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  2006/04/21/FR
 
Vol. ニューオリンズでの音楽生活−4
人種のるつぼアメリカにいて思ったこと、
想像することの大切さ


初めて生まれ育った国、日本を離れ
アメリカに暮らすことで、
喜怒哀楽含めいろんないろいろな気持ちを経験しました。
人種のるつぼアメリカという国に暮らす中で、
アメリカ人にとっての
日本やアジアに対する認識に触れました。
暖かい出会いも多かった反面、
正直いうと私というアジアの人間に対し
どこか下に見ているような態度で
接する人にも多く会いました。
肌の色の白や黒、黄色の別。
または西洋か東洋か。
それを人間の優劣として捉える現実。
この世界には、生まれながらにして
根拠なく優越意識を持っている人間と、
根拠なく下に見られている人間がいるという
現実に身を持って触れることで、
この問題の根深さを感じました。
それはアジア人に囲まれて生まれ育つ中では
感じえない気持ちでした。


ニューオリンズではその辺りに関わりの深い事件を
頻繁に目の当たりにしました。
先に述べたHot 8 Brass Bandのメンバー、
ジョーが警察に射殺された事件も、
事件の詳細が明らかになるにつれ
(ここには書きませんが)、
実は人種問題が絡んでいると思わざるを得ませんでした。
事件が起こった場所が黒人街でなければ、
白人警察によってジョーはめちゃめちゃに
撃たれなかったのではないか、という声が多くあります。

ジョーが亡くなった直後から、
Brass Bandのミュージシャンたちは
事件についてジョーについての曲を作り、
今でも繰り返し演奏しています。
「なぜ? なぜ?
 ジョーは殺されなければならなかったのか?」
という歌詞です。
ある日、私の居合わせたセカンドラインでの出来事。
ジョーについての曲をミュージシャンも聴衆も
目に涙を浮かべながら演奏し、踊っているとき、
警察が慌ててやってきました。
演奏はまもなく抑止され、
別の曲を演奏させられました。
ジョーの曲による群衆の鼓舞、
警察への反感の増長を恐れたのだと思います。
自由の国アメリカはどこに行った!?
とその時思いました。


ジョーの事件についての報道もそうでしたが、
現実に起っている出来事と、
ニュースとして切り出された(切り出すことのできる)
記事の間には、
相当のギャップがある可能性があるということに、
いつも私達は目を光らせねばならない思います。
そして、やはり、
現実に自分で見聞きしたことでなければ、
真の部分を逃してしまうことも
多々あるだなと思いました。

ハリケーン当初、
被害に関する報道を日本で見ているときも、
やはり現実に起こっていることはどうなのか?
とニュースの行間を探っていました。
私の知るニューオリンズとは
あまりにちがう映像の端々を見ながら、
被害の甚大さ、ニュースだけでは知りえない、
実際に何が起こっているのか、
何が問題なのかという部分を一生懸命想像したものの、
分かりきれないもどかしさがありました。
そんな中で、遠隔地にいる自分たちに何ができるのか?
「Bound For Glory」の二曲の音楽を通して、
ニュースに切り取られた情報からだけでは分からない
真実の部分について、
遠くにいながら生々しく想像する
きっかけになったらいいな、
という気持ちをたくさん込めてみんなで演奏したのでした。
ニューオリンズの出来事だけではありません。
世界中に起こっているあらゆる出来事について、
生々しく想像をすることにも
繋がっていくように願っています。


(つづきます)

 

Photographed by Ann Sally

 
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